記憶力アップの方法を専門家に聞いたら、「記憶の仕組み」がよくわかった
普段からスーパーでの買い物忘れや、人の名前が覚えられないと悩む、ライターの斎藤充博さん。「日々の暮らしの中で記憶力を鍛える方法は?」「そもそも記憶って何?」など記憶力にまつわる疑問を脳内科医・加藤俊徳先生に聞きました。
記憶力の低下に落ち込んでいます…
こんにちは。ライターの斎藤充博です。最近、記憶力が低下しているのか、物を忘れてしまうことがすごく多くなっています。
スーパーで買い物をしても、家に着くとだいたい買い忘れているものがあることに気付きます。忘れた物を買いにまたすぐにスーパーに行くのですが、なかなかつらいものがあります。
仕事の打合せのミーティングに行くと、以前に仕事をしたことがあるはずの人の名前が出てきません。気まずさにイマイチ本題に集中できず、うわの空に……。
長期連載マンガを読んでいると「キャラクター」を忘れていることも。物語の初期の頃にチョイ役で登場したアイツが、後半になって重要人物だとわかる…アツい展開のようですが、「誰だっけコイツ?」となってしまうんです。
一つひとつは大したことではありません、でもこんなことが連続すると、なんだか情けなくて、落ち込んでしまいます。
これって、年齢のせいなんでしょうか?学生の頃はテストのための暗記などもできたのですが、大人になったらもう記憶力がよくなることはないのでしょうか?
そんな超個人的な悩みを「記憶の専門家」である脳の学校代表 加藤俊徳先生に相談してみたところ…。
なぜか僕はいま腕立て伏せをしています!
僕の悩みは記憶力だったのに、なぜ腕立て伏せをしているのか?詳しくは僕と加藤先生のお悩み相談の様子をご覧いただければと思います。
加藤 俊徳(かとう としのり)
脳内科医・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。音読困難を改善する加藤式脳活性音読法や機能別に脳を鍛える脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳 画像診断法で子どもから超高齢者まで1万人以上を治療。『頭がよくなる!寝るまえ1分おんどく』(西東社)、『脳の名医が教える すごい自己肯定感』(クロスメディア・パブリッシング)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書・監修書多数。
脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com
記憶力を上げるにはどうしたらいい?
…というわけで、僕は記憶力に自信がないんです。記憶力をよくするにはどうすればいいでしょうか?
なるほど。そういう悩みを抱えている人は多いでしょうね。記憶についてはアメリカで研究していたこともあり、私の専門分野です。お答えしていきましょう。
深い睡眠をたっぷりとる
記憶をする時に重要になるのが、脳の「海馬」という部位です。記憶はまず、脳の奥深くにある海馬で一時的に保管されます。ところで斎藤さん、睡眠時間は最近足りていますか?
最近、ちょっと忙しくて少なめになっているかもしれません。
記憶力に一番よくないのが寝不足です。睡眠時間が足りていないと、先ほど言った海馬のやる気がなくなっちゃうんですね。一日に7時間以上の睡眠時間はとってください。
確かに寝不足だと頭がボーッとしますよね。何も考えられないし、記憶するのがつらい。
また、睡眠は量だけではなく、深さも必要です。斎藤さんは「ノンレム睡眠」って聞いたことがありますか?
あります。睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があるんですよね。確かノンレム睡眠の方が深い眠りであるとか…。
そうですね。ノンレム睡眠の中でもより深い眠りに「徐波睡眠(じょはすいみん)」というのがあります。最新の脳科学ではこの時に記憶の定着が始まると考えられています。深く眠れない人は記憶が定着しにくいんです。
なるほど……。睡眠が重要なんですね。寝ることは大好きだし、いいこと聞いたな~。ありがとうございます!
脳を覚醒させるために、からだを使う
斎藤さん、これで終わりじゃないです。睡眠をきちんととったあとに、もっと記憶力をアップさせる方法があるんですよ。
おお、もっとアップできるんですね。
腕立て伏せをしたあとに物事を記憶するようにしてみてください。普通に腕立て伏せをするのではなく、腕立てを1分間かけてゆっくり10回やります。これはけっこうキツいですよ。
ゆっくり腕立てをするのは、かなりキツいです!そもそもできない人もいるような気がしました。
これがむずかしい人は、できる範囲で大丈夫です。また、次のような手遊びをしたあとに記憶しようとするのもいいですね。
カエルさん、クマさん、ライオンさん…。意外と難しいな…!
そうでしょう。これはとても大変なんですよ。
…ところで先生、腕立て伏せと手遊びがなぜ記憶力をよくするのでしょうか?疑がっているわけではないんですが、理由を知りたいです。
腕立て伏せにしても手遊びにしても、簡単な動作ではないですよね。この時に脳は意識的にからだをコントロールしている状態になります。すると、脳が覚醒して記憶が定着しやすくなる。これら2つの動作は、脳のための準備運動なんですね。
なるほど〜。最近ビジネスマンの間で「朝活」が流行っているそうです。朝活をしている人たちは、早朝にジムで筋トレをこなし、その後に家で資格試験の勉強をして、会社に行く。みなさん「スッキリして勉強も仕事もはかどる」と言っていました。彼らは脳の準備運動をしているのかもしれないですね。
それはいいですね。からだを使うことは脳を覚醒させますし、こうした自分なりのルーティーンを持つことも脳の覚醒につながります。
記憶力がついて、筋肉がついて、規則正しい生活も送れる。いいことだらけですね。
自分に合った記憶のしかたを知っておく
ところで斎藤さん、買い物に出かける時に家族から「○○を買ってきて」と言われても、忘れてしまうことがあるんですよね?
そうです。買い物に限らず、妻から言われたことって、すごく忘れてしまうんです。「ちゃんと言ったのに…」ということになってしまう。これがチャットツールのような文字情報で伝えられるとまだ比較的覚えていられることが多いんですが。あまり妻は使いたがらなくて…。
なるほど。すると斎藤さんは「視覚系」なのかもしれませんね。
視覚系とはなんでしょうか?
人間には記憶する時に「視覚系」が有利に働く人と「聴覚系」が有利に働く人がいるんです。
● 視覚系:目で見たことを記憶しやすい。文字で読んだことや、風景や状況をよく覚えている。
● 聴覚系:耳で聞いたことを記憶しやすい。人が言ったことや、しゃべり方に含んだニュアンスをよく覚えている。
自分や伝える相手がどちらなのかをあらかじめ知っておくといいですね。不得意な方で覚えようとすると、大雑把な記憶しかできなかったり、すぐに忘れてしまったりします。
ちなみに、自分が視覚系か聴覚系かを知る方法はありますか?
簡単に言えば、「あの時、あなたは、○○と言って私を口説いたわよね、それで、私は△△と返事をした」などと、過去の他人の発言や自分の話した言葉をしっかり覚えていて思い出せる人は、聴覚系が強いですね。
なるほど~。おっしゃる通り、話の内容をかなり細かく覚えている人っていますよね。
その一方で、「あの状況では、僕は君を置いて、その場を離れるしかなかった。だって君の元カレがずっと僕たちの方を見ていたじゃないか」などと、過去の出来事の場面の移り変わりを映像で覚えている人は視覚系が強いと言えるでしょう。
随分と色っぽいシチュエーションの例えですね(笑)。ここまでのお話から考えると、僕は視覚系で、妻は聴覚系になりそうです。僕と妻の間にこんな修羅場みたいないざこざがあったわけではないんですが、日頃の会話からそんな気がしました。
夫婦で「視覚系」と「聴覚系」のすれ違いが起こってしまうのも、よくあることだと思います。
記憶が定着するメカニズムは3つに分かれる
ここまでお話を伺って、だんだんと「人が記憶する仕組みそのもの」にも興味が出てきました。
記憶の過程は大きく分けて3つあります。
1. 脳に情報を入れる
2. 脳から情報を出す
3. 脳の中で記憶を既知の情報と結びつけて、新しい記憶を生み出す
まず「脳に情報を入れる」というのは、例えば斎藤さんと初めて会った時に、名前を聞いて覚えることです。その際に海馬は、本人が意識しなくとも記憶の速記係のような役割をはたして、入ってきた情報を同時に脳に記録してくれます。
さきほどの話に出た「睡眠不足だとやる気がなくなっちゃう」という海馬ですね。
そうです。うまく記憶している時は気が利くのですが、すぐになまけて、人の話したことを頭の中で記録しなくなるのです。ですから、しっかり脳を覚醒させて「俺はやる気になっている!」と海馬にもわからせておかないといけません。寝不足なんかしている場合ではないのです。
なるほど〜。
次の「脳から情報を出す」というのは、あとで「あの時に斎藤さんという人と会ったな」と思い出すこと。これには脳の側頭葉(そくとうよう)が関連しています。
働きによってそれぞれ使う部位が違うんですね。…ところで先生、最後の「脳の中で記憶を既知の情報と結びつけて新しい記憶を生み出す」というのは、どういうことでしょうか?
例えば、斎藤さんに会って「斎藤…サイトウ…犀(さい)? 賽(さい)?」「サイトウってことは、犀が10匹?あるいは、賽を投ずる?」みたいに、「斎藤」という情報に自分の知っている情報をくっつけて、新しい情報を生み出すんです。
おもしろいですね。イメージを膨らませているというか…。
これは一般的な言葉では「思考」と呼ばれるものです。しかし脳科学の観点から考えると「新しい記憶を生み出す仕組み」と言えます。
こうして作られた情報もあとから取り出すことができるということを考えると、記憶の一部か…。なんか理解できる気がします。
さらに、このように新しい記憶を作り出すと、もとの記憶を強化することにもつながります。先ほどの例で言うと、犀が10匹のようにいろいろとイメージを膨らませたあとには「斎藤」という名前自体を忘れにくくなりますよね。新しい記憶を作り出している最中に、何度も「斎藤」を繰り返し登場させるからなんです。
それも身に覚えがありますね。記憶っておもしろいな…。
みんなが「記憶」と思っていることは、記憶の中のほんの一部
ここまで話を聞いて、記憶と脳が深く結びついているんだなと思いました。記憶力が悪くなることは、やっぱり脳の衰えなんでしょうか?
先ほど「思考することも記憶の働きの1つ」という話をしました。ライターのような仕事をしている人は、日常的に思考しているはずです。こうして私にインタビューをしている時も、いろいろ考えているでしょう?
そうですね(笑)。先生のお話についていこうと、一生懸命考えながら聞いています。
すると、少なくともその部分においてはきちんと記憶の仕組みが働いているはずですよね?
ああ…。なるほど…。確かにそうなりますね。
ほかにも、買い物に行く時に足の動かし方を覚えているのも記憶ですし、自転車に乗れるようになるのも記憶なんです。
うーむ…。これまであまり考えたことのない概念なので難しいですが…。確かにからだの動かし方を脳が「覚えている」と考えると、納得できます。
例えば、時速150キロの球を投げられる野球選手がいますよね?そうした人は「時速150キロの球を投げられる記憶を持っている」とも言い換えられるんです。
なるほど…。僕も少年野球をやっていたことがありますが、ボールの投げ方にしても、球の捕り方にしても、最初は「暗記をするように繰り返す」ことが必要な時期って、ありますよね。「からだに覚え込ませる」ものだと思っていたけど、脳に記憶させていたのかもしれない。
そうそう。そしてスポーツをする人が練習するのは記憶が劣化しないように、動作を通して記憶を強化しているからなんですね。
僕がこれまで「記憶」と思っていたものは、氷山のほんの一角に過ぎないような気がしてきました。
そのとおりです。人間は自分で意識していないだけで、実は様々なことを記憶しているんです。
だから「買い物を忘れてしまう」なんていうのは、記憶力という大きな能力のほんの一部なんです。一部の働きが多少弱まったとしても、私としてはそこまで落ち込むことはないと思うんですよね。
なるほど…。壮大な話になってきました。記憶って、人間の能力そのもの、あるいは自分そのものなのかもしれない…。先生、今日はありがとうございました。
記憶力の概念が変わってしまった
おわかりいただけたでしょうか。このような理由で、僕は買い物に行く前に腕立て伏せをしているんです。
僕たちが「記憶」と思っているのは脳の膨大な記憶のなかのほんの一部ということがわかりました。そして僕たちが意識している「記憶」は、睡眠不足の解消や、からだへの刺激など意外な工夫でアップできることもわかりました。
記憶力が鈍っているように感じても、落ち込むことはないかもしれない。そして人間の記憶には大きな可能性があるのかもしれない。そんなことを感じさせてくれた加藤先生のインタビューでした。
イラスト:斎藤充博
編集:ノオト
・当記事に掲載の情報は、執筆者の個人的見解で、すべてがライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
斎藤充博
1982年生まれ。マンガを描く指圧師。はりきって仕事をしたいのに、食後の昼寝がやめられない。毎日気がつくと夕方になっている。もう動物園の動物になりたいです。
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