ノーベル賞理論で子育てが捗る!?「ナッジ」で、よりよい子育てライフを!
「Nudge(ナッジ)」とは、強制ではなく、あくまで自発的にその人にとってふさわしい行動のきっかけを促す「行動経済学」に含まれる理論。この理論は2017年にノーベル賞を受賞し、今、世界各国で注目されています。イヤイヤ期真っ最中の娘に対して「あれして、これして」が口癖になっていたデザイナー・あいが、家事や子育ての視点からナッジについて研究している竹内幹先生にアドバイスをもらい、ナッジのテクニックを生活に取り入れてみました。
はじめまして、デザイナーのあいと申します。現在2歳半の娘(ゆいどん)と楽しく暮らしていますが、ことあるごとに「それはダメ!」「ちゃんとやって!」と言い聞かせる日々。娘はまだ理解できないことも多いため、あの手この手を使って、子育てに奮闘しています。
「あれして、これして」は言う方も言われる方も疲れてしまうはず。もっとお互いにストレスなく、スムーズに育児ができないものか…。いろいろ調べてみると、「ナッジ」というキーワードを発見!2017年にノーベル賞を受賞した「行動経済学」に関する理論で、超ざっくりいうと「無意識にやってしまう行動心理」とのことらしい。もしかして、子育てにナッジを取り入れたら、日々の苦労が少しは減ってくれるのでは?
行動経済学を専門として、一男一女のパパでもある竹内幹先生にお話を伺いました。
竹内 幹(たけうち かん)
一橋大学大学院 経済学研究科准教授。専門は、実験経済学・行動経済学。主に、組み合わせオークションや時間選好の研究に取り組んでいる。
ナッジとは「自然にそっと後押しすること」
今日は「ナッジ」についていろいろ教えてください。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ナッジとは、そもそもどんな理論なんでしょうか?
ナッジは直訳すると、”肘で他人をちょんちょんとつつく”という意味です。
え〜っと(肘でちょんちょん…?)
つまり、ちょっとしたきっかけで人の行動を促すことを指します。ナッジとは、「強制ではなく、あくまで自発的に、その人にとって望ましい行動を取らせる仕組み」なんです。
強制せず…自発的に…望ましい行動を…?これってノーベル賞をとったすごい理論なんですよね?
ナッジそのものがノーベル賞をとったわけではないんです。2017年に、シカゴ大学のリチャード・セイラー博士が立ち上げた「行動経済学」がノーベル賞を受賞したのですが、そのひとつの応用が「ナッジ」と呼ばれる理論です。
「ナッジ」とは、行動経済学の一部というわけですか。
そうです。人は〇〇すべきと頭でわかっていても、いつも最適な行動がとれるわけではない。そんな時は「なぜできなかったのか」を調査・分析して、その人にとって適切な方向へと行動を促す、それがナッジの目的です。
肘で他人をちょんちょんとつつくにも、その裏側に計算が必要なんですね。
その通りです。
スーパーのレジ待ちの「足跡マーク」もナッジだった!
私たちの身の回りにあるナッジの具体例を教えていただけますか?
ソーシャルディスタンスを保つために書かれた「足跡マーク」ですね。いまは「人との間隔は2mあけたい」ところですが、人は心理的に「行列は詰めないといけない」と感じてしまうんです。
わかります!レジに並んでいる時とか、後ろの人に「詰めろよ〜」と思われないか…気にしちゃいます。
そう思っている時に、足下に足跡マークがあると自然とそこに立ちたくなる。これは人の「本当はこうしたい」と思ったタイミングにちょうど「足跡マークがある」ことで、最適な行動へと繋がるという、ナッジです。
なるほど〜!
これはアメリカの話なんですが、インフルエンザの予防接種の案内状に、接種に行く日付と時間を自分で決めて書き込める空欄を作っておくだけで、接種率が上がったというデータがあるんですよ。
わぁ〜。予防接種の案内状って、「あとで確認して予約しよう」って思って、冷蔵庫に貼り付けてそのままうっかり忘れてしまう…なんてことよくあります。
そういう親御さんって多いと思うんですよね。でも、記入欄があるだけで、自然と「今スケジューリングしようかな」という気持ちにさせるナッジといえますね。
すごい!納得です!大人もナッジによって、いろいろ行動が変わることが分かったのですが、子どもに対しての教育現場におけるナッジにはどんなものがありますか?
歌に合わせて楽しく手洗いをしたりしますが、これも一種のナッジといえますね。強制ではないけれど、最後まで歌いたくなる心理を利用して、手もキレイになっているという…!
そういえば、娘もお気に入りの手洗いの歌があります!うわ〜ナッジってすごいな。うちの娘は今イヤイヤ期真っ最中なので、ナッジを日頃から取り入れてなるべく穏やかに過ごすヒントを教えてほしい…。
お悩みその①:保育園のお迎え「自転車に乗る・乗らない」問題
毎日直面している具体的なシーンの悩みを相談してもいいですか?
はい。どんなことでしょう?
保育園帰りに自転車に乗せる時なんですが、大体「乗らない!歩く!」と抵抗されて格闘しています。あまりにも時間がかかる時は「座れたらシールあげる!」とモノで釣って乗せることもあり…それも気分によっては効かないこともあるし、毎日時間がかかってゲッソリします…。
その状況とってもよくわかります(笑)。解決策を一緒に考えてはいきますが、まずナッジは目的を果たすための方法であって、他人をコントロールする方法ではないことは忘れないでくださいね。
は、はい…!
こうすれば間違いなし!という方法はないので、まずは娘さんがなぜ自転車に乗りたがらないのか考えてみましょう。
娘は自転車に乗るよりも歩くことが大好きなんです。でも、保育園から家まで歩いて30分以上かかるので、親としては自転車でサッと帰って早く家事をしたいです。
なるほど。早く帰りたいあいさんと、ただ歩きたい娘さんのそれぞれの目的が違うから自転車に乗る、乗らないで衝突してしまうんですね。
そうですね。親としては、時間を無駄にしたくないんです…。
時間をムダにしたくない、とのことですが、娘さんとのやりとりに「何分かかってるのか」を計測したことはありますか?
それはないですね。
測ってみると、意外と5分程度で落ち着いてるかもしれません。
確かに「乗って→嫌だ→乗って→嫌だ」のやり取りは自分もイラッとしてしまって長く感じるのですが、実際は毎日5〜10分ぐらいな気がします。
1日10分かかっているとして、1週間で50分。
計算するとなかなかの時間ですね。
これなら週に1日「歩く日」を設けてみるというのはどうでしょうか。「3回自転車に乗ったら、次の日は歩いて帰る」とわかれば、すんなり自転車に乗ってくれるかもしれないです。
週1回歩くと30分かかりますが、他の日のイヤイヤの時間がなくなって、かかる時間が0分だとすると、トータルで30分ですね!娘の希望も叶えられるし、今より結果的にはいいのかも!
スタンプ帳を作って気分を盛り上げてみるのも、いいかもしれません。コンプリートしたくなるアイテムを使って、ゲーム感覚にしてしまいましょう。あと、保育園から少し離れた場所に自転車を停めて、そこまでは歩いて、着いたら自転車に乗ってもらうというのはどうですか?
どちらも喜びそうな気がします。
こうやって、「原因分析」「計測」「実験」を繰り返すと、いろいろ改善できるかもしれません。あと、娘さんの気持ちに「同意」してあげるのも大切です。週1回は一緒に歩く、というのは娘さんの気持ちに対する同意ですから。
先生〜!ありがとうございます!(涙)
・子どもが自転車に乗りたがらない気持ちや、理由を考えよう!
・実際にやりとりにかかっている時間を把握しよう!
・親子それぞれが歩み寄れる作戦を考えて、取り入れてみよう!
お悩みその②:食事中「食べものの好き嫌い」問題
次は食事の悩みなんですが、基本的にうちの子は食欲のない子で…。食事中は好きなもの以外は食べず完食することはほぼなくて、栄養が偏らないか心配です。エプロンをつけようとする時点で不機嫌になることも。
好き嫌いなく何でも食べて、健康に成長してほしいのが親心ですよね。そのためには、まず食事の時間=楽しい時間だと、娘さんが思えるナッジを見つけたいですね。
そうですね。となると、エプロンを無理やりつけさせようとするところから、見直しが必要なような…? でも、毎回派手に汚されちゃうと洗濯も大変で…(涙)
洗濯の手間を増やしたくないという気持ちもわかるのですが、汚れても良い食事用の服を用意してエプロン代わりにしちゃうのはどうでしょうか?
その発想なかったです。エプロンの格闘でイライラしてしまうと、お互いにとっていいことがないですもんね。
食べものの好き嫌いに関しても、私は無理に子どもとケンカしてまで食べさせなくてもいいと思うんです。
「好き嫌い=良くない」という考えは一旦頭から外して、食事の目的は「健康に成長するための栄養を取れているか」というベースで見るということですね。
そうですね。
竹内先生の話を聞いていると、親はつい子どもの”できてない”行動に目が行きがちですが、その先にあるもっと大きな目的を忘れがちなのかな、と思えてきました。
もちろん子どもへは、「嫌いな〇〇にはこんな栄養素がある」「好き嫌いばかりしているとわがままだと思われる可能性がある」ということを、ちゃんと伝えてはいます。その上で子どもに、食べるか食べないか、自分で意思決定させるといいと私は思っています。
たしかに、自分で考えて決めるべきですね!娘がその言葉を理解できるのはもう少し先だと思いますが、きちんと伝えていきます!
・食事の時間がネガティブになる要素を見直そう!
・食事本来の目的は何か考えよう!
・選択肢を用意して本人に決定してもらおう!
お悩みその③:寝かしつけ「寝室に来てくれない」問題
あとは、寝かしつけにも悩んでいます。寝る時間になって「ねんねしよう〜」と誘っても、「まだねんねしない!」と寝室に入りたがりません。あまりに遅くなると、無理矢理抱っこして泣かせながら寝室へ押し込むことも…。
娘さんが、寝たくない原因はなんだと思いますか?
まだ遊んでいたいという気持ちが大きいと思います。最近はパン屋さんごっこが大好きで、おもちゃのパンを並べては何度も何度も「いらっしゃいませ〜」と遊んで楽しんでいます。
それはとっても楽しいんでしょうね。寝ることが嫌なのではなく、遊びを中断されることが嫌なのかもしれません。小さい子も親に全て指示されるのではなく、自分でいろいろ決めたいんですよ。
確かに…。
ということは、遊びを中断する「ねんねしよう」の声かけではなく、違う方法がナッジになるのかもしれないですね。
なるほど〜。今までは早く寝かせたくて寝室に誘導したい気持ちばかりで、ただ「寝室においで〜」と言ってばっかりでした。「あと何回いらっしゃいませしたら寝ようか?」って聞いてあげたら、何か変わるかも?
それ、いい作戦だと思いますよ!「ママも困っているんだけど、助けてくれないかな?」とお願いしてみたり、「子どもの気持ちに同意して代弁してあげる」と、スムーズにいくかもしれません。
「このパン屋さん遊び、すっごく楽しいよね、わかるわかる…。でも、ママはもう眠たいな。あと何回いらっしゃいませしたら、一緒に寝てくれる?」という感じですかね?
そうです!是非やってみてください。そして、寝室に来てくれたら「ありがとう」と伝えてあげてください。
・「遊び→寝る」の切り替えのタイミングを本人に決めてもらおう!
・まだ遊びたい気持ちに同意して、代弁してあげよう!
・言い方を変えて、本人が寝室に向かいたくなる演出をしよう!
ナッジって、どんな子どもにも通用する仕掛けみたいなものかと思っていたのですが、違うんですね。親子でコミュニケーションがうまくいかないことがあったら、親と子どもそれぞれの気持ちや目的を考えた上で、行動やかける言葉を選んでいくことが、私なりのナッジの取り入れ方かな、と思いました。
そうですね。あと、親御さんは良いことも含め「自分がしたことを可視化する」のも大切だと思います。私は子どもに怒鳴ってしまった時、貯金箱に100円を入れるようにしています(笑)。コインを入れる時に「こうすれば、怒鳴らなくてもすんだのかな…」と冷静になって分析する時間になっています。
我が家も取り入れてみようかな〜。
あくまでも私の一例ですけどね。まず感情的にならないよう、血糖値を上げるのも大切ですよ!子どもと接する前に、親がチョコレートを食べるのはおすすめです!
さすが先生!なんでも分析して可視化、数値化するのがお好きですね!(笑)でも、育児って「あれしなきゃ、これしなきゃ」って思いがちで、今までやってきたことを可視化する発想がなかったです。
着替えさせた回数、読んだ絵本の数でもいいんです。可視化することで途切れのない子育てでもご褒美感や達成感が得られます。
先生!今日はありがとうございました。
ナッジの理論を試してみたら…
竹内先生のお話やアドバイスをもとに、自宅で1週間、育児の困りごとにナッジを取り入れてみました。
まずは保育園のお迎え時、気分良く自転車に乗ってもらうために、「あそこまで歩いてみよう作戦」を試してみました。保育園から少し離れたところに自転車を停めて、「自転車のところまで歩いてみようね〜♪」と説明するとご機嫌で歩き出してくれたゆいどんでしたが、自転車に着いたところで…
ゆ「じてんしゃのらない!あるくのー!!」
私「………(チーン)」
結局、その日は今までと同じように5分ほど格闘することになりました…。そこで、スタンプラリーならぬ、シールラリー作戦を実行!
保育園のお迎え時、シール台紙をゆいどんに渡し「今日からここにシールを貼っていくよ。今日は自転車のマークだね!」と説明すると、楽しい雰囲気を感じ取ってくれたのか、その日はすんなりと自転車に乗ってくれました!
この日から、自転車に乗るまでの平均時間は1〜2分。やった〜!歩いて帰る日は30分かかるものの、運動不足対策にもなると割り切って考えると気持ちの良いものでした。何よりゆいどんも楽しそうで、幸せな時間に感じました。
食事についても、「エプロンつけなさい!」と親子で格闘する1分よりも、服を洗面所でもみ洗いする1分の方が同じ時間でもお互いストレスがないように思えてきたので、毎日の強要は止めました。完食しない問題についても、
「ちゃんと食べようね」の声かけは続けますが、保育園ではきちんとエプロンをつけ、座ってご飯をたくさん食べているそうなので、まずは外でがんばっているゆいどんを褒めることに。「ご飯は好き嫌いなく完食して欲しい」という気持ちは、ゆいどんがもうちょっと理解できる年齢になったら、しっかりと伝えていきたいです。
そして…!一番びっくりしたのが寝かしつけ。
先生のアドバイス通りに「そうだよね、このパン屋さんの遊びは楽しいよね…もっと遊びたいよね。このパン屋さん、あと何回やったらおしまいする?」と声をかけてみましたが「おしまいしない、ねない!」と聞く耳を持たないゆいどん…。言葉で誘導するのは難しく感じました。
どうしたものかと観察していると、遊び続けられる環境があるから、終わりがないんだ…!と気づいたので、「あと1回遊んだらリビングの電気を消すね」と約束し、宣言通り電気を消すと、暗いリビングでパン屋さんごっこができないゆいどんは、ねんねするしかないと思ったのか、自分から寝室へ向かってくれたのです!
今までまだ遊びたいと泣き叫ぶゆいどんを抱き抱えて寝室へ連れて行ってたのに…正に強制の方法から、自発的に行動を促す方法へ改善できたように思います。
今はリビングの電気が消えるという非日常を楽しんでいるようにも見えますが、こちらの方法を続けて様子を見ていこうと思います!
互いの気持ちを分析して、ストレスを減らそう!
子育てって人間同士のコミュニケーションなので、一筋縄ではいかない事だらけです。なので一瞬で何かが解決するということはほとんどないんですよね。
だからこそ、双方の折り合いをつけた「最適行動」を目指し、改善を重ねていく、そんなナッジの考え方は子育てとの相性がいいと思います。
私がナッジを意識して行動する内容はまだまだ「最適」ではないかもしれませんが、いつもと違う考え方から生まれた発想を試して親子の笑顔が増えたことは間違いなく、生活が「より良くなった」と感じることができました!
編集:ノオト
・当記事に掲載の情報は、執筆者・監修者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
あい
フリーデザイナーの新米ママ。娘(ゆいどん)とのドタバタな日常や育児のお役立ち情報をInstagram (@yui_dondon)やブログ(どんどん育児)に掲載中。
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下記のコメントを削除します。
よろしいですか?
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