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器用になるにはどうすればいい?指先の器用・不器用の謎を専門家に聞いた

器用になるにはどうすればいい?指先の器用・不器用の謎を専門家に聞いた

入園・入学準備のシーズンがやってきました。袋類を手作りしたり、持ち物に名前をつけたり...面倒な作業が多くて、ぐったりしている方もいるのではないでしょうか。「私がもっと器用だったら、こんなタスクは朝飯前だったのかも...」なんて考えているのは、今年から小学生になる子どもを育てるライター・菅原さくら。手先の器用さ=持ってうまれた才能というイメージがあるけれど、実は後天的に伸ばせるそうです。畿央大学で健康科学を研究する信迫悟志先生に、どうすれば器用さを磨けるのか聞いてみました。

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入園・入学準備って、不器用にはつらい手作業が多すぎでは?

こんにちは! 6歳と2歳の兄弟を育てている、ライターの菅原さくらです。

長男はいよいよ今春、小学校に入学します。喜ばしいことだけど、新しく用意したり、名前シールを貼ったりしなければならない持ち物がたくさんあって、親は白目をむいているところです。

細かい作業は苦手なので、袋類を作るのはまるっと外注しました。でも、子どもの好きな布で素敵な給食袋などをサクッと縫える方を、ちょっぴり羨ましくも思います。避けられない名前つけ作業も、憂うつです。

色鉛筆にシールを貼る菅原さんとその側に寄り添う息子さん二人

色鉛筆の一本いっぽんにシールを貼るのも、子どもたちが邪魔してくるのも大変…。

私の母親は器用な人で、子どもの頃はよく洋服やおもちゃを手作りしてくれました。その器用さ、どうして私に遺伝しなかったの!?

でも、私の不器用さも子どもに遺伝しないということなら、それはいいことかも……?

そもそも、器用とか不器用って遺伝するものなの?

…と、名前シールを夜な夜な貼りながら、わいてきた疑問。

もし、今からでも器用になれるノウハウがあるのなら知りたい!そこで、子どもの運動学習をはじめとする神経科学について研究されている、畿央大学大学院健康科学研究科の信迫悟志先生にお話を伺いました。

信迫悟志先生

信迫 悟志(のぶさこ さとし)
畿央大学大学院健康科学研究科/ニューロリハビリテーション研究センター・准教授。1978年広島県生まれ。2001年、理学療法士免許を取得し病院勤務を始める。主に脳神経外科疾患の臨床に携わるうちに、脳科学の重要性を意識し始め、畿央大学大学院健康科学研究科にて脳機能計測技術を使用した基礎研究やその臨床応用に関する研究に従事する。2012年に博士号(健康科学)を取得し、一般臨床の傍ら主に慢性疼痛や高次脳機能障害の臨床研究を行う。近年では、子どもたちの運動発達や運動の器用さ/不器用さに関する研究を精力的に実施し、数多くの国際論文を公表している。専門は、脳科学・発達科学・ニューロリハビリテーション。

菅原さくら

信迫先生、今日はよろしくお願いします!

よろしくお願いします。

信迫先生
菅原さくら

さっそくですが、「器用/不器用」ってちゃんとした定義はあるのでしょうか。個人的な感覚で、なんとなく判断しちゃっていますよね。

「器用=運動の協調性(速さ、滑らかさ、正確さ)」とした場合には、きちんと医学的な判断基準があります。走ったり飛んだり全身を動かす「粗大(そだい)運動」、文字を書いたりハサミを使ったりと手先を動かす「微細(びさい)運動」、そして、姿勢を保持する「バランス」。この3つをテストして、明らかにスコアが低い人を「不器用(不協調)」と分類します。

信迫先生
菅原さくら

つまり医学的な「不器用」とは、単に「手先を使う作業が苦手なこと」を示すわけではないんですね。

そうです。手先を動かす「微細運動」が得意でも、「粗大運動」や「バランス」が苦手で総合スコアが低くなり、かつその苦手さゆえに日常生活に支障をきたしていれば、医学的には「不器用」となります。ただし、よっぽどおぼつかない状態でなければ、この定義に当てはまるほどの低スコアにはなりません。

信迫先生
粗大運動、微細運動、バランスのイメージイラスト

菅原さくら

では、ここからはテストでいうところの「微細運動」。一般的にいわれる“手先の器用さ”について伺っていきたいです。

わかりました!

信迫先生
菅原さくら

手先の器用/不器用は、ずばり遺伝するのでしょうか?それとも、環境や経験などの後天的な要因が影響していますか?

遺伝50%、環境50%と考えてよいと思います。

信迫先生
菅原さくら

思ったよりも環境が影響しているんですね!

そうですね。「文字を美しく書く」「細かな手芸をする」のような、現代で器用さの判断基準にされやすい作業は、人類がここ数百年の間でするようになった動きです。こういった近代的なスキルは、遺伝的要因の強い身体能力だけではなく、環境的要因にも左右されると考えられます。

信迫先生
菅原さくら

細かな手作業は、現代人が身につけた新しいスキルなんですね。では、器用/不器用に影響する環境とは、どんなものですか?

例えばラットの研究では、遊具などがまったくない環境で育つよりも、様々な遊び道具のある環境で育つ方が、できあがる神経細胞や神経線維の数がぐっと増えることがわかっています。そうして神経細胞の活動が活発になれば、脳の働きが高まり、器用さにも良い影響があるといえるでしょう。人間も同じです。

信迫先生
菅原さくら

赤ちゃんにいろいろなものを見せたり聞かせたりすると、脳や情緒が育つっていいますもんね。その発達が、器用さにも影響していたなんて…!

ただし、音や光などを浴びせ過ぎるのはNG。反対に拒否反応を示すこともあります。赤ちゃんが心地よいくらいの、ほど良い刺激を与えてあげるのがいいですね。

信迫先生

子どもの器用さを伸ばすには?

菅原さくら

やはり、赤ちゃんの時の方が、環境の要因を受けやすいものですか?

そうですね。生後なるべく早い段階の方が、発育への影響は大きいと思います。

信迫先生
菅原さくら

残念ながら、うちの子どもたちは2歳と6歳で、すでに赤ちゃん期を終えてしまいました…。幼児期や学童期からでも、器用さを伸ばせますか?

伸ばせますよ!

信迫先生
菅原さくら

やったー!どうすればいいですか?

脳が刺激され、器用さを含む運動機能が伸びるのは、本人が意欲をもって何かに取り組んだ時です。だから、基本は「子どものやりたいことを自由にやらせる」。特に家事なんていいですよ。

信迫先生
菅原さくら

家事?確かに、親が家事をしていると子どもはお手伝いをしたがりますが…。

料理を運んだり、食器を片付けたり。洗濯物たたみやお掃除などもいいですね。

信迫先生
菅原さくら

子どもに頼むと時間がかかるし、うまくできないから、つい私たちがやってしまっています。

僕も洗濯物をたたんでいる時、お手伝い気分の子どもにぐちゃぐちゃにされますから、気持ちはよくわかります(笑)。でも、そこをぐっとこらえて、やらせてあげる。子ども自身がどうすれば上手にできるか考えながら手を動かすことが、器用さの発達につながるんです。

信迫先生
お手伝いのつもりが洗濯物をくずしている子どもと、それを我慢して見守る両親のイラスト

菅原さくら

わかりました、がんばって見守ります!

それにね、下手くそでもいいんですよ。脳は、失敗から学ぶようにできています。上手くできない時に、そのエラーを検出して、次の動きを自動補正していくわけです。その繰り返しが、動きを滑らかにしたり効率的にしたりする。だから、失敗させてあげてください。

信迫先生
菅原さくら

特殊な知育玩具や習い事などをさせなくても、日常的なことで器用さが伸ばせるんですね。

そうなんです。子どもがやりたくてやっているなら、もちろん知育玩具や習い事もOKですよ。でも、受動的な姿勢になっていたら、その経験にはあまり意味がありません。本人が意欲的に試行錯誤をすることが、脳の前頭前野を活性化し、器用さを伸ばすもの。だから、日ごろからいつでもトライできる家の中のことは、とってもおすすめです。

信迫先生
菅原さくら

なるほど…!

手先を使わず遊ぶ現代の子どもは、昔の子どもより不器用なの?

菅原さくら

指先を使う遊びをあまりしなくなった現代は、箸や鉛筆を正しく持てなかったり、靴ひもが結べなかったり、不器用な子どもが増えていると聞いたことがあります。

確かに携帯ゲームやタブレットが登場してから、コマ回しやけん玉、トランプなどで手先を使って遊ぶ機会は減っているでしょうね。

信迫先生
菅原さくら

そうした遊びの変化は、不器用になることにつながっていますか?

そうとは言えません。逆に、幼いころからタブレットなどを活用して遊んでいる子どもの方が、手先の器用さが高まっているという報告も複数あります。視覚や聴覚を使いつつ、さらに画面タップで触覚も使う作業の繰り返しが、脳に良い刺激を与えているのかもしれません。

信迫先生
菅原さくら

タブレットのゲームに良い影響があるなんて、意外…!

ただし、テレビやネット動画を観るだけの受動的な使い方は良くないですね。良い影響をもたらすのはゲームなど、子どもが画面をタップすることで反応が返ってくるような、参加型のコンテンツに限ります。内容は音ゲーでもパズルでも、シューティングでも、なんでもいい。そうしたゲームは、もともと不器用な子どもでも遊びやすいから、メリットがあるかもしれません。

信迫先生
有意義なタブレット遊びをしている子どもと、それを見守る両親のイラスト

菅原さくら

うまくコマが回せない子でも、画面のタップなら簡単にできる、的な?

そうです。低いハードルで楽しめるし、少しでも指先を動かすことはプラスになりますから。時代の変化でいえば、不器用な子どもより、文字を書くのが苦手な子どもが増える可能性は高いと思いますね。これまでは学校生活の大半を書字に費やしてきたのに、オンライン教育やタブレットの導入で、板書もタイピングが中心になるかもしれない。そうすると、書字機能が低下する子どもは増えるでしょう。

信迫先生
菅原さくら

そうなったら、むしろ書き文字の汚さは誰も気にしなくなるかもしれませんね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいに自動で靴ひもを結ぶ機能が一般的になったら、手で結べなくても困らないし。つまり、いま不器用な人でも、科学の進歩がその作業を補うようになれば、不器用じゃなくなる!

その可能性は、大いにありますね。

信迫先生
菅原さくら

未来に希望が持てます。あっ、でも「手先が器用な子どもは知能も高い」という情報も目にしました…。

相関関係はありますね。微細運動のスキルは、知能や情報処理のスピード、様々な情報から必要なものを取捨選択して実行していく機能などと、強く関連していることがわかっています。特に、パズルを組み立てたり、迷路から脱出したりといった空間認知能力や、いわゆる数学的な能力の高さと手先の器用さには、かなり強い相関がみられます。

信迫先生
菅原さくら

そうなんですね!どおりで私、パズルや迷路も苦手です(笑)。

そのほか「物事を同時進行する力」や「頭の中で思考や順序を整理する力」も、脳の同じ部分を使います。だから、家事や仕事のマルチタスクや効率化が得意な人にも、器用な人が多いでしょう。

信迫先生
菅原さくら

手先の器用さと段取りの器用さは、別モノのイメージでした。脳って意外なところでつながっているんですね。

大人だって、これから器用になれる?

さくら

不器用さは遺伝だけの問題ではないし、いろいろな方法で後天的に伸ばしていけることは、よくわかりました。ちなみに器用さを身につけるのは、すっかり大人になってからでも、まだ間に合いますか…?

間に合います。ただし、運動機能や認知機能が相互に発達していくのは、20歳頃までだといわれているんですね。ですから、子どもほどの大きな発達は期待できません。でも、少しずつなら必ず伸ばせます!

信迫先生
さくら

力強いお言葉…!

基本的には子どもと同じように、大人も意欲をもって何かにチャレンジすることが大切です。ただし、大人の脳はただでさえ変化を受けにくいので、イヤなことを頑張ってもあまり活性化しません。好きなことに、じっくり取り組むのがいいでしょう。

信迫先生
さくら

内容は何でもいいんですか?

編み物やプラモデル制作みたいに指先を使う作業がいいですね。でも、毎日やっているようなルーティンワークだと、からだが覚えているから脳はあまり働かないんです。新しい趣味を探して取り組むのがいいでしょう。

信迫先生
さくら

そもそも、指先を使うような作業があんまり好きじゃないんです…。

嫌いなことを嫌いなままやるんじゃなくて、好きなことにつなげてみてはどうでしょうか?例えば、文字の汚い人がペン字の練習をするのはつらいと思います。でも、毎日している携帯ゲームやタブレットゲームをタッチペンでプレイするのは、たいして苦にならないはず。

信迫先生
さくら

確かに。それならすぐに取り入れられそうです。

タッチペンでゲームをするのも、ペンで文字を書くのも、使っている脳機能は同じだから、遠回りだけどトレーニングにはなりますよ。でもゲームに夢中になりすぎて、ほかのことがおろそかにならないようにしましょうね(笑)。

信迫先生
さくら

はい(笑)。ということは、名前つけシールを上手に貼れるようになるために、毎日みかんをていねいにむいてみる…とかでもいいってことですか?

…めちゃくちゃ遠回りですけど、まったくの無意味ではありません(笑)。でも、手先を動かすことはメリットだらけ。脳の活性化だけでなく老化防止にもつながるので、ぜひ日頃から習慣にしてみてほしいです。

信迫先生
編物、プラモデル制作、タッチペン操作、みかんの皮むきをする大人のイラスト

さくら

脳ってすごい…!がんばります!

最後に、手先の器用さを手っ取り早くアップさせる方法をお伝えしましょう。

信迫先生
さくら

そんな裏技があるんですね!?

目を閉じて、手先の感覚だけを頼りに、様々な作業をしてみてください。例えば、洗濯物をたたんでみるとか、ピアノを演奏してみるとか。お子さんと一緒に、字を書く遊びをしてみるのもいいかもしれません。

信迫先生
さくら

え?目を閉じたら、作業するのが難しくなってしまいませんか?

目を閉じると、視覚処理に使われていた部分の脳が、触覚処理にまわされます。これにより、指先の感覚が研ぎ澄まされて作業能力をぐっと引き上げることができるのです。人間は視覚に依存している生き物ですが、手先の器用さは指先の触覚に依存しているところが大きいので、指先の触覚に頼った手の運動は、手先の器用さを一気に向上させてくれます。ただ、ストレスのない範囲で!

信迫先生
さくら

なるほど…!トレーニングとして試してみたいと思います。今日はありがとうございました!

「意欲をもって活動すること」で、器用さを伸ばそう!

なんとなく「遺伝するもの」「生まれ持ったもの」だと思い込んでいた、器用さ。脳機能を高めることで、子どもも大人も鍛えていけるとわかり、とても前向きな気持ちになれました。今のところ子どもたちが不器用だとは思わないものの、本人が意欲をもったことにはできるだけトライさせて、よりいっそう脳を刺激していきたいです。

そして、私自身。長男の入学準備には間に合わなかったけれど、次男が就学するのは4年後です。楽しく指先を動かしたり、新しい趣味にチャレンジしたりしていけば、その頃には名前つけや袋作りが今ほど苦行じゃなくなる…!?かもしれません。

もしくは時代が変化して、自動名前シールつけ機が登場していたりして。…そっちの方がうれしいです!(笑)

編集:ノオト
イラスト:あきばさやか

・当記事に掲載の情報は、執筆者、取材対象者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。

この記事を書いた人

菅原 さくら

菅原 さくら

ライター・編集者。1987年1月16日生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランス、雑誌『走るひと』チーフなど。パーソナルなインタビューや対談が得意で、多くの俳優やクリエイターに取材。X(旧Twitter) @sakura011626

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