緊張しない方法って?からだに出る反応が違うのはなぜ?専門家に聞いてみた
2月といえば受験シーズン真っ最中。ここ一番の大勝負は、どうしても緊張してしまうものですが、緊張しない方法ってあるのでしょうか。なかにはまったく緊張しない、いわゆる「鋼のメンタル」の人もいるようですが、どうやったらなれるの...?そう疑問に思ったライターの井口エリさんが、昭和大学ストレスマネジメント研究所・所長の中尾睦宏先生に緊張のあれこれについて伺いました。
受験シーズンのたびに脳裏に蘇る、バキバキに緊張した思い出
こんにちは。ライターの井口エリです。
2月といえば、学生さんにとっては緊張が続く季節…そう、受験シーズンです。この時期に思い出されるのは、緊張しやすい自分にとって、受験は心身ともにしんどかったなということ。
私は緊張をすると、つい空気を飲みこんでしまいがちで、そのせいで胃が気持ち悪くなることがあります。
受験の時も例にもれず緊張し、こみあげてくる胃の不快感と闘いながらペーパーテストに挑みました。なんとか試験には合格したものの、苦い思い出です…。
その後大人になっても、緊張する機会は普段の生活のなかにいくらでもあります。
例えば、ゲームのオンライン対戦。オンライン対戦では、対戦相手がコンピューターではなく実際の人間です。画面の向こうに知らない人がいるという緊張感に、手足をガクガク震わせながらゲームに挑んでは、結果は言うまでもなく散々…ということも。今はさすがに慣れましたけど…。
こうした緊張から解放されて、ラクに生きることはできないのでしょうか。
緊張について詳しく知りたいし、そもそも緊張しない方法があるのであれば知りたい!
昭和大学ストレスマネジメント研究所所長の中尾先生、教えてください…!
中尾 睦宏(なかお むつひろ)
医師。昭和大学ストレスマネジメント研究所長・教授。ベンソン-ヘンリー心身医学研究所客員研究員(旧ハーバード大学心身医学研究所)。東京大学医学部卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了(MPH)。ハーバード大学で心身医学研究所講師を勤めたのち帰国して帝京大学に赴任。平成30年より国際医療福祉大学医学部心療内科学教授。令和5年より昭和大学ストレスマネジメント研究所(https://www.showa-u.ac.jp/research/ism/)の所長を務める。
そもそも「緊張」はなぜ起こる?
今日はよろしくお願いします!まずはそもそもの話からお伺いしたいのですが、私たちはなぜ緊張するのでしょうか?緊張しなければもっと楽しく過ごせそうなのに…。
そう思うかもしれませんが、緊張を感じるのは生物として正しい反応なんですよ。
緊張は「生物として正しい」…!?
はい。緊張とはつまり、身に起こっている危険をとっさに察知して、不安を感じられるかどうかということなので。人間を含めた動物は、「闘争・逃走の反応」といって、恐怖や不安から逃れられるようにプログラミングされているんです。
例えば、突然虎が出現した時に、「あれ、なんだろう…?」とゆっくり考えていたら、ガブっと噛まれちゃいますよね。
野生動物だったら命取りになるやつですね…。
でも、虎の姿が見えるより前、茂みからガサガサッと不審な音が聞こえてきた段階で緊張状態になり、「虎だ!危ないぞ」と危険を察知できれば、逃げることができます。だから緊張は本来、動物にとって必要な反応なんですよ。
緊張は必要な反応!それはひとつ勇気になります…!
ただ、人間は野生動物ではなく社会的動物なので、緊張しやすい人は社会で生きていく上で、苦しさを感じることがあるかもしれないですね。
社会的動物とは…?
人間は、ある程度は理性で不安をおさえることもできるんです。例えば電車って、見方を変えると「箱の中に、知らない人たちと一緒に閉じ込められている状況」ですよね。もしワンちゃんが100匹、同じ状況に置かれたら大混乱になると思うんです。
ワンちゃんが車内に100匹って絶対大変なことになりそうですね…。そう考えると人間ってすごい。
多くの人間は「電車とはこういうものだ」と理性で納得して、混乱せずに乗車することができています。ほかにも、人間社会にはそういう「動物としては不安に感じるような社会的な場面を、受け入れている」状況がけっこうたくさんあるんですよね。だから、その不安を敏感に感じてしまう緊張しやすい人は、そういう状況で生活が大変になってしまうケースがあると思います。
緊張には、脳のどの部分が関係してる?
緊張している時って、からだのどの部分が反応しているのでしょうか?なんとなく心から来る気がするので…脳とか?
様々な部分が関係していますが、その中でも、怒りや不安、不快、恐怖などの情動反応を司っている脳の「扁桃体」という部位が大きく関与しています。扁桃体が過敏な人は、緊張しやすいと考えられていますね。
緊張を作り出しているのは、脳の扁桃体というヤツ…⁉︎
そうですね。扁桃体の反応が鈍い人は、緊張する場面にさらされていても、そもそも扁桃体が作動せず、危険に気付きません。ですから緊張もしないんです。逆に扁桃体の反応が過敏すぎると、ほかの人が平気な場面でも緊張したりします。
扁桃体の敏感さ、つまり緊張しやすさは、生まれつき決まっているものなのでしょうか?
生まれつきか後天的かは、半々といったところでしょうか。生まれ持った扁桃体の大きさや遺伝要素もありますが、幼少時における生活環境で変わることもありますね。
緊張すると、からだに反応が出るのはなぜ?
ところで緊張をすると、赤面したり手が震えたり、様々な反応がからだに現れますよね。何がこうした症状を引き起こしているのでしょうか。
これには自律神経が関わっています。自律神経には、活動する時に働く交感神経とリラックスする時に働く副交感神経があって、交感神経がアクセル、副交感神経がブレーキのような役割を担っています。扁桃体が作動すると、交感神経が活発になり、ストレスホルモンが発動して、手汗が出てきたり血圧が上がったりして、緊張がからだに現れるんです。
ちなみに私は緊張すると「空気を飲み込み過ぎて、胃が気持ち悪くなる」のですが、自分と同じ症状の人に出会ったことがありません。人によって緊張の反応が異なるのも不思議です。
それは、緊張している当事者が、どのからだの変化に気付きやすいかに左右されるんです。実は、緊張の交感神経の作用は全身にめぐるので、反応自体はからだのいたるところに出ているはずなんですよ。
全身に反応が出ていても、気付いていないだけだったってこと…!?
人間は2つのことを同時に考えるのが苦手なんですよね。胃痛を強く感じていると、頭痛に気が付きにくかったり。
緊張で胃が気持ち悪くなるの、すごくイヤではあるんですけど、「実はほかの部分にも症状があるけど、気づくのは、胃の気持ち悪さだけですんでる」ともいえるんですね。
あとは「臓器脆弱性」も関係していることがありますね。どの臓器に反応が出やすいかは、人それぞれ違うんですよ。例えば、もともと呼吸器が弱い人は、緊張するとまず、呼吸器に症状が出やすかったりします。自分のからだで一番はじめに反応が出やすい場所を覚えておくと、自分の状況を把握しやすくなるかもしれませんね。
それはポジティブな考え方かも…!からだの反応が、緊張のシグナルになってくれているんですね。
緊張しやすい私にも、緊張しない方法はある?
ところで、全然緊張しない、鋼のメンタルの人っていますよね。私の友人で、緊張しなさすぎて、受験当日なのに旅行気分で「この路線、乗ってみたいかも」と、思い付きで受験会場へのルートを変えて、うっかり遅刻した人がいるのですが、緊張しやすい自分には異次元な発想すぎてむしろ羨ましいと思いました。鋼のメンタルに、私も今からなることは可能なのでしょうか…?緊張しない方法を知りたいです!
緊張を引き起こす扁桃体はいわば「本能」として作動してしまうので、それをおさえるため大脳皮質という部分で理性を働かせる方法があります。緊張とは別のことを考えて、気持ちを逸らすのがいいかもしれません。わかりやすい例で言うと「大勢の前で話をする時は、人の頭をじゃがいもだと思いなさい」という考え方がありますね。
あの話、ただの気休めだと思っていました。もしかして、てのひらに「人人人」を書いて飲むおまじないも…?
あれは「書くこと」に意識が向くのがポイントなんです。1つの簡単なことに集中しているうちに、緊張の「どうしよう」という気持ちが落ちついていきます。人間は「選択的注意集中」といって、脳が情報に優先順位をつけて、集中していること以外はどうでもよくなるようにできているんですよ。
あれも理にかなっていたんですね!
人によって向き不向きはあるかもしれませんが、まずは、人人人を書くことに意識を集中してみると、これでうまくいった人はそれが成功体験になります。ダメだったらほかの言葉や方法で試してみてもいいと思います。
人によって合う方法があるということでしょうか?
そうですね。自分にとって1番楽な方法を見つけるのがいいと思います。うまくいったら繰り返し練習しておくと、緊張した時、自然に思い浮かべられるようになります。
なるほど…!
ちなみに、私は忍者が好きなので、自分が苦手な「長い行列で並んで待っている」ようなシーンでは「臨兵闘者 皆陣列在前(りんぴょうとうしゃ かいじんれつざいぜん)」と呪文を唱えて心を落ち着けています。
唐突な忍者~!先生のように好きな系統の言葉とか、例えば推しの名前を唱えてみるとか、自分が唱えてテンションが上がる言葉を探してみるのも良さそうです。
いいと思います。人それぞれ、どういう言葉や動作がしっくりくるかは違うので、自分で編み出すのがポイントですね。
緊張に効果てきめん!すぐできる「からだへのアプローチ」とは
おまじないをもってしても効果がないよ~!という場合、何か他にできることはありますか?
先ほどの方法が「心へのアプローチ」だとすると、次は「からだへのアプローチ」をするのがいいと思います。具体的には腹式呼吸ですね。
腹式呼吸…!「緊張した時には深呼吸」と聞いたことがありますが、これも理にかなっていたんですね。
実はリラックスした状態の時って、自然と胸式呼吸から腹式呼吸にチェンジしていることが多いんです。ということは、自分で意図的に腹式呼吸をすると手っ取り早い。ところで、井口さんは、正しい腹式呼吸ができますか?
そういえば、いつも何気なくしていたので、正しいかどうかを考えたことがなかったかもしれません…。
意外とむずかしいんですよね。私は時々自分のやり方で正しいのか不安になることもあります(笑)。腹式呼吸が正しくできているか、わからない時には、かたい床などに寝転んでお腹に手を当てながら呼吸をしてみます。すると、お腹が膨れたり引っ込んだりするのが体感できてわかりやすいです。息を吐いて吸って繰り返すだけなので、ぜひ気軽に試してみてほしいです。
はい!今日教わったことを試しつつ、緊張をうまく乗りこなす努力をしてみたいと思います。ありがとうございました!
緊張は「気まぐれな猫ちゃん」かもしれない
取材を通して、「人人人」のおまじないや「深呼吸」など、気休めだと思っていたことが、案外理にかなっていると知って驚きました。
先人たちは、知恵をわかりやすく伝えてくれていたんですね。そして長年にわたって語り継がれるくらいには、みんなも緊張しているんですね…!
緊張のこと、これまでは「悪いやつ」だと思って、「猛獣」のように感じていたのですが、「気まぐれな大きな猫ちゃんかも」くらいの印象になりました。
緊張には今後も振り回されるだろうけど、どんな場面でドキドキしやすいか、どんな風な考え方をしたら心が落ち着くかといった自分の特性を理解したら、もう少しうまく付き合えるような気がします。
おまじないや腹式呼吸は簡単に実践できるので、ぜひ受験生の皆さんもやってみてください。もちろん、オンラインゲームの時にもいいと思います。昇格戦の時とかね…。
緊張と上手に付き合って、自分の力を十二分に出せますように!
書いた人:井口エリ
編集:ノオト
・当記事に掲載の情報は、執筆者の個人的見解で、すべてがライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
井口エリ
オタク気味のサブカルフリーライター。街歩きと神社とフィギュアが好きで宝石鑑定士 の資格を持っている。さまざまなWEB媒体で記事執筆中。
X(旧Twitter) https://twitter.com/chip_potekko
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