『かしこい子』ってどんな子?脳科学者に聞く子どもの可能性を伸ばす方法
保育園に通う3歳の息子の成長を日々感じるイラストレーターの永岡さくらさん。我が子の可能性をもっと広げてあげたい!と感じつつ、家庭で親がすべきことは?早めに習い事はした方がいい?など疑問もいっぱい。個性を大切にしながらも、かしこい子に育てるにはどうしたらいいのか脳科学を研究する細田千尋先生に伺うと、毎日の生活の中でできることがたくさんありました。 (※年齢は取材当時)
成長著しい3歳の息子。親がしてあげられることって…?
ということで、脳科学の視点から、個人の能力を拡張・最大化できるような教育について研究されている細田千尋先生にお話を伺いました!
細田 千尋(ほそだ ちひろ)
医学博士 認知科学者・脳科学者
東京大学大学院総合文化研究科特任研究員・帝京大学戦略的イノベーション研究センター講師を兼任。子供から大人まで脳の可塑的変化を促す効果的な学習法(英語やプログラミング等)の解明や、特性や能力の個人差と脳の特徴の関連性を明らかにする研究を、科学技術振興機構さきがけ、CREST支援のもと実施。最近では、「やり抜く力 Grit」を脳から予測する手法を開発し特許を取得したほか、個人差に合わせた効果的な学習法によりgritと脳の発達(脳可塑性)を促進する手法も開発し、英国科学誌に掲載された。
そもそも「かしこい」ってなんだ?! IQが高い、地頭がいいってどういうこと?
息子にはのびのび育って欲しいと思いつつ、かしこさも身につけてほしいです。でも具体的にどうしたらいいのかわからず、今日は先生に聞きたくて。よろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。まずは漠然としている「かしこさ」について、考えていきましょう。永岡さんはどういう人をかしこい人だと考えていますか?
そうですね、勉強ができる人という意味で「IQが高い人」。あとは、適応力が高くてなんでも器用にこなせてしまうような「地頭がいい人」でしょうか?
まず、IQは「知能指数」といって世界的に同じ基準ではかることができて、数値化されたものですね。IQテストにはいくつか種類がありますが、有名なものの一つは、「ウェクスラー式知能検査」といって「全検査IQ」、「言語性IQ」と「動作性IQ」からなる検査です。
ほぉ〜すみません、初耳です…。
ただ実は、検査の質問内容は決まっているので、子どものIQを知りたいからと、頻回に受けさせてもあまり意味がなかったりするんですよ。何度もテストを受けると点数が上がってしまったりすることもあります。
一般的なIQってどのくらいですか?
100が平均で、平均より少し高かったり低かったりするところ(85〜115)に約7割の人たちが収まっています。95%の人たちは、IQが70〜130 の間にいて、IQが130以上になると2%で(50人に1人)の割合なんです。
なるほど。IQって、知っているようで知らないことばかりでした。
ちなみに諸説ありますが、7〜10歳の時のIQが生涯を通して変わらないといわれているんですね。一方で、もう一つ永岡さんがおっしゃっていた地頭のよさについて。これは、数値化するのは難しいのですが、一般的にはこのような能力をイメージされるのではないでしょうか。
地頭のよさについて、現在の日本で一番評価されやすいのは、「共感性をもつこと」だといっている研究もあります。ただ、国や時代によって、評価される能力は変わっていくと考えてもよいでしょう。
そうなのか〜。IQが高い子、地頭がいい子のそれぞれ特徴はありますか?
明確に分けるのはむずかしいですね。先ほどお伝えしたようにIQは数値化できますが、地頭については客観的に評価する方法がないですよね、あくまで周りの人が主観的に感じることです。
では、IQの高さと地頭のよさは比例しますか?
必ずしも比例はしないと思います。例えば、学業的な成功はIQの高さとイコールになりますが、社会的な成功は「地頭のよさ」と永岡さんがいっているような要素が必要になってくると思いませんか?
確かに…。親心としてはIQも地頭もなるべく伸ばしてあげたいと思うのですが、ぶっちゃけ「遺伝」で決まってしまうみたいな部分もあるのでしょうか?
知能は約50〜70%遺伝が影響するといわれています。でも、例え高い知能を持っていたとしても環境的要因が整っていないと能力を発揮することができないんです。
環境や遺伝のどちらか一方だけで決まるのではなくて、両方が必要になってくるということですね。
脳の発達は、後ろから前へ…!?前頭葉は時間をかけて発達する!
うちは、息子が小さい頃からよく話しかけるようにしていたら、かなりおしゃべり上手になったんです。これは環境的要因が大きかったということでしょうか。
きっとそうだと思いますよ!言葉の発達は遺伝的な要因よりも、0歳児の時から親が子に話しかけた量や表情の豊かさが影響するんです。
言葉が早いと「うちの子、かしこいんじゃないか…!?」って思っちゃいますね(笑)。
4〜5歳の時の語彙力がIQを決める重要な因子になっているという報告もありますよ。
わぁ〜!なんだかうれしいです!ちなみに「3歳からの教育が大事」とよく聞くのですが、先生が専門とされている脳科学の視点から、これは本当といえますか?
脳の発達は基本的に頭の後頭部から前に進みます。2〜3歳くらいまでに発達するのは主に後頭葉から頭頂縁の部分です。でも、勉強をするのに重要な場所として前頭葉があります。ここは発達が遅く、12〜13歳までに時間をかけて成長していくんです。
そうなんだ!じゃあ、勉強はそれほど焦らなくてもいいんですね(ちょっと安心…)。
早くから始めた場合でも、10代まで長く続けていくことが大事です!
まずは精神的な安定が大事。日常生活の中で、子どもの可能性を伸ばすには?
○歳までにあれした方がいい!とかいろんな情報がプレッシャーになっていたけれど、先生の話を聞いていたら、なんだか気持ちが楽になってきました。先生は、教育におけるそれぞれの段階で何を大切にすべきだと考えていますか?
乳幼児のうちは、愛着形成をすることが最も重要です。そのためには、子どもを受け入れ、認めてあげること。具体的には「会話」「抱っこなどのスキンシップ」を大切にしましょう。そこで初めて子どもの精神的な部分が安定し、自分の居場所が確保できるんです。そうすると安心して外にチャレンジしにいくことができるんですよ。
抱っこしながらお話…。正直もっと難しいことをしなきゃいけないのかと思っていました!
意外と子育てをしていると、まだコミュニケーションが円滑にいかない赤ちゃんとお話をたくさんするのって難しくないですか?3〜4歳になったら家庭でたくさんのお手伝いをすることが他人との協調性を育むのにすごく良いといわれています。
絵本をたくさん読んであげるといいって聞いたのですが、それはどうでしょうか?
家庭の絵本の蔵書数が子どものIQに関係するかという問いであれば、これはあまり関係ないという研究結果も最近出てきています。むしろ親の蔵書数や普段から親が本を読んでいるかどうかが影響を与えるといわれています。
え〜!それ不思議ですね。
子どもは親が思っている以上に、親の行動をしっかり見て判断できているんですね。なので、まずは親が本を読んでいる姿を見せる、お手本になるという心がけは大切かもしれませんね。0歳児でも知識のある大人の話をよく聞くという研究結果もありますよ。
なんと…!子は親を映す鏡ともいいますもんね。そのほかに、親が心がけるべき行動はありますか?
子どもを否定せずになるべく受容して、その上で褒めたり怒ったりしましょう。ヒステリックに批判をせず、受容をした上で行動変異を促すために怒る。私も3児の母なので、そんなに理想通りにいかない時もありますが(笑)
いかないですよね!(笑)でも気をつけよう。そういえば、お手伝いしたらご褒美シールをあげるのってどうなんでしょう。
例えば「お片づけはそこで食事をするためにするんだよ」と目的を明示してあげれば、ご褒美としてシールをあげてもOKです。ただ単にシールをもらうことが目的になると長続きしません。
ちゃんと子どもに目的を理解してもらうことが大事なんですね。時間がないからつい「いいからこれやって!」って言ってしまう(…反省)。
気持ちはすっごく分かりますよ…!一緒に頑張りましょう。
習い事はなんでもいい?! 何を選ぶかよりプロセスが大切!
自分の行動や子どもとのコミュニケーションを見直すのはもちろんなのですが、やっぱり習い事も必要なのかな?って。先生はどうお考えですか?
一般的におむつも外れて、少しずつ自分で物事を判断できるようになる3〜4歳くらいが習い事を始める適切なタイミングという意見もありますね。「何を習わせると将来役に立ちますか?」という質問もよく受けるんですが…。
ズバリ気になります!
正直これはなんともいえないです。例えば、将棋を習って鍛えられた「直感力」があったとして、その直感力が将棋以外の場面に使えるのかと問われると、今のところ答えはNOなんです。ほかにも、ピアノや運動、英語教育は、記憶力などの能力を上げるという研究もあれば否定している研究もあり…。
ガーン…。そこを重視して選ぼうと思っていました。
子どもに色んな種類のお稽古をさせるのは、何が世の中にあって何が自分に向いているかを知る選択肢を増やすという意味ではすごくいいことだと思いますよ。習っているものに対する力は伸びていくと思います。とはいえ、それが必ずしも将来成功することにつながるかというと、それはまた別の話です。
そんなに甘くはなかったか…。
習い事って、結局は何でもいいと思っています。どんな習い事をするかよりも、習い事自体を、目標に向かって何をやるか、嫌なことや他の欲求をどうやって自分でコントロールするかを学ぶ場所、訓練する場所と考えるのがいいのかなと。
それでいうと、たとえば子どもが挫折して習い事に通うのを嫌がる時は続けさせるべきなのでしょうか。
すごくむずかしい問題ですね。自己効力感や自尊心は人のやる気にとても影響するんです。特に幼少期は一つの挫折感が生活全般の挫折感に繋がってしまうこともあるんですよ。
えぇ!?それは避けたいです。まさか他のところにも影響が出てしまうなんて…。
特に習い事に関しては、達成感を与えるべきものであると思うので。かといって苦労せずに得られるものはないですから、その見極めはやっぱり親しかできないです。
むずかしいですね。続けさせるにしても上手く励ませるか不安です。
他に何か簡単にできることを同時にやらせることで、子どもに自信をつけてあげるのもいいですね。
なるほど、バランスが大事なんですね。ちなみに先生ご自身は子育てする中で、習い事や家の中で大事にしていることってありますか?
実は、うちの子は習い事をしていません(笑)。楽器のように家では教えられないものは習い事でさせたいと思っていますが、数字や図形、文字などの教育的な部分は親子のコミュニケーションにもなるので、日常生活の中で教えるようにしています。
具体的にどんなことをされていますか?
例えば、かなり小さい頃から必ずおやつを数えて渡して、おかわりする時は「これに1個加えたら何個になる?」と数を確認するといった感じです。あとは、車が好きなので、ナンバープレートの暗記やそこの数の足し算引き算とか。ナンバープレートはひらがなと数字を両方覚えられるのでオススメです。その甲斐あってか、ひらがなの読み書き、足し算引き算は4歳ぐらいでできるようになりました。
それいいですね!クイズのように取り入れたりすれば、子どもも楽しいかもしれませんね。
子どもに何をさせるかだけでなく、親が何をするかも忘れずに
例えば、色を教えるとしても身近な絵本やおもちゃにはたくさんの色が使われているし、道路を歩けば色んな形のものに出会います。未就学児が覚えなくてはいけないことの多くは、暮らしの中で親が教えられるんですよ。これが受験を目指すとか、ピアノやテニスとなると親が簡単に教えられないので、また全然違うんですけれども。
なるほど、今まで気づかなかったけれど、普段の生活の中で教えられることってたくさんあるんですね。自分の行動をちょっと見直そうと思いました。そうすることで息子とのコミュニケーションも増えそうです。
家の外で何かを習わせることによって親が安心する部分があるんじゃないかなって思います。もちろん習い事もよい経験にはなるけれど、子どもは家の中でも色んなことを学べるんですよね。
子どもが学べる環境を用意してあげる=習い事だと思っちゃう親が多いのかもしれないですね。それでは最後に、先生が考える子どものうちに伸ばすべき能力とは何でしょうか。
感情のコントロールだと思っています。どうやってつらいことを乗り越え、頑張るか。ストレスをどう発散し、自分をコントロールするか。これは小さい時から訓練していないといけないと思うんです。私は、具体的に習い事で何をさせるかというよりも、何をさせるにしてもそこを中心に考えて子育てをするようにしています。
すごく勉強になりました。ありがとうございました!
執筆・イラスト:永岡さくら
編集:ノオト
当記事に掲載の情報は、執筆者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
永岡さくら
1984年生まれ。主にX(旧Tiwtter):@saaaaaaaaaaaack で育児漫画掲載中。
育児では「無理はしない」をモットーに、疲れた時は躊躇なく甘い物を摂取しています。痩せたい。
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