スポーツをする女性が知っておきたい、女性特有の健康障害と口の健康の大切さ

スポーツをする女性が知っておきたい、女性特有の健康障害と口の健康の大切さ

近年、スポーツをする女性の、女性ならではの健康問題が注目されています。その中で、女性ホルモンの影響を受ける「お口の健康」も、スポーツで力を発揮するために大切であることから、女性アスリートのコンディショニングの専門家に詳しく話を聞きました。男性にも役立つ、運動中のオーラルケアのポイントもご紹介します。

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スポーツをする女性の、やせすぎや無月経、骨粗しょう症など、女性ならではの健康問題が注目され、ニュースなどで見たことのある方も多いのではないでしょうか。
そんな女性アスリートの健康には「お口の健康」も大きく関連していると話題になっていることから、平野マイスターが女性アスリートのコンディショニング研究の第一人者・日本体育大学教授の須永美歌子先生と対談しました。

日本体育大学スポーツ教育学部 教授 須永美歌子先生

須永美歌子先生

日本体育大学児童スポーツ教育学部教授、博士(医学)。女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指して、運動時生理反応の男女差や、月経周期の影響に関する研究に取り組んでいる。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員などを務める。

女性ホルモンとも関わりがある「女性アスリートの3つの健康障害」とは?

平野マイスター

須永先生、こんにちは。先生は、女性アスリートのコンディショニングがご専門だと伺いました。

はい。トップアスリートから、運動部に所属する中高生や、趣味としてスポーツを楽しむ女性まで、幅広い方々を対象とした研究に関わっています。

須永美歌子先生

健康な歯でスポーツを楽しんでもらうために、一人でも多くの人に正しい情報を伝えたいです!

最近では、女性アスリートが無理をしすぎてからだを壊すことが問題になっていると聞きます。

その通りです。スポーツをする人にとってケガはつきものですが、特に女性アスリートに顕著にみられる健康障害が3つあります。

それはどんなことですか。

「利用可能エネルギー不足」「視床下部性無月経」「骨粗しょう症」です。これらはアメリカのスポーツ医学会が「女性アスリートの三主徴(さんしゅちょう)」として発表しました。「主徴(しゅちょう)」とは、簡単にいうと主な症状という意味ですね。三主徴はそれぞれが関連して生じるもので、女性ホルモンとも深いつながりがあります。

それについて、もう少し詳しく教えていただけますか。

スポーツが好きなので、須永先生のお話に興味津々です!

POINT

主徴1「利用可能エネルギー不足」を解説!

利用可能エネルギー、つまり、身体機能を維持するために必要なエネルギーが足りない状態。

これは「やせれば速くなる、美しくなる」と考えて食事を必要以上に制限したり、食べてはいてもハードな運動でエネルギー消費が勝ったりして起こります。後者は男性にも多いですね。エネルギー不足が長く続くと、代謝機能などに悪影響をもたらし、スポーツパフォーマンスを低下させます。

たしかに小・中・高校生などの成長期は「歯を強くする」という点でも大事な時期です。歯や歯を支える組織を丈夫にするためには、バランスの良い食事で、エネルギーとともにビタミンやミネラルなどの栄養素をしっかり摂ることが大切ですね。

POINT

主徴2「視床下部性無月経」を解説!

内分泌系をコントロールする視床下部の働きが乱れ、女性ホルモンの分泌が低下して月経が止まる症状。

エネルギー不足に陥ったからだは、免疫系など様々な機能が低下します。その中でも深刻なのが脳にある視床下部の働きが乱れることです。その影響で女性ホルモンの分泌が低下し、月経がストップしてしまうのです。

先ほどの「利用可能エネルギー不足」がきっかけで起こるのですか?

はい、その通りです。そして、次の3つ目の主徴にもつながります。

POINT

主徴3「骨粗しょう症」を解説!

骨密度が低下して骨がもろくなり、骨折しやすくなる症状。疲労骨折の要因にもなる。

無月経になると、女性ホルモンのエストロゲンが低下します。すると骨代謝が悪くなって骨粗しょう症のリスクが高まります。そうして骨がスカスカになり、「疲労骨折」が生じやすくなる。つまり、この状態でスポーツを続けると、同じ場所に弱い力がかかり続けることで骨にひびが入り、やがて折れてしまうんです。

競技生活を送る女性アスリートで、疲労骨折をする人は多いのですか。

とても多いです。陸上の中長距離走の選手や、体操、フィギュアスケートなど審美系のスポーツ選手に多くみられます。特に16~17歳頃に起きやすいと言われています。

育ち盛りの10代に多いとは…驚きました。
実は骨粗しょう症は、お口の健康にも関係します。歯ぐきの内部には歯槽骨(しそうこつ)という骨があり、歯を支えています。しかし、歯周病が進行すると歯槽骨がダメージを受け、やがては歯を失うことにもつながります。骨粗しょう症になると歯槽骨も弱くなりやすく、歯周病の進行リスクが高まってしまうんです。

「女性ホルモン」はお口の健康にも関係がある

女性アスリートの皆さんには、「女性ホルモンとお口の健康の関係」についても、ぜひ知っておいてほしいです。実は、両者には関連性があるといわれています。こちらの図は、女性のライフステージによる女性ホルモンの変化を表したものです。

ライフステージと女性ホルモン量の変化

ライフステージと女性ホルモン量の変化

出典:女性アスリートの歯とお口の健康BOOK 日本体育大学

思春期、妊娠・出産期は、ホルモンバランスが大きく変化する時期なので、歯周病にかかりやすくなります。

ホルモンバランスが変化すると歯周病になりやすいのは、なぜですか?

歯周病の原因菌の中には、女性ホルモンが豊富な状態を好む菌がいるため、女性ホルモンが増える時期には、原因菌が増えてしまう場合があります。同時に、女性ホルモンの増加により歯ぐきに炎症が起こりやすくなるためです。

「月経周期」とお口の健康はリンクしている

ホルモンバランスの変化といえば、月経もありますね。月経周期とお口の健康についても教えていただけますか。

はい。月経周期とお口の状態には関連性があります。

月経周期と女性ホルモン量の変化

月経周期と女性ホルモン量の変化

出典:女性アスリートの歯とお口の健康BOOK 日本体育大学

この図からもわかるように、排卵日から月経開始ごろまでは、女性ホルモンの影響を受けやすい時期です。ですので、月経前になると、歯ぐきが腫れたり、歯みがきのたびに出血することが多いようです。この時期は、お口のチェックとケアを念入りにするといいですね。

「歯ぐきからの出血」「口のネバつき」「口臭がひどくなった」などの症状がみられたら、歯みがき方法や食事・睡眠などを見直すとともに、歯科医院を受診して歯科医師に相談するとより安心ですね。

アスリートは「歯の健康」も大切

アスリートとお口の健康には深い関係があるそうですが、そのあたりも詳しく教えてください。

スポーツ関係者の間では、「口内の状態が悪いと、スポーツパフォーマンスに悪影響を及ぼす」という認識が広まっています。健康な歯でしっかり噛めることで、運動に必要な栄養とエネルギーを摂取できます。でも、むし歯や歯周病があると食事がしにくくなります。また、しっかり嚙めなかったり、左右の噛み合わせが悪かったりすると、からだのバランスがとりにくく、力も出にくくなります。

なるほど。口内の状態はスポーツパフォーマンスに大きく影響するんですね。

一方で、アスリートはむし歯など歯のトラブルに対するリスクが高いんです。理由はいろいろあって…

<運動量の多いアスリートは…>
□補食やドリンクなどを摂取するため、飲食の回数が増える
□補食はカステラやバナナ、ゼリー飲料など、歯に残りやすいものが多い
□飲食後はすぐトレーニング。すぐに歯みがきができない場合が多い
□激しい運動で口呼吸になり、口内が乾きやすくなる
□汗を多くかくことでからだの水分量が減り、唾液が出にくくなる など

口が乾いたり唾液の量が減ったりすると、唾液の洗浄作用(口内の汚れを洗い流す働き)や再石灰化作用(酸で溶け出した歯の内側のミネラル成分を歯に戻す働き)など、歯を守る働きが機能しにくくなります。

はい。すべてのアスリートにとって、オーラルケアは大切なんです。

その通りですね!

でも、学生など一般のアスリートには、オーラルケアの大切さはまだまだ浸透していないのが実情だと思います。これは、日本体育大学の学生の話ですが、競技系種目の競技年数8年以上を有する大学生アスリート80名にアンケート*¹を取ったところ、口内に歯の痛みなど何らかのトラブルがある人のうち、歯医者に行くなど積極的な対処をしていない人が81.3%もいて驚きました。

トップアスリートにはスポーツデンティスト*²がついているのでお口のケアは行き届いていると聞いていましたが、一般のアスリートはまだまだなんですね。練習などで時間が取りづらい事情もあるかもしれませんが、定期的な歯科健診は受けていただきたいですね。

  • 1 出典:坂東ら、スポーツ学科専攻の大学生アスリートに対する口腔管理とスポーツ歯科学に関するアンケート調査、スポーツ歯学 23 (2) 、2020年
  • 2 スポーツデンティストとは
    「スポーツ選手のデンタルチェック(歯科健診)」、「スポーツ選手の競技活動を考慮した、むし歯、歯周病、親知らず等に起因する炎症等、一般的な歯科疾患に関する相談や治療、応急処置」、「スポーツ外傷防止のためのカスタムメイドマウスガードの製作・調整」等を通じて、アスリートたちを歯科的にサポートする歯科医師のこと。

スポーツする人の歯の健康を守るオーラルケアのポイント

私からもお聞きしたいことがあるのですが、アスリートはエネルギーや水分を補うために、補食やスポーツドリンクが欠かせない一方で、歯みがきタイムが取りづらいなど、歯の健康を損なうリスクが高くなりがちです。どうケアしたらいいしょうか?

アスリートに限らず、スポーツするすべての人に言えることですが、スポーツ中は時間や場所に制限があるので、食べてすぐに歯をみがけなくても、水やお茶を飲むだけでいいと思います。スポーツのあとには、ストレッチなどのからだのケアに加えて、水やお茶で「口をすすぐ」など歯のケアも忘れずに行って下さい。

POINT

スポーツ時のオーラルケア

対策1 補食を摂ったら、水やお茶を飲む

捕食の後は、クチュクチュうがいで歯の表面についた食べかすや汚れを洗い流せると理想的ですが、うがいをする時間や場所がない場合は、水やお茶を口に含んで飲むと良いでしょう。

対策2 ストロータイプの水筒を使う

スポーツドリンクは、酸性度の高いものが多くあります。酸性の飲料を飲む時に歯に直接触れると、酸蝕症(酸の作用で歯が溶ける症状)によって歯がすり減ったり欠けたりする原因に。頻繫に飲む人は、ストロータイプの水筒などを使って、歯に直接触れないようにするのもよいでしょう。

対策3 スポーツ後は口をすすぐ

長い時間の練習や試合では水分補給のために何度もスポーツドリンクを飲んだり、糖分補給のため補食を摂ったりするので、スポーツのあとには、ストレッチなどのからだのケアに加えて、水やお茶で「口をすすぐ」など歯のケアも忘れずに行いましょう。シャワーを浴びられるなら、その時に口をすすぐのも良いでしょう。

ちょっとした心がけが、歯の健康を守ることにつながるんですね。さっそく学生たちに伝えます!

もっと大事なのは、普段から毎日のオーラルケアをしっかり行い、歯や歯ぐきを丈夫にしておくことです。そうすれば、スポーツ中に飲食しても、お口のトラブルを防ぎやすくなります。

POINT

毎日のオーラルケア

対策1 歯垢を残さず落とす

歯垢は「プラーク」とも呼ばれる「細菌のかたまり」です。1mgの歯垢には約2億~3億個もの細菌がいるといわれ、むし歯や歯周病、口臭などの原因になります。
歯垢は粘着性が強く、奥歯の噛み合わせや、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目など、ハブラシではみがきにくい部分に残りやすいので、意識してみがくようにしましょう。歯並びの悪いところや歯と歯の間にはハブラシの毛先が届きにくいので、「タフトブラシ」や「歯間清掃用具」を合わせて使うのが効果的です。

対策2 フッ素を活用した製品でケアする

フッ素には歯の耐酸性を高める働きがあり、むし歯予防に効果的です。毎日の歯みがきに高濃度フッ素配合のハミガキ※3を活用すると良いでしょう。特にむし歯が気になる方は、毎日の歯みがきに加えてフッ素洗口剤(医薬品)※4を活用するのもおすすめです。ブクブクうがいをするだけで手軽にケアできます。

  • 3 6才未満の方の使用は控えて下さい
  • 4 4才未満の方は使用できません

対策3 菌を増やさない

むし歯や歯周病の原因菌は、寝ている間に増殖します。唾液には、お口の中の細菌などを洗い流す自浄作用がありますが、寝ている間は唾液の分泌が少なくなるので、むし歯や歯周病の原因菌などが、増殖しやすくなります。食後の歯みがきだけでなく、寝る前に市販のデンタルリンスやマウスウォッシュを使うと良いでしょう。殺菌剤が配合されている製品が効果的です。

歯の強さは体質によるもので変えられないと思っていましたが、フッ素で歯の健康を保つことができるのですね。

はい。加えて、普段はダラダラ食いをしない、ガムを噛んで唾液を出す、うがいをこまめにするなど、なるべく口の中を清潔にして、健康な状態をキープする生活を心がけることも大切です。

ちょっとしたことの積み重ねが、歯や歯ぐきの健康を守ることにつながります!

スポーツする人にオーラルケアの大切さを伝えるには?

学生など若い人たちに、オーラルケアの大切さを伝えるにはどうしたらいいでしょうか?

なかなかむずかしい課題ですよね。ただ「歯をみがこう」というだけでは効果が薄いのは、多くの指導者が実感されていると思います。

はい。私もスポーツをする上での歯の大切さなど、知識を伝えることはしているのですが…。

知識を「自分ごと化」して行動を変えてもらうためには、まずは「歯科健診を受けよう」と勧めることが足掛かりになると思っています。 そこで歯医者さんに「あなたの歯はこういう状態」「こうケアしたほうがいい」と、「自分へのアドバイス」として言われると響くんです。一般論を語るより効果的だと思います。

なるほど。プロの力を借りるわけですね。

はい。歯科健診は、症状がなくても年2回受けることが推奨されています。歯科健診で自分の口内の状態と将来のリスクがわかると、オーラルケアを習慣化しやすくなるでしょう。その時、「歯をみがこうね」「歯医者さんに行った?」など、こまめに声かけして習慣化をサポートすることがポイントかなと思っています。

声かけは大事ですね。歯が痛くなって初めてその大切さに気づくことが多いですが、歯の健康を損なわないように伝え続けていきたいですね。

健康な歯でしっかり食べて、スポーツを楽しもう!

今日は有意義なお話をたくさん聞かせていただきました。最後に、スポーツに親しむ女性たちにメッセージをお願いします。

口内環境は、全身の健康や運動パフォーマンスにも関係してきます。これから続く人生を健やかに過ごすためにも、オーラルケアはとても重要です。スポーツに励む女性たちが、オーラルケアや女性ホルモンについて正しい知識を持ち、それを実践して、健康で充実したスポーツライフを送ることを願っています。

女性特有のからだの仕組みを理解して、自分をいたわりながら、スポーツを楽しんでくださいね!

須永先生、ありがとうございました!

スポーツをする人にとって、からだづくりはとても大切です。そのためにはバランスの良い食事をしっかり摂り、消化・吸収をしやすくする丈夫な歯が必要です。須永先生にお話を伺って、そのことを改めて実感しました。スポーツを楽しむためにも、日々のケアを見直してお口の健康を守っていけるといいですね。

この記事を作成・監修した
マイスター

平野 正徳

オーラルケアマイスター

平野 正徳

ひらの まさのり

オーラルケア関連の基礎研究ならびに開発研究に20年以上携わってきました。 これまで得た知識と経験を活かして、歯とお口の健康に関する情報をお伝えします。

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