「むし歯菌が親から子にうつる」って本当なの?〜子どものむし歯の予防策〜

「むし歯菌が親から子にうつる」って本当なの?〜子どものむし歯の予防策〜

「むし歯菌は親から子にうつる」という話を聞いたことがありますか?実はこれ、科学的根拠がある話なのです。親の口腔内環境を整えることが、子どものむし歯予防にもつながるという調査報告もあります。一方で、むし歯菌がうつってもすぐにむし歯につながるわけではなく、食器共有などで菌がうつることを気にしすぎる必要がないという意見もあります。いずれにせよ「甘いものを食べるのを控える」「お口のケアをきちんとする」などで、むし歯が発生するリスクを減らし、家族で歯の健康を守りましょう。

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「むし歯菌は親から子どもにうつる」って本当?

同じスプーンやスキンシップを通して「むし歯菌は親から子どもにうつる」という話を耳にしたことがあるでしょうか。この話、まことしやかに語られた都市伝説なのか、根拠があっていわれていることなのか、疑問に思ったことはありませんか?

実は、様々な研究結果に基づく科学的根拠のある話なのです。

むし歯の発生とむし歯菌

そもそもむし歯はどうしてできるのでしょうか。歯の表面には、細菌を含んだネバネバとした汚れ「歯垢」が付着します。歯垢の中の細菌は、私たちの食べものの中の糖分をエサにして酸を出します。この酸が歯を溶かすことによりむし歯が発生します。多くの種類の細菌が酸を出しますが、中でも特に「むし歯菌」とされるのが「ミュータンス菌」または「ミュータンスレンサ球菌(連鎖球菌)」などと呼ばれる細菌です。

ミュータンス菌は、通常は左下の電子顕微鏡写真のような形をしています。この細菌は、砂糖が加わると、これをえさにして、歯垢のもととなるネバネバ物質をつくって歯に強くくっつく性質があり(写真右下)、これがほかの細菌と異なる大きな特徴です。さらに砂糖や他の糖もえさにして歯を溶かす酸もつくります。ネバネバ物質と酸の両方をつくることにより、ほかの細菌と比べて、むし歯を引き起こす力がとても強いのです。これが「むし歯菌」と呼ばれる理由です。

砂糖がない状態のミュータンス菌

砂糖がない状態のミュータンス菌

米粒状の1つが1つの菌。球状の菌が鎖のように連なる「連鎖球菌」の一種

砂糖を加えた状態のミュータンス菌

砂糖を加えた状態のミュータンス菌

砂糖が加わると、「ネバネバ物質」を出し、これが菌とかたまりを作りながら強く付着して歯垢を形成する

親子から検出されるむし歯菌のタイプは共通している

一口に「ミュータンス菌」といっても、実はいろいろなタイプがあり、グループ分けもされています。母子を対象にした研究で、「多くの親とその子から性状が同じミュータンス菌が検出された」という複数の報告が1970年代からされており、2000年以降も含め、性状だけでなく遺伝子の解析など、多方面から検討がなされました。
そして、親と子では共通のミュータンス菌がいる、すなわち親から子にうつっていることを示す研究結果が積み上げられてきました。さらに、これら多くの論文を系統的にまとめて再解析した論文においても、子の世話をする人から子への、中でも主に母親が世話をする場合は母から子への、ミュータンス菌の伝播には科学的根拠があると結論づけられる、と述べられています※1
このように、「ミュータンス菌が親から子にうつる」のは憶測や都市伝説ではなく、科学的な根拠をもっていわれていることなのです。

  • 1 出典:Valeria de Abreu da Silva Bastosら、J Dentistry, 2015

むし歯菌に感染しやすいのは、1歳7か月から2歳7か月頃

むし歯菌、つまりミュータンス菌は、生まれた時から口の中にいるわけではありません。ミュータンス菌のすみかは「歯」。そのため、歯が生える前は検出されません。
乳歯は生後6か月頃から生え始めますが、特にむし歯菌に感染しやすいのは、奥歯(臼歯)が生えそろってくる19か月から31か月(1歳7か月から2歳7か月)」頃といわれています。この期間は「感染の窓」と呼ばれており※2、窓が開いているこの間は特に注意が必要です。

むし歯原因菌の感染時期※2

むし歯原因菌の感染時期

  • 2 出典:Caufieldら、J Dent Res, 1993

保護者の口腔内環境が整うと、子どものむし歯予防にもプラスの効果!?

実は過去の複数の研究結果で、親の口腔内環境やお口のケアが、子どものむし歯や口腔内環境に影響する可能性があることも、わかっています。

親がむし歯菌を大量に持っていると、子どものむし歯菌の感染率が大幅アップ!

母子を対象とした研究で、母親のミュータンス菌が唾液1ml中に10万個※超検出されると、その子どものミュータンス菌感染率が大きく上がるという報告があります※4

親の唾液中のミュータンス菌数と子どものミュータンス菌感染率※4

親の唾液中のミュータンス菌数と子どものミュータンス菌感染率

  • 3 正確には10万CFU/ml
  • 4 出典:Berkowitzら、Arcchs.oral.Biol. 1981

親がお口のケアや食事指導を受けると、子どももむし歯になりにくい傾向が!

同じく母子を対象とした研究で、唾液1ml中に100万個超のミュータンス菌が検出された、3~8か月の子どもを持つ母親に、口腔ケアや食事指導などを行ったところ、指導を行わなかった母親と比べて、指導を行った母親自身のミュータンス菌が減ったのに加え、

子どものミュータンス菌感染率も減った!
3歳(36か月)時点で、子どもがむし歯になった割合も低かった

という報告もあります※5

親へのむし歯予防措置と子どものミュータンス菌感染率
およびむし歯有病者率※5

親へのむし歯予防措置と子どものミュータンス菌感染率<br>およびむし歯有病者率

  • 5 出典:Köhlerら、Arcchs.oral.Biol. 1983, 1984

子どもだけでなく保護者も、お口のチェックやケアをきちんとする

このような過去の研究は母子間、つまり母親と子どもの間で行われていたため、母親と子どもについての結果しかありませんが、母子間だけでなく、子どものお世話をする人のお口の状態が子どもに影響する可能性が考えられます。

子どもの健康な歯を守るためにも、子ども本人はもちろん、親や祖父母など、子どものお世話をする保護者の方も、しっかりとお口のケアをしましょう!

子どもにむし歯菌をうつさないための対策は?

むし歯菌をうつさないために、親子でのスプーンなどの食器共有は控えましょう、などともいわれますが、ここでは、「乳幼児期における親との食器共有について」として歯科関係の2つの学会から別個に発信された情報をご紹介します。

2023年8月に日本口腔衛生学会からは、離乳食開始前、つまり食器共有していない時期から、スキンシップなどにより親のお口の中の細菌は既に子どもにうつっており、食器共有などによる細菌感染を気にしすぎる必要はないと述べられています。さらに、むし歯の原因菌はミュータンス菌だけではないこと、むし歯に影響する砂糖の摂取や歯みがきの要因なども考慮した日本の研究で、3歳児において親との食器共有とむし歯との関連性(「むし歯菌の感染との関連性」ではなく、「むし歯との関連性」※6)は認められなかったことなどから、むし歯予防には、砂糖の摂取を控え、親が仕上げみがきを行って歯垢を落とし、またフッ化物(フッ素)を利用することが推奨されています※7

一方、202312月の日本小児歯科学会からの発信では、「母親をはじめとする養育者から子どもへ、むし歯の原因菌は伝播することが明らかになっています。養育者から子どもへの伝播を生じる原因としては、家庭での生活におけるさまざまな接触が考えられ、食器やスプーンなどの共有がその一つになっている可能性は否定できません。しかし、むし歯の原因菌が子どもへ伝播することを最小限にとどめるためには、食具を共有しないことに限らず、養育者がきちんと歯科健診を受けてむし歯や歯周病のない口腔内を保ちながら子育てをおこなうことが、子どものむし歯を予防する上でも大切であると考えています。」※8と述べられています。

いずれにしても、これらで述べられているような、むし歯のリスクを減らしていくための基本的な対策を家族みんなでしっかり行っていきましょう。

そのほかにも気をつけたい!むし歯の予防策

POINT

おやつをだらだら食べさせない

子どもにとっておやつは欠かせないものだと思います。ただし、長時間かけてだらだら食べると、むし歯の原因となる細菌のえさがずっと口の中にあることになります。むし歯菌がネバネバ物質をつくり、歯垢として強く歯にくっつくとともに、酸をつくり続けることになって、むし歯になるリスクが高まります。規則正しく時間を決めて、おやつを楽しむようにしましょう。

フッ素の活用もおすすめ

特に乳歯や生えたての歯は酸に弱いので、フッ素配合のハミガキを使い、歯質強化に努めましょう。子どもが小さい場合は、お口に水を入れても飲み込まずに「ブクブクうがい」ができるようになったら、使い始めましょう。むし歯菌が酸をつくり出すのを抑制したり、歯の表面を酸に溶けにくい性質にするなど、むし歯予防に役立つ働きがあります。

子どもとのスキンシップを思いきり楽しむためにも、家族みんなでお口のケアをきちんとしていきたいもの。口の中をキレイにして、子どもにむし歯菌をうつすリスクをコントロールしながら、自信を持ってコミュニケーションができるといいですね。

TEACH ME, MEISTER!
教えてマイスター!

子どもにうつるのは、むし歯菌だけ?

お口の中の「菌叢(きんそう)」も似てきます

最近、テレビや雑誌などでも見聞きする「腸内フローラ」というワード。腸の中には種類も数も多くの細菌がすみ着いていて、顕微鏡で見るといろいろな花が咲き乱れるお花畑(フローラ)のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。

腸内フローラは、善玉菌や悪玉菌など多種多様な細菌で構成されています。細菌の数や種類、比率はひとりひとり違っていて、体調や生活環境でも変わります。このような細菌の集団を、専門用語では「菌叢(きんそう)」といいます。つまり、「菌の草むら」と例えているのですね(「叢」は「草が群がり生えること、草むら」の意味)。

口腔内、腸内、皮膚それぞれに固有の菌叢がある

口腔内、腸内、皮膚それぞれに固有の菌叢がある

実は、口の中にも多くの菌が存在し、腸内フローラと同じように、その人固有の菌叢(口腔フローラ)がつくられています。お口の中の「いろんな細菌のバランス」が形成されていると考えるとわかりやすいかもしれません。

従来は、「お口の健康と細菌の関連」について、むし歯菌や歯周病菌など特定の病原菌だけに注目していました。最近は、口腔細菌全体、つまり「菌叢」に視野を広げ、その人が持つ口腔細菌の種類や比率などから、お口の健康との関連性を探る研究も行われるようになりました。

ライオンの研究では、口腔内の菌叢も母親と子どもで類似性があることがわかりました。49組の母子を調べたところ、「親子での菌叢の類似性」と、「子どもとほかの48人の親との類似性」を比べると、親子の方が共通している菌の割合が高く、類似性が高いという結果になりました※9

母子間で共有している菌の割合※9
(共有する菌の、子での存在比率)

同じく夫婦の菌叢を、夫婦同士、または配偶者以外の人とで比較すると、夫婦同士の方が類似性が高く、また、共通する菌の割合は親子同士より高いという結果も得られました※9。すなわち、親子より夫婦の方が菌叢の類似性が高いという結果でした。年齢も菌叢に影響するので、大人と子どもの比較より、大人同士の方がより近いということもあるかもしれません。

夫婦ー非夫婦間で共有している菌の割合※9

親子や家族の間では、むし歯菌だけでなく、全体的な菌叢も似る傾向があるのは興味深いですね。

  • 9 出典:城ら、第57回 日本小児歯科学会,2019

この記事を作成・監修した
マイスター

深澤 哲

オーラルケアマイスター

深澤 哲

ふかさわ てつ

オーラルケアの技術開発ならびに製品開発に約25年間携わってきました。
これまでの経験を活かし、オーラルケアと健康生活に関わる有用な情報をお届けしていきます。

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