包丁の研ぎ方・決定版!プロが教える失敗しない基本とコツ
包丁の切れ味が悪くても、自分では研いだことがないという方もいるのでは?そこで包丁研ぎのプロに、初めてでも失敗なく研げる方法を教えてもらいました。持ち方を覚える、角度をキープするなど、コツをつかめば意外と簡単!あの切りにくいトマトも、驚くほど簡単に、うすーく切れます!プロの包丁の研ぎ方も動画でご紹介します。
「包丁研ぎ」をしたことがありますか?
毎日の調理に欠かせない「包丁」。おいしい料理を作るコツのひとつに、「包丁研ぎ」も挙げられることをご存じでしたか?
切れる包丁と切れない包丁では、こんなに違うのです。
「研ぐ前の包丁」と「研いだ包丁」を比べてみた!
包丁の切れ味が違うと、早くラクに切れるだけでなく、食材の組織を壊さないので、玉ねぎを切っても目がしみにくくなったり、料理の味が違ったりするのです。
一方で「包丁研ぎって何となく大変そう…」と思っている方も多いのではないでしょうか。実はコツをつかめば、誰でも軽い力で研ぐことができるので、マスターするのは決して難しいことではありません。
そこで今回は、刃物の大手メーカー・貝印株式会社を訪問。包丁マイスターであり、国内外を問わず「包丁研ぎ界の巨匠」としてご活躍中の林泰彦さんに、「慣れていない人でも失敗しにくく、正確に研ぐ方法」を伝授していただきました。
失敗しないコツがわかる!「包丁研ぎ」の基本をマスター
ここでは、家庭でよく使われる「洋包丁(両刃)」の研ぎ方を教えていただきます。三徳包丁のほか、牛刀やペティナイフも同じ方法で研ぐことができます。
研ぐ前の準備
用意するもの
・包丁(洋包丁・両刃)
・砥石(中砥石)+研ぎ台
・砥石を水につける容器
・新聞紙
・面直し用砥石
・鉛筆
・台ふきん
一般的な家庭用包丁の切れ味が悪くなった時には、「中砥石」を使うのがおすすめ。粒子の荒い「荒砥石」は、刃こぼれ(刃が欠けた部分)を大きく削って早く直す時に使います。「中砥石」と「荒砥石」が表裏で使える、両面タイプの砥石も便利です。
砥石と一緒に用意してほしいのが、「面直し用砥石」です。砥石の表面を平らに整えるために欠かせません。すでに砥石にへこみがある場合は、これで平らにしてから研ぎましょう。
砥石を水につけておく
一般的な砥石は中にスポンジ状の小さな空洞があるため、水に浸すとぶくぶくと気泡が出てきます。この気泡が出なくなるまで、10~15分程度、十分に水に浸しましょう。ただし、砥石の種類によってはこの限りではありませんので、砥石の取扱説明書に従ってください。容器は、お手持ちの密閉容器、ボウル、バケツなど、砥石の全体が浸るものを用意してください。
1.包丁を三点で支えて持ち、研ぐ角度を決める
包丁は、「三点支持」が基本です。利き手の中指・薬指・小指の3本でハンドルを握り、人差し指を峰、親指をあごに当てます。この時、親指が刃先に触れて怪我をしないようご注意ください。
この三点をしっかりと支えることで、包丁がブレずに、角度を安定させて研ぐことができます。
砥石を縦に置き、まず、包丁を置く角度を決めます。包丁は刃の角度を砥石に対して45~60度くらいにし、斜めにのせます。
次に、刃をつける角度(浮かせる角度)を決めます。包丁と砥石の間に15度くらいの隙間ができるように、包丁の峰を少し浮かせます。
15度の目安は、「小指の先」を砥石と包丁の間に差し込んだくらいの角度です。ここで角度を決めたら、研ぎ始めから終了まで、同じ角度を保つことが大事!
慣れるまでは何回でも小指の先を使って角度の確認をすると良いです。
コツその1
15度の目安は、小指の先が入る程度。
一度決めた角度は最後までキープ!
包丁の刃は先端を鋭角に研ぐほど、よく切れるかわりに弱く欠けやすくなってしまい、かといって鈍角に研いで厚みがあると、強度はあっても切れ味は鈍くなります。いろいろな食材を切ることを考えると、刃の先端を30度くらいにするのがベスト。つまり、片面を15度で削るのが目安になります。
2.刃を手前にして、片面を研ぐ
砥石の一番手前に刃の研ぎたい部分をのせ、利き手でない方の人差し指と中指を軽く当てます。2本の指は刃に近いギリギリの位置が良いですが、砥石に指がつかないように注意しましょう。
そのまま砥石の一番奥まで、中心線を真っ直ぐに移動させます。
この時、指先にギュッと力を入れて押さえつけると、最初に決めた15度の角度がブレてしまうので要注意。
砥石の粒子は包丁の刃よりも硬く、力を入れなくても研げるように作られています。刃を向こう側へ移動させる時も、手前へ戻す時も、ラクな姿勢でスーッと力を入れずに「撫でる+腕の重さがのる」くらいのイメージで研ぎましょう。
コツその2
砥石の中心を、縦幅いっぱいに
大きなストロークで力を入れずに往復!
刃元(手元側の刃先)、刃中(中央部の刃先)、切っ先(きっさき、先端部)へと、研ぐ場所を押さえる2本の指を少しずつずらして研いでいきます。
砥石が乾いてきたら、水をたらして滑りを良くします。砥石の表面の黒っぽい研ぎ汁は、なめらかに研ぐ手助けになるので、洗い流さないでください。
そり(刃先のカーブした部分)から先は、砥石から浮いてしまい刃が付かないといった失敗が起こりがちです。これを防ぐにはハンドルを少しだけ持ち上げて、刃先を砥石にピタッと密着させます。その時、15度が変わらないように注意してください。そりはカーブに沿って、1㎝くらいずつこまめにずらしながら研ぐのがおすすめです。
3.研げているか「バリ」を確認
研げたかどうかは、先端付近の金属が削れて反対側に反り返ってできた「バリ」(刃かえり・まくれとも呼ぶ)で確認します。バリが出ているということは、研げている証拠です。
刃を削りすぎるともったいないので、バリは最小限にするのがベスト。髪の毛1本分くらいの引っかかりがあれば十分です。
人差し指・中指・薬指の3本で、刃の先端を写真の矢印の方向に撫でるように触って確認します。この時ケガをしないように、指を動かす方向に注意。刃全体にバリが出ていることを感じたらOK!
4.刃を向こう側にして、反対の面を研ぐ
包丁を持ち変えます。刃を向こう側にして、利き手でハンドルを持ち、今度は親指で峰、人差し指は真っ直ぐに伸ばして刃に近い部分に当て、三点をしっかりと支えます。
先ほどと同様に、包丁と砥石の隙間は15度をキープします。利き手でない方の人差し指と中指の2本を軽く当て、砥石の手前から奥まで真っ直ぐに移動させて研ぎます。
最初にそりを研ぎ、刃中、刃元へと研ぎ進めたら、あごの付近はハンドルが砥石に当たりそうになるので、包丁を砥石に対して直角に置きましょう。この時、左手の親指は峰に添えると安定して持てます。
コツその3
刃元を研ぐ時は、砥石に対して
刃を直角にするとハンドルがぶつからない
両刃の包丁を研ぐ時でも片側しか研がない方が時々いらっしゃいますが、「割り込み※」など包丁の構造によっては片側だけを研ぎ続けると全く切れなくなってしまうことがあります。両刃の包丁は必ず表裏とも研いでください。
- 包丁の構造(製法)の名称。硬い芯材を別の素材で挟んで作った複合材のもの。
先ほどと同様に、人差し指・中指・薬指の3本で刃先にそっと触れ、刃全体にバリが出ていることを確認します。指先に髪の毛1本分くらいの引っかかりを感じたら、研ぎの工程は終了です。
5.バリを落として仕上げる
台の縁ギリギリの位置に新聞紙(古いデニムなどの布でもOK)を広げ、包丁の柄がぶつからずに刃がピタッと密着するようにします。刃の表面を新聞紙にこすりつけて、バリを落とします。
研いだ時と同じ15度くらいをキープしながら包丁を横にスーッと移動させ、最後に刃を軽く立ててしゃくり上げ、バリを折り取るイメージです。
バリの取れ方を確認しながら、この作業を表裏何度か繰り返します。
研ぐ時と同様、そりから先は刃先が新聞紙等に当たりにくいので、ハンドルを少しだけ持ち上げて刃先に当たるように調整します。
「研いだはずなのに切れ味が悪い」という時は、バリが残っている可能性もあります。新聞紙の上をていねいに何往復もさせて、バリを完全に落としましょう。
研いだあとは、砥石をメンテナンス
使用後は、研いでへこんだ砥石を平らに整えます。
これは非常に重要な作業です。これまでの「包丁研ぎ」の説明は、平らな砥石で行うことが大前提です。
包丁を研いだあとの砥石のメンテナンスが上手くできていないと、せっかく研いでも切れるようにはなりにくいのです。
どこがへこんだかを確認するために、便利な道具が「鉛筆」です。まず、砥石に鉛筆でぐるぐると印をつけます。
次に、水につけておいた「面直し用砥石」を使って、表面をこすって削りましょう。鉛筆のあとが残っていたら、その部分がまだへこんでいるという証拠。鉛筆のあとがキレイになくなる(=平らになる)まで、削ります。
面直しは、毎回やっていれば、ほんの数十秒で終わる作業。1本研いだら、必ず面直しをすることを習慣にしてください。この面直し作業をコンクリート、アスファルト、ブロック等で行う方が時々いらっしゃいますが、これは砥石に良くないのでおすすめしません。
メンテナンスが終わったら、砥石と面直し用砥石の水気をふき取り、乾かしてから保管します。
最後に、プロの技・林さんの包丁研ぎの様子を動画でご覧ください。
包丁マイスター直伝!3分でわかる「包丁の研ぎ方」
時間がない時は、簡易シャープナーで切れ味を回復
料理中に包丁の切れ味が気になるけれど、砥石でていねいに研ぐ時間がない…。そんな時は、簡易シャープナーを使う方法もあります。砥石で研いだように切れ味は持続しませんが、忙しい時にサッと研げるので便利です。
ここでは、貝印の「関孫六 ダイヤモンド&セラミックシャープナー」を使った研ぎ方をご紹介します。
1、2、3番の隙間には、研磨能力の高い粗目のダイヤモンド砥石、セラミック砥石、細かいセラミック砥石の3種類が装着されていて、これらで順番に研いでいきます。
1.粗目の砥石で研ぐ
研ぐ時は作業しやすいように、台の手前端にシャープナーを置きます。
1番の粗目のダイヤモンド砥石で、摩耗した刃先を削り取り、粗刃付け(粗く研ぎ直すこと)をします。
1の隙間に垂直に包丁を差し込み、手前に10回ほど軽い力で引きます。力を入れすぎると、かえって刃先を傷めるので注意してください。
押し引きをしないで、向こうから手前への一方向に動かします。また、刃全体を研げるように、刃元(柄に近いほうの刃)から切っ先(きっさき、先端部)まで、しっかり砥石に密着するように引きます。
2.刃を薄くする
次に、2番のセラミック砥石で研ぎ、刃を薄くして切れ味を良くします。
2の隙間に垂直に包丁を差し込み、同じように手前に10回ほど軽い力で引きます。
3.刃をなめらかに仕上げる
最後に、3番の細かいセラミック砥石で仕上げをします。
3の隙間に垂直に包丁を差し込み、手前に5回ほど引き、刃をなめらかにして完了です。
簡易シャープナーの製品パッケージを捨ててしまい、いざ使う時に「使い方がわからない、困った!」とならないように、買ったらすぐにパッケージ裏面にある使用方法をスマートフォンなどで撮影して保存しておくのもおすすめです。
簡易シャープナーはとても便利ですが、切れ味は持続しません。砥石できちんと研ぐと、包丁の性能を最大限に引き出し、切れ味を持続させることができます。忙しい時や急いでいる時は簡易シャープナー、時間のある時に砥石、と使い分けてもいいですね。
包丁マイスターに聞く!「良い包丁」の条件、「切れる包丁」の魅力
包丁マイスターの林さんに、「良い包丁」「切れる包丁」について、日頃から疑問に思うことをお伺いしました。
Q.家庭では、どんな包丁を選べばいいですか?
A.初めの1本は「三徳包丁」や「牛刀」がおすすめ
市場に最も多く出ているのは、肉・魚・野菜の3つを扱えるという意味の「三徳包丁」です。一般的な料理は三徳包丁が1本あれば作ることができます。
「牛刀」は刃渡り18㎝、21㎝など一般的な三徳包丁より少しだけ長く、先端がとがっているため、長い材料を切りやすい、肉をさばきやすいなどのメリットがあります。どなたにも使いやすく、料理好きな方、料理が得意な方には特におすすめです。
Q.良い包丁の条件とは?
A.材料、焼き入れ、刃付けの3要素を兼ね備えたもの
硬さがありながらもしなやかで強い「良い包丁」は、「材料(素材)が良い」「製造工程(焼き入れ)の精度が高い」「良い刃付けが施されている」という3つの要素を兼ね備えています。良い包丁を作るにはどうしてもコストがかかり、値段は高くなりますが、研いだあとの切れ味が長く持続しますし、大切に使えば一生ものです。
また、調理する食材、目的や使い方に合う性能を持った包丁が、使う方にとって良い包丁といえますが、使用目的、使用方法によっては必ずしも硬さと強さが重要でない場合もあります。
Q.「切れない包丁」と「切れる包丁」は、何が違うのですか?
A.食材の組織を壊さないから、鮮度やおいしさが段違い
よく切れる包丁は余計な力を使わないですむので、切れない包丁より安全です。また、食材の組織を壊さないので、鮮度やおいしさも保つことができます。私は包丁で玉ねぎを切って、目にしみたことはありません。切れる包丁で切ったピーマンは苦くない、トマトは甘みが違う、という調査結果もあります。スイスイ切れると料理は楽しいし、おいしいし、効率よく早くできるので、良いことづくめではないでしょうか。
Q.研ぎ時の目安は?
A.トマトや長ねぎが切れなくなったら重症では
1週間、研がなくても「よく切れる」と感じる方もいれば、毎日研がないと「切れない」と感じる方もいます。「切れなくなった」という感覚には個人差がありますが、「トマトの皮に刃が入らない」「長ねぎのみじん切りをしたら下がつながっていた」という状況になったら、かなりの重症ですね。安全に楽しく料理をするためにも、包丁を研ぎましょう。
良い包丁を選び、ていねいに研いで使うと、料理を作ることがもっと快適で楽しくなります。そして、おいしく作れたらうれしいですよね!
片刃の和包丁の研ぎ方はこちらでご覧いただけます
「貝印、包丁のすべて。」
包丁の研ぎ方をはじめ、包丁の構造や自分にあった包丁の選び方まで、包丁に関する様々な情報をご紹介しています。
- 取材協力/貝印株式会社
この記事を作成・監修した
マイスター
リビングケアマイスター
杉本 美穂
すぎもと みほ
家事関連の製品企画、マーケティングを約20年、生活者向け講習会などを約10年経験してきました。
毎日大変な料理や食事の後片付けなどを手早くラクにできるように、わかりやすくお伝えしていきます。
下記のコメントを削除します。
よろしいですか?
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