
「むし歯菌が親から子にうつる」って本当なの?〜子どものむし歯の予防策〜
「むし歯菌は親から子にうつる」という話を聞いたことがありますか?実はこれ、科学的根拠がある話なのです。むし歯菌がうつりやすいのは幼児期なので、特にご注意を。大人の口腔内環境を整えることも、子どものむし歯予防につながります。お口のケアをきちんとして、むし歯菌をうつすリスクを減らし、家族で歯の健康を守りましょう。
「むし歯菌は親から子どもにうつる」って本当?
同じスプーンやスキンシップを通して「むし歯菌は親から子どもにうつる」という話を耳にしたことがあるでしょうか。この話、まことしやかに語られた都市伝説なのか、根拠があっていわれていることなのか、疑問に思ったことはありませんか?
実は、様々な研究結果に基づく科学的根拠のある話なのです。
そもそも「むし歯菌」って何?
そもそも「むし歯菌」の正体は何でしょうか?
むし歯菌とは「ミュータンスレンサ球菌(連鎖球菌)」のことで、「ミュータンス菌」とも呼ばれ、通常は左下の電子顕微鏡写真のような形をしています。この細菌は、砂糖が加わると、これをえさにして、歯垢のもととなるネバネバ物質をつくって歯に強くくっつく性質があり(写真右下)、これがほかの細菌と異なる大きな特徴です。さらに砂糖や他の糖もえさにして歯を溶かす酸もつくります。ネバネバ物質と酸の両方をつくることにより、ほかの菌と比べて、むし歯を引き起こす力がとても強いのです。これが「むし歯菌」と呼ばれる理由です。
親子から検出されるむし歯菌のタイプは共通している
一口に「ミュータンス菌」といっても、実はいろいろなタイプがあり、グループ分けもされています。母子を対象にした研究で、「多くの親とその子から性状が同じミュータンス菌が検出された」という複数の報告が1970年代からされており、2000年以降も含め、性状だけでなく遺伝子の解析など、多方面から検討がなされました。
そして、親と子では共通のミュータンス菌がいる、すなわち親から子にうつっていることを示す研究結果が積み上げられてきました。さらに、これら多くの論文を系統的にまとめて再解析した論文においても、子の世話をする人から子への、特に母親が主に世話をする場合は、母から子へのミュータンス菌の伝播には科学的根拠があると結論づけられると述べられています※1。
このように、「ミュータンス菌が親から子にうつる」のは憶測や都市伝説ではなく、科学的な根拠をもっていわれていることなのです。
- 1 出典:Valeria de Abreu da Silva Bastosら、J Dentistry, 2015
むし歯菌に感染しやすいのは、1歳7か月から2歳7か月頃
むし歯菌、つまりミュータンス菌は、生まれた時から口の中にいるわけではありません。ミュータンス菌のすみかは「歯」。そのため、歯が生える前は検出されません。
乳歯は生後6か月頃から生え始めますが、特にむし歯菌に感染しやすいのは、奥歯(臼歯)が生えそろってくる「19か月から31か月(1歳7か月から2歳7か月)」頃といわれています。この期間は「感染の窓」と呼ばれており※2、窓が開いているこの間は特に注意が必要です。
- 2 出典:Caufieldら、J Dent Res, 1993
お母さんの口腔内環境が整うと、子どものむし歯予防にもプラスの効果!
実は、お母さんの口腔内環境やお口のケアが、子どものむし歯や口腔内環境に影響する可能性があることも、複数の研究結果でわかっています。
お母さんがむし歯菌を大量に持っていると、子どものむし歯菌の感染率が大幅アップ!
お母さんのミュータンス菌が唾液1ml中に10万個※3超検出されると、その子どものミュータンス菌感染率が大きく上がるという報告があります※4。
- 3 正確には10万CFU/ml
- 4 出典:Berkowitzら、Arcchs.oral.Biol. 1981
お母さんがお口のケアや食事指導を受けると、子どももむし歯になりにくい傾向が!
唾液1ml中に100万個超のミュータンス菌が検出された、3~8か月の子どもを持つお母さんに、口腔ケアや食事指導などを行ったところ、指導を行わなかったお母さんと比べて、指導を行ったお母さん自身のミュータンス菌が減ったのに加え、
●子どものミュータンス菌感染率も減った!
●3歳(36か月)時点で、子どもがむし歯になった割合も低かった
という報告もあります※5。
- 5 出典:Köhlerら、Arcchs.oral.Biol. 1983, 1984
子どもにむし歯菌をうつさないための予防策
子どもの健康な歯を守るためには、お母さんだけではなく、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃんなどの家族も一緒に対策をしましょう!特にむし歯菌に感染しやすい1歳7か月から2歳7か月頃は、より気をつけたいものです。
子どもと食器類を共用しない
むし歯菌は唾液を介して子どもにうつります。口移しで食べ物を食べさせないなどはもちろん、同じスプーン、コップなどを使って飲食すると、むし歯菌がうつる可能性があります。子どもと大人の食器類は別々にする、大皿料理は取り分けスプーンを使うなどの対策を、できる範囲で心がけましょう。
子どもだけでなく保護者も、お口のチェックやケアをきちんとする
食事の世話をしたりスキンシップをしたり、保護者は子どもと接触する機会が多いもの。子どもにむし歯菌をうつすリスクをおさえるために、子どもだけでなく大人も口腔ケアやお口のチェックに努めましょう。
そのほかにも気をつけたい!むし歯の予防策
おやつをだらだら食べさせない
幼児にとって補食でもあるおやつは大切です。ただし、長時間かけてだらだら食べると、口の中にむし歯菌のえさがずっとあることになります。むし歯菌がネバネバ物質をつくって歯垢として強く歯にくっつくとともに、酸をつくり続けることになって、むし歯になるリスクが高まります。規則正しく時間を決めて、おやつを楽しむようにしましょう。
フッ素の活用もおすすめ
特に乳歯や生えたての歯は酸に弱いので、フッ素配合のハミガキを使い、歯質強化に努めましょう。子どもが小さい場合は、お口に水を入れても飲み込まずに「ブクブクうがい」ができるようになったら、使い始めましょう。むし歯菌が酸をつくり出すのを抑制したり、歯の表面を酸に溶けにくい性質にするなど、むし歯予防に役立つ働きがあります。
子どもとのスキンシップを思いきり楽しむためにも、家族みんなでお口のケアをきちんとしていきたいもの。口の中をキレイにして、子どもにむし歯菌をうつすリスクをコントロールしながら、自信を持ってコミュニケーションができるといいですね。
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子どもにうつるのは、むし歯菌だけ?
お口の中の「菌叢(きんそう)」も似てきます
最近、テレビや雑誌などでも見聞きする「腸内フローラ」というワード。腸の中には種類も数も多くの細菌がすみ着いていて、顕微鏡で見るといろいろな花が咲き乱れるお花畑(フローラ)のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれています。
腸内フローラは、善玉菌や悪玉菌など多種多様な細菌で構成されています。細菌の数や種類、比率はひとりひとり違っていて、体調や生活環境でも変わります。このような細菌の集団を、専門用語では「菌叢(きんそう)」といいます。つまり、「菌の草むら」と例えているのですね(「叢」は「草が群がり生えること、草むら」の意味)。
実は、口の中にも多くの菌が存在し、腸内フローラと同じように、その人固有の菌叢(口腔フローラ)がつくられています。お口の中の「いろんな細菌のバランス」が形成されていると考えるとわかりやすいかもしれません。
従来は、「お口の健康と細菌の関連」について、むし歯菌や歯周病菌など特定の病原菌だけに注目していました。最近は、口腔細菌全体、つまり「菌叢」に視野を広げ、その人が持つ口腔細菌の種類や比率などから、お口の健康との関連性を探る研究も行われるようになりました。
ライオンの研究では、口腔内の菌叢もお母さんと子どもで類似性があることがわかりました。49組の母子を調べたところ、「親子での菌叢の類似性」と、「子どもとほかの48人の親との類似性」を比べると、親子の方が共通している菌の割合が高く、類似性が高いという結果になりました※6。
同じく夫婦の菌叢を、夫婦同士、または配偶者以外の人とで比較すると、夫婦同士の方が類似性が高く、また、共通する菌の割合は親子同士より高いという結果も得られました※6。すなわち、親子より夫婦の方が菌叢の類似性が高いという結果でした。年齢も菌叢に影響するので、大人と子どもの比較より、大人同士の方がより近いということもあるかもしれません。
親子や家族の間では、むし歯菌だけでなく、全体的な菌叢も似る傾向があるのは興味深いですね。
- 6 ライオン調べ
この記事を作成・監修した
マイスター

オーラルケアマイスター
深澤 哲
ふかさわ てつ
オーラルケアの技術開発ならびに製品開発に約25年間携わってきました。
これまでの経験を活かし、オーラルケアと健康生活に関わる有用な情報をお届けしていきます。
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