生涯を通じて健康な歯でいるために「予防歯科」をはじめましょう

生涯を通じて健康な歯でいるために「予防歯科」をはじめましょう

「予防歯科」とは、むし歯などになってからの「治療」ではなく、なる前の「予防」を大切にする考え方。歯科医院でのプロケアと、その指導に基づいたセルフケアの実践が大切。セルフケアのポイントは、「歯垢を残さず落とす」「フッ素を口の中に残す」「細菌を増やさない」の3つ。生涯健康な歯でいるために、予防歯科を始めましょう。

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20代で「むし歯になったことがある人」は約9割

今では、ほとんどの人が毎日歯を磨いていますが、皆さん、歯のすみずみまできちんと磨けている自信はありますか?「歯磨きには自信があるから大丈夫」「悪いところがないから歯科医院に行かない」と油断していると、実は「きちんと磨けていないところがある」「自覚症状はなくても、隠れたところにむし歯がある」などのケースが多々あります。実際、厚生労働省の調査※1では、20代では約9割、40代ではほぼすべての人がむし歯を経験しています。
生涯を通じて健康な歯でいるためには、むし歯などになる前の予防が大切です。
今回は、最近よく耳にする「予防歯科」について、詳しく紹介します。

  • ※1 厚生労働省、「平成23年歯科疾患実態調査」、2011

「予防歯科」についてもっと知ろう!

予防歯科とは

「予防歯科」とは、むし歯などになってからの「治療」ではなく、なる前の「予防」を大切にする考え方です。生涯を健康な歯とお口でいるためには、歯科医院などでの定期的な健診などを通じて「プロケア(プロフェッショナルケア)」を受けることと、歯科医師や歯科衛生士の指導に基づいて自分自身で行う「セルフケア」の両方で、予防歯科を実践することが大切です。

予防歯科で大切なのは、歯科専門家の指導に基づいた毎日のセルフケア

皆さんが行っている毎日の歯磨き。でも、それがほとんど自己流で、自分に合っていない歯磨き方法だと、予防の効果が十分発揮できません。予防歯科で大切なのは、歯科医師や歯科衛生士の指導に基づいた毎日のセルフケア。歯並びなど、お口の状態は1人ひとり異なるので、磨けていない部分はないか、どんなところにむし歯ができやすいかなど、プロの目でチェックしてもらい、歯磨き方法なども指導してもらいましょう。

子どもの「予防歯科」については、こちらの記事もご覧ください。
学校歯科健診と歯科医院の検査は違うの?子どもに必要な「予防歯科」

むし歯を防ぐ「セルフケア」の3つのポイント

歯科医院などでの指導を受けて、ぜひ見直してほしいのが毎日のセルフケアです。
歯磨きは習慣になっているけれど、「ただなんとなく磨いている」という人はいませんか?
大切なポイントは以下の3つです。

・「歯垢」を残さず落とす
・「フッ素」を口の中に残す
・「細菌」を増やさない

できることから1つずつ、毎日の歯磨きに取り入れてみてください。

「歯垢」を残さず落とす

毎日のセルフケアでまず大事なことは、「歯垢」を残さないようにていねいに歯磨きをすること。皆さんは歯のこまかい部分まで磨けていますか?

「歯垢」とは、ズバリ「細菌のかたまり」のこと

「歯垢」というと、「食べカスのことかな?」と思うかもしれませんね。実は歯垢は「プラーク」とも呼ばれ、歯の表面に付着して増える「細菌のかたまり」です。1mgの歯垢には約2億~3億個もの細菌がいるといわれ、むし歯や歯周病、口臭などの原因になります。

歯垢が残りやすいのは、奥歯と歯間、そして歯と歯茎の境目!

歯垢は粘着性が強く、歯の表面に付着します。特に、奥歯のかみ合わせや、歯と歯の間、歯と歯茎の境目など、歯ブラシでは磨きにくい部分に残りやすいので、これらの部分は意識して磨くようにしましょう。

歯垢を徹底的に取り除く歯磨き3つのポイント

歯磨きは、歯ブラシでのブラッシングが基本ですが、歯並びの悪いところや歯と歯の間には歯ブラシの毛先が届きにくく、歯垢を完全に取り除くことができません。そのため、「タフトブラシ」や「デンタルフロス」を合わせて使うのが効果的です。

1. 歯ブラシはお口のすみずみまで届き、歯垢をしっかり落とせるものを

歯ブラシは、お口の中で動かしやすい大きさのものを選びます。奥歯の奥まで届くようヘッドは薄くてコンパクトなものがおすすめです。毛のかたさは、歯茎が健康なら「ふつう」を選びます。もし、歯茎から出血するようなら「やわらかめ」の歯ブラシでやさしくていねいに磨いてください。
ハンドルの形状も要チェック!ハンドルの動かしやすさなど、握った時にフィットするものを選びましょう。

また、歯ブラシは毛先が開いていると、歯面にきちんとあたりにくくなり、汚れを落とす力が弱くなってしまいます。たとえ毛先が開いていないように見えても、長く使っていると毛に弾力がなくなって、汚れを落とす力が弱まってしまいます。毎日使う歯ブラシは1か月に1本を目安に交換しましょう。

<毛先の開いた歯ブラシは汚れ落とし効果が低下>

出典:(公財)ライオン歯科衛生研究所、日本小児歯科学会報告会、1985

歯ブラシの交換時期については、こちらの記事もご覧ください。
歯ブラシの「交換時期」を守ってきちんと汚れ落とし!

2. 歯ブラシの届きにくい場所は「タフトブラシ」で

普通の歯ブラシでは磨きにくい「歯並びの悪いところ」「奥歯の奥」「矯正装置の周り」などにおすすめなのが部分磨き用の「タフトブラシ」です。タフトブラシなら、磨きたい部分にピンポイントで毛先が届きます。歯ブラシで磨いたあと、気になるところをタフトブラシで磨くようにしましょう。

<タフトブラシの使用がおすすめの場所>

タフトブラシの使い方については、こちらの記事もご覧ください。
自分の歯並びに合わせて磨ける「タフトブラシ」の使い方

3. 歯と歯の間の歯垢は、デンタルフロスで!

「デンタルフロス」は、細い繊維(フィラメント)を束ねて糸状にしたもので、歯と歯の間の狭い隙間に通して、歯ブラシでは落とし切れない歯垢をかき出すことができます。そのため、歯ブラシとデンタルフロスを併用すると、歯と歯の間の歯垢を落とす効果は大幅にアップします。歯垢除去率が1.5倍に上昇したという報告もあります。

<歯と歯の間の歯垢除去率は、こんなに差が出る!>

※山本他、日本歯周病誌、1975

デンタルフロスには、ホルダータイプとロールタイプの2種類があります。
ホルダータイプはホルダーにフロスが取り付けられているもので、初めての方でも使いやすいタイプです。これには、前歯に使いやすい「F字タイプ」と奥歯にも前歯にも使いやすい「Y字タイプ」があります。
ロールタイプは必要な長さのフロスを切り取り、指に巻きつけて使用するタイプです。清掃している歯の面の感覚が直接指に伝わるので操作性が良く、しかも経済的です。
デンタルフロスは自分の使いやすいものを選んでいただければいいのですが、初めての方や上手に使えないという方は、挿入しにくい奥歯にも使いやすいY字タイプがおすすめです。

<デンタルフロスの種類>

デンタルフロスの使い方については、こちらの記事もご覧ください。
「デンタルフロス」を使ってお口の中をよりキレイに!

「フッ素」を口の中に残す

歯をむし歯の原因菌から守るために、心強い味方になってくれるのが「フッ素」です。フッ素を口の中に長く残すように意識していますか?

「フッ素」は、食べ物にも含まれる元素

「フッ素」は、自然界にある元素の1つです。海水や土壌のほか、私たちが普段口にしている食べ物やお茶にもフッ素は含まれています。フッ素は様々な研究から、むし歯予防に高い効果を発揮することがわかっており、今では世界の多くの国で「フッ素配合のハミガキ」が普及しています。
ハミガキに配合されているフッ素には、「むし歯予防」に役立つ3つの働きがあります。

POINT

フッ素の大きな3つの働き

1. 「再石灰化」の促進

歯から溶け出したカルシウムやリンの再沈着(再石灰化)を促進します。

2. 歯質を強化

歯の質を強くして、酸に溶けにくい歯にします。

3. 細菌が酸を作るのをおさえる

歯垢の中のむし歯原因菌の働きを弱め、酸がつくられるのをおさえます。

POINT

ハミガキのフッ素を「口の中に長く残す」3つのポイント

ハミガキに含まれるフッ素は、歯磨きをしている最中だけでなく、歯磨きをしたあとも口の中に残り、少しずつ作用します。そのため、フッ素をなるべく口の中に長く残すように、歯磨きの仕方を工夫しましょう。

1. ハミガキは適量をつける

フッ素の効果を十分に発揮させるため、年齢に応じて、適量のハミガキをつけます。1回に使用するハミガキの量は、成人では1~2cmが適量です。

2. すすぎは少量の水で1回程度に

水ですすぎすぎないこともポイントです。成人の場合、10~15mlの少量の水で、1回程度にしておきましょう。

3. フッ素を口の中に残す工夫がされたハミガキを選ぶ

フッ素が配合されたハミガキは数多くありますが、フッ素を口の中に残す工夫がされたハミガキを選びましょう。

フッ素の効果を高める歯磨き方法については、こちらの記事もご覧ください。
すすぎは少ない水で1回!「フッ素」配合ハミガキの上手な使い方

就寝中を「歯質強化タイム」に

「就寝中は唾液が減少する」ということをご存じですか?唾液の分泌量は1日のなかでも変化が見られ、就寝中は昼間に比べて減少します。「寝ている間に唾液が減る」ということは、「フッ素」が唾液により流されにくく、口の中に残りやすくなるので、フッ素が効果を発揮するには良い条件ともいえます。
「自分はむし歯になりやすいと思う」「歯科医院で初期むし歯があると言われた」といった方は、普段の歯磨き習慣に加え、就寝前の「フッ素ケア」をおすすめします。その際は、フッ素が長くお口にとどまるように設計された、ジェル状のフッ素配合ハミガキがおすすめです。歯の表面をくまなくコーティングし、泡立ちにくく、使用後は1回のすすぎでもすっきりさせることができます。

就寝前のフッ素ケアについては、こちらの記事もご覧ください。
就寝前の簡単「フッ素ケア」でむし歯のリスクを減らそう!

「細菌」を増やさない

ていねいな歯磨きやフッ素ケアを心がけている方でも、「寝ている間」は盲点ではないでしょうか。細菌が増えやすくなることを知っていますか?

むし歯の原因菌は寝ている間に増殖する!

唾液には、お口の中の細菌などを洗い流す自浄作用があります。ところが、寝ている間は唾液の分泌が少なくなるので、むし歯の原因となるミュータンス菌などが、増殖しやすくなります。

<唾液中の細菌数の変化(イメージ)>

「翌朝まで細菌を増やさない」ためには寝る前のケアが大切

寝ている間に増えてしまう細菌に対抗するには、食後の歯磨きだけでなく、寝る前のケアも大切です。
市販されているデンタルリンスやマウスォッシュには様々な種類がありますが、殺菌剤が配合されている製品が効果的です。子ども用の製品もあるので、「ブクブク、ペッ」ができるようになったら使うようにしましょう。

デンタルリンスとマウスウォッシュの使い方については、こちらの記事もご覧ください。
「デンタルリンス・マウスウォッシュ」の選び方・使い方

健康で長生きするために、「歯のケア」は欠かせません

「歯を失うなんて、まだ先のことだしピンとこない」という方もいるかもしれませんね。
でも、本当に歯を失ってしまうと、おいしいものを食べる喜びや、おしゃべりをする楽しみまで奪われてしまいます。また、歯とお口の健康は、口の中だけでなく、全身の健康にも影響することが明らかになっています。健康でイキイキと暮らすためには、「歯のケア」は欠かせません。
10年後、20年後、30年後にも、毎日の生活を楽しんでいられるように、今こそ「予防歯科」をはじめましょう!

この記事を作成・監修した
マイスター

平野 正徳

オーラルケアマイスター

平野 正徳

ひらの まさのり

オーラルケア関連の基礎研究ならびに開発研究に20年以上携わってきました。 これまで得た知識と経験を活かして、歯とお口の健康に関する情報をお伝えします。

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