子どものために虫嫌いは克服できる?我が子の好奇心を育てる昆虫観察
ダンゴムシマニアの息子(3歳)の好奇心は大切にしてあげたいけれど、自分は虫が苦手なイラストレーターのあきばさやか。子どもが虫に興味を持ったことをきっかけに、虫嫌いをどうにか克服できないか...?虫好きと虫嫌いの分岐点を調査する発達心理学者・藤崎亜由子先生に悩みを相談すると、虫に対する気持ちに変化がありました。
ダンゴムシが大好きな3歳の息子。虫嫌いな親はどう向き合えばいい?!
虫好きな息子の好奇心を大切にしてあげたい気持ちはあるのに、いざ虫を目の前にするどうしても気持ち悪いと思ってしまう私。このジレンマはどうにかできないものか…。そこで今回は、虫好きと虫嫌いの分岐点を調査する発達心理学者で、幼稚園の園庭に生息しているムシ図鑑なども作っている兵庫教育大学・藤崎亜由子先生にお話を伺いました。
藤崎 亜由子(ふじさき あゆこ)
兵庫教育大学准教授。虫好きと虫ぎらいの分岐点を調査する発達心理学者。『子どもが虫と出会うことの教育的意義の探求』などの論文を発表。虫嫌いを緩和し多様な生きものとの共存・共生意識を育む保育実践プログラムの開発を行う。
昆虫は、子どもにとって一番身近な“野生の生き物”
今日はよろしくお願いします!
よろしくお願いします。
虫が大好きな3歳の息子を育てているんですが、しょっちゅう虫捕りに誘われたりして、最近ちょっとつらくなってきて…。そもそも子どもって、どうして虫が好きなんですか?
※今記事の「虫」とは、魚・獣・鳥以外の生物、とくに地を這う小さな生きもの全般を指します
子どもは虫に限らず、「生き物=動くもの」に興味を持つんです。赤ちゃんを対象にした実験でも、まだ言葉も話せないうちから、自分に向かってくるものや生き物の動きに対してすごく注目したり反応したりするということがわかっているんですよ。
へ〜!人は本能的に、生き物に興味があるということですか?
はい。環境に適応して安全に生きていくために「学習」するんです。人間以外の生き物に襲われたり、逆に自分の獲物にしたりしていた大昔の経験から、人は生まれてすぐに「動くものに注目する」という習慣を身につけるんですよ。
なるほど、そんな理由があったんですね。
まだ背の低い子どもがしゃがんだ時に、パッと目に留まる生き物が虫なんですよね。小さな手でも掴み取ることができますし。
たしかにうちの息子も、ダンゴムシを素手で掴みまくっています(苦笑)。でも、虫嫌いな子もたまにいますよね。
そうですね。私の研究では、幼稚園の年少クラスでは虫に抵抗感を持っていない子どもが多いのですが、年長クラスになると、特に女の子に虫嫌いな子が出てくることがわかりました。小学生になるともっと好き嫌いの差が顕著になって、3〜4年生をピークに子どもの虫に対する関心が一気に下降していくというデータがあります。
そうなんですね。単純に個人差なのかと思っていました。成長するにつれて、虫が嫌いになってしまう理由はどんなことが挙げられますか?
もちろん、生まれつきちょっとした刺激に弱いとか、怖がりな性格のために虫が苦手だというケースもあります。あるいは、ご家庭で頻繁にアウトドアに出かけるかそうでないか、という事情も、虫の好き嫌いに影響するでしょう。ただ、塾や習い事に通うようになると外遊びが減り、虫と出会う機会がぐっと減りますよね。小学校3年生の理科で昆虫について学ぶのですが、そこをピークとして興味が薄れるということもあるかもしれません。
たしかにそうですね。うちの子どもも、大きくなるにつれて虫に興味がなくなっちゃうのかな。ちょっと寂しい気もしてきたな…。
一度虫と触れ合う時間が減ってしまうと、久々に出会った時に「怖い」という感情が湧いてしまうことはどうしてもあるかもしれませんね。
大人になると虫が怖いのは、虫と触れ合う機会がなくなるから
私も幼い頃は虫と触れ合っていた記憶があるんです。それなのに、今ではすっかり苦手になってしまいました。
大人になると、たとえば「ハチに近づくと刺されるので危ない」といった“知識”ゆえに、虫が怖くなってしまうケースが多いと思います。あるいは、「病原菌を運んでくるんじゃないか」といった不安もあるかもしれません。
毛虫を見かけると、反射的に「毒があるかも!」と避けて通っていました。
毛虫は「毒があるぞ!」と見せかけてはいるんですが、本当に毒がある種類はそんなに多くないんです。そういう意味では毛虫の戦略勝ちですね(笑)。ハチにしても、スズメバチは巣が近くにある時に近づくと危険ですが、ミツバチやクマバチなどは、一方的に人間に攻撃をしてくることはありません。日本には10万種類ほどの多くの虫が生息するといわれていますが、その中で人間に危害をもたらす虫は案外少ないんですよ。
そうなんですね。誤った知識ゆえに、過剰に怖がってしまっているのかも…。
虫の好き嫌いには、虫に関する知識の有無も大きく関わってくるでしょうね。「虫は予測できない動きをするので怖い」という声もよく聞きますが、ある程度知識があれば、虫の行動パターンも予測することができます。哺乳類ほどわかりやすくはないですけどね。
なるほど〜。それから不思議なことに、同じ虫でもアウトドアシーンで出くわすか、家の中で鉢合わせるかで、だいぶ恐怖レベルが違います。部屋の中は本当に勘弁してほしいです…。
たしかに「野生環境で見た場合より、生活圏内で見た時のほうが虫への嫌悪感が増す」という研究結果もあります。ただ、純粋に明るいところへ寄ってくるという習性の虫も多いですから、部屋の明かりを消してみたら出て行くこともありますよ。虫との上手な付き合い方や距離感を知ることができれば、怖さも多少回避できるかもしれません。
納得させられることばかりです。ただ「怖さ」を感じるだけでなく、「生理的に気持ち悪い」と感じてしまうこともあるんですが、それは克服できますか?
表面がカラッとしているダンゴムシは大丈夫だけど、ヌメヌメ、ブツブツしている虫は気持ちが悪い、といった感じでしょうか。
そうですね。質感によって、気持ち悪さが倍増する気がします…。
虫への生理的嫌悪感に関する研究は、実はまだそこまで進んでいないんです。その中で考えられる要因としては、感染症や病原菌に対する拒否反応が、虫への嫌悪感に結びついているということです。どういうことかと言うと、実際に危険性がなくとも、それらを連想させる「見た目」が、人間に気持ち悪さを感じさせているのではないか、ということですね。
生理的な気持ち悪さを克服するのは難しいけれど、虫に対する知識や付き合い方を学習することで、少しは嫌悪感を軽減できるかもしれませんね。
そうですね。たとえばピーマンって「苦い」ですよね。あの苦味成分は、ピーマン自身が虫に食べられないために持っている忌避(きひ)物質で、自己防衛の役割があります。子どもはそういった知識がなくても、苦いのが嫌で吐き出してしまうことがあるじゃないですか。
うんうん、子どもってピーマン苦手ですよね。
そういった本能自体はとても大事だと思うんですね。一方で、大人になって感じられるようになるピーマンの「おいしさ」もありますよね。
そうですね、苦味こそがピーマンの旨味でもあります!
虫に置き換えても、「気持ち悪い」「怖い」というネガティブな感覚を乗り越えて、文化的な楽しさや面白みを見出すことさえできれば、一歩歩み寄ることができるんじゃないかな、と私は考えているんですよ。
なるほど。知識をつけた大人だからこそ楽しめる虫の世界があるかもしれないですね。そう捉えると、なんだかポジティブに向き合えそうな気がしてきました。
それはよかったです。大人が虫に対して「気持ち悪い!」「怖い!」とネガティブな言葉を発し続けると、子どもも影響を受けて虫嫌いになってしまうことがあります。できれば、「お母さんはちょっと苦手なんだけど、その虫のどこが好きだと感じたの?」というように、やんわり問いかけてあげられたらいいですよね。
肝に銘じておきます!
虫を通して、小さく弱い生き物への接し方を学ぶ子どもたち
最近子どもが、公園で採ったてんとう虫やダンゴムシを家に持って帰りたがるんです。今のところはリリースさせているんですが、それをやめて虫を飼うとすると、子どもにどんないい影響がありますか?
何を食べるのか、寿命はどれくらいなのかなど、野生で観察するだけでは得られない大きな気づきが得られますし、生き物に対する愛着が湧きますよ。ただ、いざ家で飼育するとなると結構ハードルが高いですよね。
そうなんです。餌を確保するのも大変そうだし、結局お世話をするのは息子ではなく私、という未来が目に見えますし…。
自分でお世話ができない段階で飼育をすることは、時に生き物を粗末にすることにも繋がってしまいますから注意が必要ですね。あくまで無理のない範囲で、カブトムシのようにお世話が比較的易しい昆虫を、まずは一匹だけ飼ってみるというのもひとつかもしれません。
なるほど…。そもそも飼育以前の話かもしれないんですが、私が最近ちょっと気になっているのが息子の虫への接し方なんです。
どんなふうに接しているのですか?
本人に悪気はないとは思うんですが、公園でアリを踏んづけたり、力加減がわからないままダンゴムシをツンツンしすぎて、うっかり死なせてしまったり…。
なるほど。虫好きのお子さんを持つ親御さんからよく寄せられる悩みですね。
うちだけじゃなかったんだ!(ホッ…)そういう時に、親としてはどう対応すればいいでしょうか。
意図的に片っ端から虫を踏み潰しているのを見た場合は、止めに入るべきだと思います。一方で、そうでない場合においては、子どもが虫に触れているのを、少しだけ見守ってみるというスタンスも必要だと私は考えています。その上で、「ムシさん、今どういう気持ちかな?痛くないかな?」といった形で、命の大切さに目を向けさせるような声かけをすることが大事ですね。
なるほど。虫の命に関しては、正直捉え方が難しいと感じます。私自身、家で虫が出てきたら、手でパン!と潰してしまったこともありますし。
そうですね。保育士の方に話を伺うと極端な場合、最近では蚊も殺さずに、「フッと息を吹きかけて追い払いましょうね」という教育をする場合もあるようです。
つまり正解はない、ということでしょうか。
はい。時にはうっかり潰してしまうこともあり、それに対して「かわいそう」「ごめんね」と罪悪感をおぼえることも、子どもにとって大切な学びになります。生き物との接し方には、さまざまなバリエーションがあるということを教えてくれる。そんな存在が虫であるという風に捉えてもらえるといいんじゃないでしょうか。
少し心が軽くなりました。虫ってあんなに小さいのに、いろいろなことを教えてくれるすごい存在なんですね。
そうなんです。実は最近科学的な側面でも、虫の可能性が注目されているんですよ。「昆虫食」って聞いたことはありますか?
少し前に、コオロギせんべいが話題になっていました!
はい。今後やってくると言われている食糧難の時代に、昆虫が貴重なタンパク源になるということで、最近かなり研究が進んでいるんです。ほかにも、生物の持つからだの構造や機能から着想を得て新しい技術開発をする「バイオミメティクス」の領域においても、虫が多く研究対象になっているんですよ。
科学技術の進歩にも、虫が一役買っているとは知りませんでした。
そういう意味でも、これからの子どもたちが虫に興味・関心を持って探求していくことは、より重要になってくると思います。
とても勉強になりました!私自身も、虫のことが少しだけ好きになれそうな気がします。
日本は世界的に見ても、虫と触れ合うことを好む文化がある国です。これほど虫捕りが盛んだったり、虫をテーマにした絵本や図鑑が溢れていたりする国は、ほかにありません。ぜひ子どもたちと一緒に、楽しみながら虫の世界に関わってみてくださいね。
はい、がんばります!ありがとうございました。
昨日よりは、息子と一緒に昆虫観察を楽しめたかも…!
【昆虫採集の注意点】
これらが守られないと昆虫採集自体が禁止になってしまうこともあります。マナーを守って学びましょう。
・昆虫採集の際は所有地の持ち主に許可をもらい、危険な場所へは立ち入らない
・虫を捕るために木や土をむやみに掘り返して生息地を傷つけない
・虫を捕るためにしかけたトラップを放置しない
・ゴミは必ず持ち帰り、周囲の自然環境を破壊しない
・飼育できる昆虫か事前に調べ、希少種は持ち帰らない
・持ち帰った虫は必ず最後まで飼育し、野外に逃がさない
・昆虫の産地情報についてSNSなどでむやみに拡散しない
・当記事に掲載の情報は、執筆者、取材対象者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
取材&イラスト:あきばさやか
執筆&編集:波多野友子+ノオト
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よろしいですか?
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