災害時のための「手の清潔ケア」と「お口のケア」
災害時には、水不足などによって衛生上のリスクが高まります。健康を守るためには、「手や指の清潔」と「お口の健康」が重要。ウェットティッシュや手指用の消毒ジェル、ハブラシなどを、非常時持ち出し袋に入れておきましょう。少ない水でお口をケアする方法や、唾液の分泌を促すストレッチなども知っておくと役立ちます。
災害時の「手の清潔ケア」と「お口のケア」の大切さ
災害の発生時には避難所生活や水不足などにより、衛生上のリスクが高まり、健康にも影響を及ぼす可能性があります。そのような環境下で自分と家族の健康を守るには、事前の準備と心がけが大切です。
少しでもリスクを減らすためには、「手や指の清潔」「お口の健康」がとても重要で、特に体力のない子どもや高齢者の方は注意が必要です。いざという時に役立つ「手の清潔ケア」と「お口のケア」の情報をご紹介します。
災害時には、常に手を清潔に保ちましょう
災害の発生直後は、電気・水道・ガスなどのライフラインが止まることがあります。ライフラインが止まると、気になるのが衛生面です。
避難所はもちろん、在宅の場合でも、水が出ないために、トイレが使えない、手が洗えないといったことが起こる可能性があります。また、避難所では、多くの人がドアノブや手すりなどに触れたり、共用のものをさわり、そのまま手を洗わずに食事をすると、手についてしまった細菌やウイルスが口に入る可能性があります。すると、風邪やウイルス性の下痢などの感染症が起こりやすくなります。このような時は、いつも以上に手や指の清潔を心がけるようにしましょう。
赤線で囲んだ部分は汚れが残りやすいので、ていねいに洗い、清潔にしましょう。
しかし、災害時には必ずしも水で手を洗えるわけではありません。そんな時は以下の方法で「手指のケア」をしてください。
水で手洗いできない時の手指のケア方法
水が使えない時は、お手ふきシートやウェットティッシュを使って、手や指をキレイにふきましょう。
また、手指用の消毒液や消毒ジェルを活用すれば、サッと手を清潔にすることができます。手指消毒剤を使う時も、手のひらをこすり合わせるだけですませず、汚れが残りやすい部分にもしっかりすり込みましょう。
手をキレイにするタイミング
汚れたものや大勢の人がさわるところに触れた後などには、こまめに手をふきましょう。
●食事や調理の前
●トイレの後
●おむつの交換の後
●片付けなどの作業の後
●動物に触れた後
●鼻をかんだり、くしゃみや咳で口をおおった後
●ゴミを取り扱った後
水で手洗いできない時は食事にも注意を
避難所などで食事をするときは、普段以上に清潔を心がけましょう。また、後で食べようと思って取っておくと、食品が腐敗する可能性があり、食中毒を引き起こす原因になります。食べ残した食品は思い切って捨てましょう。
●食べ物を素手でさわらない
●包み紙やラップなどを使って食べる
●食事の時は、箸・フォーク・スプーンを使う
●食器にはラップをかぶせてから料理を盛る
●その時に食べる分だけ作って残さない
災害時に備えておきたい「清潔ケア用品」
災害時は「水なしで使えるもの」が役に立ちます。手や指を清潔にするケア用品を防災グッズと一緒に「非常時持ち出し袋」に入れておきましょう。
手洗いできる環境にある時は、石鹸やハンドソープを使って、手のひら・手の甲、指先・爪の間・手首まで、きちんと洗いましょう。
災害時にはお口のケアも、とても大切です
避難所生活や水不足などで水分が取りにくい状態が続くと、お口の中やのどの粘膜が乾燥してウイルスに感染しやすくなります。
加えて、食事をした後にお口の中に汚れが残っていると、知らないうちに細菌が増え、むし歯や歯周病といったお口のトラブルだけでなく、誤嚥性肺炎※など全身の健康に影響を与える可能性があります。特に体力のない高齢者や子どもは注意が必要です。
- ※誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは?
- 食べ物やだ液に含まれる最近が肺に入ることで発症する肺炎。食べ物やだ液が誤って気管に入ることがきっかけで起こります。
歯や歯ぐきが痛んだり腫れたりする、口内炎ができるなど、お口の状態が悪化して物が食べられなくなると、体力や免疫力が低下して体調を崩したり、病気にかかりやすくなります。災害時にお口の健康も心がけることは、命を守ることにもつながるのです。
災害時にはハブラシが手元にない場合や水が足りない場合もあります。そんな時にできるケアの方法としては、以下のようなものがあります。
ハブラシがない時には、食事にも工夫を
食べたものをお口の中に残さないことがポイントです。
唾液を出すことを意識しましょう
唾液には口の中の汚れや細菌を洗い流す働きがあります。水分が取りにくかったり、避難所生活のストレスなどが原因で唾液の分泌が減ると、お口の中が乾き、細菌が増えやすくなります。
舌のストレッチや頬のマッサージなどを行って、唾液の分泌を促しましょう。人と会話する、歌を歌う、ガムを噛むことなども、唾液を増やすのに効果的です。
水が不足している時のお口ケア
ペットボトルの水やお茶を少しだけお口のケアに使うのも良いでしょう。「朝起きた時」「食べた後」「寝る前」などに行って、お口の中の清潔を保ちましょう。
少量の水でできるハブラシを使ったお口のケア
水が不足している時も、ハブラシがあれば歯をみがくことができます。少量の水でできる歯みがき方法を紹介します。
- 出典:水が少ないときの歯みがきの方法 日本口腔ケア学会・全国住宅療養支援歯科診療所連絡会のHPを参考に作成
家族のために準備したいこと&災害時のケアの注意点
小さな子どもがいる場合
子どもの衛生面は家族が見守って
小さい子どもはまだ清潔習慣が身についていません。特に避難所は多くの人が出入りするので、手の汚れには要注意。食事の前には必ず手を清潔にするように、まわりの家族がきちんとケアをしてあげてください。子どもが自分でもふきやすいお手ふきシートなどがあると便利です。汚れが残りやすい部分は、特に念入りにケアをしてあげてください。
避難所でも「ダラダラ食べ」は避けましょう
避難生活が長引いてくると、菓子パンやお菓子など間食をとる機会が増えがちです。そのため、むし歯のリスクが高まります。ダラダラ食べ続けるのを控えて、食べる時間を決めるなど、できるだけ規則正しい生活を心がけましょう。食後はお口の中の細菌が増えないように、水やお茶でブクブクすることを促しましょう。
高齢者がいる場合
避難する時は、入れ歯とケアグッズを忘れずに
就寝中など入れ歯をはずしている時に災害が起こり、避難する場合など、入れ歯を持ち出すのをつい忘れがちです。入れ歯がないと、食べるのはもちろん、誰かと話をする時にも困ります。
避難の際には、家族が「入れ歯持った?」とひと声かけるようにしましょう。義歯ケースや洗浄剤などのケアグッズはあらかじめ非常時持ち出し袋に入れておくのをおすすめします。
避難生活では入れ歯を常に清潔に
避難所では入れ歯を置く場所もなく、人前で入れ歯をはずすことに抵抗がある方もいるでしょう。でも、お手入れせずに入れ歯をつけっぱなしでいると、入れ歯まわりの粘膜を痛めることも。それがきっかけで、食べるのも話すのもおっくうになり、体調を崩すことにつながる場合もあります。
災害時も入れ歯のケアを欠かさないように心がけましょう。入れ歯にも歯垢はつくので、食後ははずして汚れを落とします。同時に、歯やお口の粘膜を口腔用ウェットティッシュやガーゼ、ハンカチなどでぬぐいましょう。
なお、入れ歯は乾燥すると劣化するので、はずしたら義歯ケースに入れて保管しましょう。ティッシュなどにくるんでおくと、ゴミと間違われて捨てられるおそれがあるので要注意です。
日頃から「非常時持ち出し品」を準備しておきましょう
いざ災害が起きた時に携帯しておきたい、最低限必要なものをリストにしました。日頃から災害時に備え、自宅にまとめて用意しておくと、災害時にも役立つでしょう。
<災害時持ち出し品チェックリスト>
災害後の救助や救援物資の到着までに最低限必要なものは準備しておきましょう。
貴重品 | 情報収集用品 | 食料など |
□現金(小銭を含む) ※公衆電話用に10円玉、100円玉 |
□携帯電話(充電器を含む) | □非常食 |
□車や家の予備鍵 | □携帯ラジオ(予備電池を含む) | □飲料水 |
□予備の眼鏡、コンタクトレンズなど | □家族の写真(はぐれた時の確認用) | |
□銀行の口座番号・生命保険契約番号など | □緊急時の家族、 親戚、知人の連絡先 | |
□健康保険証 | □広域避難地図 (ポケット地図でも可) | |
□身分証明書 (運転免許証、パスポートなど) | □筆記用具 | |
□印鑑 | ||
□母子健康手帳 |
便利品など | 清潔・健康のためのもの | その他 |
□防災ずきん または ヘルメット | □救急セット | □紙おむつ(幼児用・高齢者用など) |
□懐中電灯(予備電池を含む) | □常備薬・持病薬・お薬手帳 | □生理用品 |
□笛やブザー(音を出して居場所を知らせるもの) | □タオル | □ 粉ミルク・哺乳瓶(赤ちゃんに必要なもの) |
□万能ナイフ | □トイレットペーパー | □その他自分の生活に欠かせないもの |
□使い捨てカイロ | □着替え(下着を含む) | |
□マスク | □使い捨てのビニール手袋 | |
□ビニール袋 | □ウェットティッシュ (お手ふきシート) | |
□アルミ製保温シート | □消毒剤(ハンドジェル) | |
□毛布 | □ハブラシ | |
□スリッパ | □ハミガキ | |
□軍手か皮手袋 | □洗口剤 | |
□マッチかライター | □入れ歯用洗浄シート | |
□給水袋 | ||
□雨具(レインコート、長靴など) | ||
□レジャーシート | ||
□簡易トイレ |
●非常時持ち出し品は、両手が使えるリュックタイプの袋などにまとめておきましょう。●避難の妨げにならないように、軽くコンパクトにまとめましょう。●自分や家族の状況に応じて必要なものを選びましょう。●自分に必要なものの 優先順位を決めて準備しましょう。●定期的に中身をチェックしましょう。
- 参考:日本赤十字社東京都支部「非常時の持ち出し品・備蓄品チェックリスト」
お口のケアグッズを 非常時持ち出し袋に
ハブラシ
ブラシのかたさなどお口に合った普段使っているものを、家族の人数分用意しておきましょう。
ハミガキ
避難生活が長くなる場合、殺菌剤やフッ素の入ったハミガキを使うとお口の健康に効果的です。
洗口剤
殺菌剤の入ったタイプは、水が使えなくてもお口を清潔に保てます。刺激の少ないノンアルコールタイプがおすすめ。
歯間ブラシ、デンタルフロス
普段使用している方は忘れずに用意を。特に歯間ブラシは、自分の歯のすき間に合ったサイズにしましょう。
口腔用や入れ歯用の洗浄シート
口内または入れ歯全体を手軽にふくことができるので、うがいができないときに便利。高齢者にはノンアルコールタイプを。
非常時の備えとして「災害時のための清潔&健康ケアBOOK」を
災害が起きた時の清潔ケアに役立つ「災害時のための清潔&健康ケアBOOK」を下記からダウンロードして、非常時持ち出し品と一緒に備えてください。
「災害時のための清潔&健康ケアBOOK」
「災害時のための清潔&健康ケアBOOK」PDFのダウンロードはこちら
災害時の「手や指の清潔ケア」と「お口のケア」の重要性とともに、普段からの備えや食事の注意点など、いざというときに役立つ情報を掲載しています。
「災害時の清潔・健康ケア」
「災害時の清潔・健康ケア」PDFのダウンロードはこちら
印刷(計4枚)して中央で折りたたみ、災害時に備えて非常持ち出し袋に入れておいてください。
「災害時の清潔・健康ケアポスター」
「災害時の清潔・健康ケアポスター」PDFのダウンロードはこちら
印刷して人の集まる場所などに掲示してお使いください(A3版)。
- ●総監修 中久木康一先生
東京医科歯科大学 大学院顎顔面外科学分野助教。平成16 年の新潟県中越地震から災害支援に携わる。熊本地震では 日本歯科医師会の災害歯科コーディネーターを務めた。
●指導 奥田 博子さん
国立保健医療科学院 健康危機管理研究部 上席主任研究官
●指導 笠岡(坪山) 宜代さん
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室 室長
この記事を作成・監修した
マイスター
LION
下記のコメントを削除します。
よろしいですか?
コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容コメント内容