子どもの嘘は必要?専門家に3歳&5歳の嘘の悩みを聞いてみた
小さな子どもを持つ親であれば、自分の子どもが嘘をついた時に少なからずショックを受けたり、どう対処すればよいのか悩んだりするもの。でも、成長の過程においては、人間が円滑なコミュニケーション能力を身につけていくために嘘は必要で、過剰な心配はいらないそう。子どもの嘘と上手に付き合っていくコツを、子どものコミュニケーション能力について研究している東京学芸大学の松井智子先生に聞きました。
子どもの嘘ってどうしたらいいの…?
はじめまして、2人の息子を育てている、ライターの栗本千尋です。
性格は似ていない兄弟ですが、二人揃うとやんちゃ真っ盛りで、いつも家でドタバタ…。少し目を離していると、だいたい弟の泣き声が聞こえてきて、「叩いた!」「叩いてない!」と言い合っています。こんな時、どちらの言っていることが本当で、嘘なのか、判断しにくくて困ってしまいます。
我が家では、兄弟でつく嘘にそれぞれ特徴があるように感じています。
例えば、兄は嘘をつくというより隠し事をすることが多く、2歳くらいの時に「鼻の中からなにか臭うな…!?」と思って耳鼻科に連れて行ったら、イヤホンのゴムが出てきたことがありました(!)。
一方で、弟はというと明らかにお兄ちゃんのことを叩いたのに「叩いてないもん!」と主張するなど、とってもわかりやすい嘘をついています。呼吸するくらい自然に、毎日何かしらの嘘をついているので、先日もお父さんから大目玉を食らったばかりです…。これはなんとかしたい…!
彼らなりに嘘をついてしまう理由があるのだろうと思いつつ、自分の心に余裕がない時には、つい叱ってしまったこともありました。また、そもそも嘘なのか、そうでないのかわからないことも多く…。なんで子どもって嘘をつくの!?いや、嘘なの?どうなの?
子どもが嘘をつく心理について知ることができたら、もう少し上手に子どもの嘘と付き合えるようになるのでは?
そこで、『子どものうそ、大人の皮肉』(岩波書店)の著者で、東京学芸大学教授の松井智子先生にお話を聞きました。
松井 智子(まつい ともこ)
専門は言語学と発達心理学。ロンドン大学ユニバーシティカレッジにて博士号取得。国際基督教大学、京都大学霊長類研究所を経て、現在は東京学芸大学国際教育センター教授。著書に『子どものうそ、大人の皮肉』(岩波書店)、『ソーシャルブレインズ』(分担執筆、東京大学出版会)、『ミス・コミュニケーション』(分担執筆、ナカニシヤ)などがある。
子どもは、年齢とともに“嘘をつける”ようになっていく
今日はよろしくお願いします。さっそくですがうちには5歳と3歳の息子がいるんですが、特に次男の嘘は日常茶飯事で…。明らかな嘘をついていても、「うそじゃない!」と主張するんです(笑)。これって普通なんですかね…?
そうですね、個人差はありますが、2〜3歳くらいから嘘をつき始める子が多いといわれているので、この時期に嘘をつくことは不思議なことではないですよ。
そういえば、我が家の子どもたちも2歳くらいから嘘をついていた気がします…。じゃあ、そんなに気にしなくてもいい…?(泣)
嘘って良くないものだと思われがちですが、人間が成長する上で必要なことなんですよ。
えっ!そうなんですか!?
言語力が高い子ほど上手に嘘をつくことができるので、発達の指標としてわかりやすいんです。
我が家でも3歳より5歳のほうがバレにくい嘘をつくような気がします…(笑)。次男はお菓子を食べていたのに「食べていない」と言うような単純な嘘ですが、長男はケガした理由をなかなか教えてくれないとか…。嘘なのかどうかもよくわからないんです。年齢が違うと、嘘にはどんな違いがあるのでしょうか?
2歳くらいになると、自分の欲求や単純な感情がわかってくるので、「叱られたくない」とか「欲しいものを手に入れたい」などの気持ちからくる嘘をつくことが多いようです。
目の前のネガティブな状況から逃れるためなど、欲求に正直な嘘なんですね。次男がまさにそのタイプの嘘かも。
2歳から3歳になるころまでは、「現実」と「非現実」の区別も、「自分」と「他人」の区別もはっきりしてないといわれています。なので、本人も話しているうちに、嘘だったのかどうか、わからなくなっていることもあるかもしれません。
悪意があるわけじゃないし、なんなら嘘をついている意識が弱いんですね…。次男も「うそじゃない」と主張しているうちに、本人のなかではそれが真実になっているのかな(笑)。善悪の区別がつき始めるのは何歳くらいからですか?
3歳以降、徐々にですね。自分がしたことを把握できるようになり、絵本やテレビから「悪い人が嘘をつく」みたいな簡単な理解も始まります。「それやっちゃいけないんだよ」と、人に教えてあげたい欲求なども出てきます。
ああ、よく見かけます!お兄ちゃんが弟に向かって「それはやったらダメなんだよ」など、よく言っていました。それによって、「自分も嘘をついちゃいけないんだ」と考えられるようになるんでしょうか?
いや、そこまではまだ考えられないですね(笑)。
そうなんですね(笑)。
そこから4〜5歳になると嘘をついている自覚が出てきて、言葉を使って嘘をつくことが上手になっていきます。さらに5〜6歳になると現実と非現実を分けて捉えられるようになり、自他の区別もついてきます。
なるほど、じゃあ上の子が嘘をつく時は、嘘をついている自覚があるかもしれない、と。
「心の理論の発達」といって、「自分と違う考えの人がいる」みたいなことが理解できてくるんです。現実に起こっていることだけでなく、自分と違う立場の人のことを思い浮かべることができたり、比較できたり、いろんな発想ができるようになったりします。
そうなんですね!小学校に入学するくらいのころには、自分と違う考え方の人がいるって理解しているとは…。大人でもそういうふうに考えられない人もいそうなのに(笑)。
子どもの嘘の変化
2〜3歳:自分の欲求を満たす嘘をつく
4〜5歳:嘘をついている自覚を持ち始める
5〜6歳:現実と非現実、自己と他者の区別がつくようになり、現実には起こっていないことでも想像して嘘をつけるようになる
嘘をつくためには“コントロール能力”が必要!?
お話を聞いていて、嘘をつくことも、彼らが成長している証なんだと思えるようになってきました!
大人だって、目の前で起こっていることや、思い浮かべていることをそのまま口に出す方が簡単ですよね。そうじゃないことを言えるということは、脳で複数の思考ができている証拠です。
たしかに、やったことを「やってない」と嘘をつくのは簡単ですが、実際に起きていない出来事を現実かのように嘘をつくのは、高度な感じがしますね…。
哲学や発達心理学では、現実世界の状態と、私たち人間が頭の中で思い浮かべることを区別しています。頭の中に思い浮かべることは、心理的産物で、現実の世界と同じであるかもしれないし、違うかもしれません。
そうですね。
嘘をつくには、起こってもないことを、あたかも起こったかのように言う必要があるので、現実と非現実の両方を頭の中で思い浮かべる必要があります。これはなかなか大変なので、嘘をつけるようになるには時間がかかります。それに加えて、嘘をつくためには「実行機能」が必要です。
じ、実行機能…?
実際のできごとを言うのを抑えて、別のことを言わなくてはならない時には、コントロール能力、抑制能力が必要ですよね。それが「実行機能」です。
嘘をつくには、そういう能力がないとそもそもできないと…。そうやってコミュニケーション能力が上がっていくんですね。これから小学校に上がると、もっと高度な嘘がつけるようになってしまうんでしょうか?お、恐ろしい…!
そうですね。宿題や習い事が始まる子も多いので、やらなきゃいけないことが増える傾向があります。大人から期待されていることもわかってくるので、単に叱られるのを避けるのではなく、「宿題をやった」と嘘をついたり、この時期からカンニングも始まったりします。
「宿題をやった」という嘘は、私自身も心当たりがあります…。
人を傷つけないための嘘というのも、高度な嘘のひとつです。例えば競走してビリだった子に「ビリだったね」ではなく、「頑張ったよね」って言えるようになるとか。早い子だと6歳くらいで、いろんな立場や視点の違いがわかるようになっていくんです。
そういえば、長男がお友達に引っ掻かれた時もかばっていたことがありました…!これも優しい嘘かも?
子どもが嘘をつく行動に影響しているのは、環境?性格?
嘘の頻度や内容は、性格によるものが大きいのか…、それとも環境によるものが大きいのでしょうか?
性格が影響しているかどうかは、まだはっきりとした研究結果が出ていないんです。環境との関係性や影響についてわかっていることはあります。
例えば、どんな環境が影響するんでしょうか?
大人が厳しいルールを設ける家庭では、子どもが嘘をつく頻度は高くなるといわれています。
そうなんですか!
厳しいルールを守れなかった場合、「叱られたくない」という思いで、「今後はもっとうまく嘘をつこう」と思ってしまうかもしれないので…。
気を付けます…。
他にも、親が子どもに嘘をつく家庭も要注意です。
親が嘘をついているなんて、子どもにわかるものなのでしょうか?大人ですら子どもの嘘を見抜けないことがあるんですが…。
うーん、例えば、誰かが家にきたのを子どもに対応させて「『今いない』って言って」と、嘘をつかせてしまったり、親が嘘をついてその場を逃れることを見聞きさせてしまったり…。
うわー!親の言動をしっかり見ているんですね。自分が軽い気持ちで言った嘘が子どもに影響することを考えると、気を付けないと!でも、先ほどまでのお話だと、そうやって親の嘘に影響されてしまってつくようになった嘘でも、脳が発達して、賢くなっていくのでしょうか?
誰かのためとか、計画性があるわけじゃない、難を逃れるための単純な嘘なので、そこは必ずしも賢くなるわけではないですね。
そういう嘘をついても、いいことはないんですね。
子どもの嘘に隠れた背景を想像しよう
先ほど厳しいルールを設けると良くないというお話がありましたが、子どもに嘘をつかれた時、どう対応すればいいでしょうか?
子どもを叱ったり、嘘をつかせないようにしたりするのではなく、親の方が対応を変えなくてはならない場合もあります。例えば宿題をやっていないっていう嘘なら、やるように仕向けるとか、親も手助けするとか、やったら褒めるとか、具体的に行動することですね。
環境づくりが大事なんですね。
はい。それから、「なぜ子どもがそういう嘘を言うことになったのかな?」と考えてあげてください。
嘘をついた背景を推測する…でも、具体的にどうしたら?
「お腹が痛い」とか、「おもちゃを取られた」のように、自分を弱者にする嘘は、かまってほしい気持ちの現れかもしれません。かまってあげればなくなるので、あまり心配はいりません。
ああ…なんとなくわかります。
他にも、「ゲームのカードを100枚持っているんだ」とか、「冬休みにハワイに行ったんだ」といった嘘の自慢をする子は、「尊敬されたい」「注目されたい」という思いが背後にあるかもしれないですね。繰り返し起こるなら、「今のままのあなたで素晴らしいんだよ」って話をしてあげるとか、子ども自身が気付いていない良いところを伝えてあげましょう。
子どもへのプレッシャーを減らして、自尊心を育もう!
そうだ。上の子は、嘘をつくというより隠し事をするところがあるのですが、これは性格なのでしょうか?
成長とともに自分への期待もわかってくるし、親や周りに心配をかけないようにと我慢できてしまうと、隠すタイプの嘘をついてしまうかもしれません。
たしかに、「いい子だね」とか「優しい〜!」と言い過ぎていて、彼の中で「いい子で、優しくないといけない」とプレッシャーになっているのではと感じることがあります。どう接していくといいのでしょう…?
栗本さんのお子さんの年齢では、まだそうだとは限らないのですが、隠し事をする子は「友達とうまく付き合えない」「勉強ができない」といったような劣等感を抱えている可能性もあるので、親の失敗談を話すのも良いと思います。
なるほど…、それは気にかけてあげたほうがよさそうですね。失敗談ならたくさんあります(笑)!
今は、小さいころから、幼稚園や小学校の受験勉強をしている家庭も多く、プレッシャーを背負っている子が昔に比べて増えていますよね。発達心理学の研究では、親の期待や、プレッシャーが多い子ほど嘘をつくといわれています。
なんか切ないですね…。
失敗は許されないとか、成果を上げなくてはならない状況に追い込まれて嫌になり、親の期待を裏切りたくないという葛藤から、心のバランスをとるために嘘をつくことがあるんです。
受験させること自体が良くないわけではなく、プレッシャーをかけるのが良くないということですよね?これは、親の心構え次第といえそうですね。
はい、そうです。点数や能力について褒めたり注意したりすると、「高い得点をとらなきゃ」などと考えてしまうので、子ども自身のやってきたことを褒めてあげるといいでしょう。運動でもなんでも、努力やプロセスを褒めると、自尊心を育てることができます。
大人はついつい結果を見てしまいがちですが、過程を見守ることが大事なんですね。
自尊心がある子は嘘をつかないんです。「自分が頑張ったことで褒められた」という経験をさせてあげてください。嘘をつくことは成長の過程で必要ですが、嘘をつくことが解決策ではないことも教えていけるといいですね。
ああ、本当に学びがたくさん…!先生、今日はありがとうございました!
子どもの嘘を理解できたら、対処法がわかって気が楽に
取材前は、わかりやすい嘘ばかりつく次男のことを心配していたのですが、成長の過程なのだと理解したら、嘘をつかれても優しく接することができました。夫も最近、次男の嘘をひどく叱ったばかりだったので、このことを共有して、「長い目で見ていこうね」と話しています。相変わらず嘘は多いですが…(笑)。
それよりも、松井先生は長男のように「隠すタイプの嘘」を気にかけてあげたほうがいいとおっしゃっていたので、日常のコミュニケーションを丁寧にとることを心がけるようになりました。自分の失敗談を話すなどしながら、「嘘をつくことが解決策ではない」ということを伝えていけたらと思います。
「嘘が悪い」と叱ってしまうのではなく、子どもが「嘘をつかなくてはならなかった」理由を考えて寄り添っていきたいと、改めて思いました。
・当記事に掲載の情報は、執筆者及び取材対象者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
イラスト:あきばさやか
編集:ノオト
この記事を書いた人
栗本千尋
1986年生まれ。青森県八戸市出身(だけど実家は仙台に引っ越しました)。3人兄弟の真ん中、2人の男児の母。旅行会社、編集プロダクション、映像制作会社のOLを経て2011年に独立し、フリーライター/エディターに。関心分野は家族、子育て、地方など。2020年8月に地元・八戸へUターンしたばかり。
X(旧Twitter): https://twitter.com/chihirokurimoto
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