いま注目のスマートテキスタイルって?お洗濯法もリサーチ
技術革新で、様々な新機能を持った「スマートテキスタイル」が誕生しています。着るだけで、心拍数やカロリー消費量などを測定できるウェアが登場。今後は高齢者の健康管理等、日常生活にも浸透しそうです。そんなスマートテキスタイルの洗濯は、「着用後なるべく早く洗う」「洗濯ネットに入れて弱水流コースでやさしく洗う」「陰干しする」のがコツです。
「スマートテキスタイル」をご存じですか?「スマート」、つまり「かしこい」布地のことで、一般の繊維素材では得られない生体情報の測定等の新しい機能を備えたテキスタイルを指します。
心拍数やカロリー消費量を測定できるものなど、様々なスマートテキスタイルが登場しています。
そこでこれから、より一層身近になっていくであろうスマートテキスタイルの特徴について、リサーチしました。
スマートテキスタイルってどんなことができるの?
テクノロジー×繊維のかけ合わせで生まれた、スマートテキスタイル。2014年頃から、販売され始めました。電気を通す繊維(導電性繊維)等の素材を使い、心拍、心電等の生体データや体の動きのデータを収集し、衣類等に搭載されたトランスミッター(送信機)を介して、外部サーバー(スマートフォン等)に蓄積され、専用アプリを通じて解析結果を見ることができます。
例えば運動時に、心拍数や呼吸数、カロリー消費量を測定できるウェアを着用すれば、スマートフォンを見ながら、効率良いトレーニングが可能になります。動作解析ができるウェアを着用すれば、運動フォームの改善に役立てることができます。
そのほか、外気温と体温を測定して快適な温度にコントロールができるインナーや、歩いている時や自転車に乗っている時にも、袖のセンサーを触るだけで、片手でスマートフォンの音楽の再生や地図のナビゲーション、電話応答などができるジャケットなど、様々な機能を持つスマートテキスタイルが繊維メーカー、スポーツメーカー等で開発されています。
このようなスマートテキスタイルは、アスリートやスポーツ愛好家だけではなく、一般の方にとっても気になるアイテムなのではないでしょうか。
そこで、今回はスマートテキスタイルの開発を手がける、株式会社ゴールドウインを訪ね、開発の背景や開発に苦労した事、将来の展望、そして衣類の取り扱いやお洗濯時の注意点などを聞いてきました。
スマートテキスタイルの開発秘話
株式会社ゴールドウインは、日本を代表するスポーツウェアのメーカーの1つです。1964年の東京オリンピックでは、ゴールドウイン製品が競技ユニフォームとして採用され、体操、バレーボール、レスリングなどの競技で金メダリストの8割がゴールドウイン製のユニフォームを着用していました。
今回、お話を伺ったのは、富山県小矢部市にあるゴールドウインテクニカルセンター調達本部商品部の伊藤怜太さん。
スマートテキスタイルのこと、根ほり葉ほり聞いてみました!
大貫:ゴールドウインさんでは、どのようなスマートテキスタイルを手がけているのでしょうか?
伊藤:当社のスマートテキスタイルは、「C3fit IN-pulse(インパルス)」です。
大貫:C3…?
伊藤:C3fitとは、ハイパフォーマンスを叶える段階着圧設計のCompression(コンプレッション)、身体機能そのものを整えるConditioning(コンディショニング)、そしてあらゆる動きに快適にフィットするComfort(コンフォート)の3つのCから命名されたコンプレッションタイツを中心とした機能ウエアのブランドです。
「C3fit IN-pulse」は、そのC3fitブランドのアイテムの1つになります。心拍数を機能素材「hitoe®︎」で読みとり、ウェアのみぞおち付近につけた「hitoe®︎トランスミッター」というデバイス(装置)からスマートフォンのアプリに転送することで、心拍数を計測することができます。
大貫:着るだけで心拍を測定できるなんて、すごいですね。どのような背景で開発されたのでしょうか。
伊藤:東レ株式会社と日本電信電話株式会社から、着用するだけで心拍数などの生体情報を取得できる機能素材「hitoe®」が発表された際に、スポーツウェアで採用できないかという発想から始まりました。
大貫:心拍数の計測は、スポーツをする人にとってどんな意味を持つものですか?
伊藤:トレーニング時の心拍数を知ることで、効果的で効率的な運動ができているかどうかをチェックできます。そのほかにも、安全な山登りのためのサポート、健康のために運動を始める方の運動強度のコントロールなど、スポーツウェアのメーカーとして新しい大きな可能性を感じました。
大貫:なるほど。トップアスリートのためだけのウェアではないのですね。
伊藤:これまでは胸の周りにつけるベルトタイプの心拍計が主流でしたが、普段ブラジャーをつけることがない男性は締めつけにストレスを感じる人が多かったんです。
伊藤:また、ベルトがずれてしまうと、心拍が正確に計測できないこともあるのですが、このウェアは体にフィットしてずれにくく、ストレスを感じにくい快適な着心地に仕上がっています。
大貫:そうなのですね。では、開発の際にこだわったポイントを教えてください。
伊藤:一番は、「hitoe®︎トランスミッター」のセンサーを装着する位置ですね。開発当初は、大胸筋の上にのるような設計でしたが、大胸筋の大きさは個人差も大きく、ノイズが発生しやすいのもネックでした。センサーの位置や配線の工夫により、着心地が良く、ダイナミックに体を動かしてもずれにくく、ノイズが入らずに正確に心拍を計測できるようにと改善を重ねました。
伊藤:また、男性用、女性用、それぞれに設計を変えていることもポイントです。
大貫:女性用はそんなに違うのですか?
伊藤:女性は、一般的に男性よりも心拍が取りにくいことが多く、体型も異なるため、男性とは全く違った設計をしています。
大貫:開発で苦労したポイントはどんなことですか?
伊藤:計測の精度と快適性のバランスをコントロールし、ウェアの快適性を損なわないことです。着圧を強くすれば計測精度は上がりますが、きつくなると快適性は落ちます。
大貫:バランスがむずかしそうですね…。
伊藤:スポーツユースということで、背面をメッシュ構造にして通気性を良くするなど、気持ちよく着られるウェアに仕上げるために試行錯誤を繰り返しましたね。
お手入れ方法は?洗濯機で洗える?
大貫:ウェアのお洗濯や取り扱いで、気をつけることはありますか?
伊藤:洗濯時には、「hitoe®︎トランスミッター」を必ず取ってください。これは当社の製品に限らず、計測デバイスがついているすべてのスマートテキスタイルに共通の注意点だと思います。
「C3fit IN-pulse」は、生地の上に熱で電極を貼りつけているので、やさしく洗ってほしいですね。また、乾燥機の使用やドライクリーニングは避けてください。
大貫:手洗いをするか、ウェアを洗濯ネットに入れてドライコースなどの弱水流コースで洗うと、布の傷みも少なくお手入れができますね。
伊藤:そうですね。また、素材で使っているポリウレタンの劣化を避けるため、汗や水に濡れた時は、できるだけ早く洗ってください。濡れたままビニール袋などに放置すると、布傷みの原因になります。
大貫:汗に濡れたまま放置してしまうと、汚れが化学的に変化して落ちにくくなったり、菌が増殖してニオイがひどくなったりします。汚れやニオイの面からも、なるべく早く洗うことをおすすめしたいですね。漂白剤や柔軟剤は、使ってもかまいませんか?
伊藤:漂白剤の使用は避けてください。柔軟剤については問題ありません。
大貫:スポーツウェアは、どうしても汗のニオイが気になることがありますよね。消臭効果のある柔軟剤を使うと、気持ちよく着ることができると思います。干す時に気をつけることはありますか。
伊藤:変色や劣化を防ぐために、紫外線に当たらないように陰干ししてください。なお、洗濯の際には、洗濯表示を一度ご確認いただければと思います。
大貫:電極がついていますが、何回くらいお洗濯できるのでしょうか?
伊藤:100回までは、洗濯しても問題なく使用できることを確認しています。
可能性が広がる、スマートテキスタイル
大貫:今後、この技術をどのように広げていきたいですか?
伊藤:正確に心拍が計測できれば、スポーツ時以外にも様々な活用ができると考えられています。熱中症対策や長距離運転手の居眠り防止などにも、心拍の計測が有効だといわれているんです。
大貫:心拍の計測で、本当にいろんなことがわかるんですね!
伊藤:ええ、その通りです。私たちはスポーツ科学をベースにしながら、スポーツ分野だけにとどまらない、様々な開発を進めていきたいと考えています。
大貫:過酷な労働環境で働く方の健康管理などには、すぐにでも活用できそうですね。それに、たとえばウェアにGPSをつけたら小さなお子さんや高齢の方の見守りにも役立ちそう。いろいろな可能性を秘めたスマートテキスタイルに、これからも注目していきます!
スマートテキスタイルを実際に使ってみました!
対談でご紹介いただいた「C3fit インパルスブラ」を、マイスターの所属するチームのメンバーが実際に着用!ウオーキングやスポーツジムのダンスレッスンやヨガのレッスンで使ってみました。ウェアは体にフィットして、「hitoe®︎トランスミッター」の位置などが気になることはありません。
消費カロリー量が即座にわかるので、「こんなに消費できた!」とうれしくなりました。これだけでも、運動習慣をつけるための一助となりそうです。
また、心拍数をチェックすることで、運動強度なども確認でき、自分に合ったトレーニングメニューを考える時の参考になりそう。トレーナーさんなど、プロのアドバイスを受けたい時にも、自分の運動データがあるとより具体的な相談ができますね。
着用後のウェアは、洗濯機の「おしゃれ着用コース」でお洗濯しました。変形したり、電極が作動しなくなるなどの不具合もなく、快適に使えています。スポーツ愛好家はもちろん、「なかなか運動習慣ができない」とお悩みの方にもおすすめのアイテムといえそうです。
お話を伺った人
ゴールドウインテクニカルセンター調達本部商品部の伊藤怜太さん(2019年10月時点)
取材協力/株式会社ゴールドウイン
この記事を作成・監修した
マイスター
お洗濯マイスター
大貫 和泉
おおぬき いずみ
洗濯用洗剤などの製品開発・調査に約20年携わってきました。
母親としての経験と研究活動を融合し、日々のお洗濯に役立つ情報をわかりやすくお伝えしていきます。
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