SF考証作家✕データサイエンティスト|未来の家事を想像する
AIやIoTなどの科学技術が進化する昨今。この先の未来、家事はどう進化し、私たちの暮らしにどんな豊かさを与えてくれるのでしょうか。未来の暮らし、未来の家事の在り方、そしてこの先変わらないこととは?SF考証作家・小説家の高島雄哉さんと、ライオン株式会社 研究開発本部 戦略統括部 データサイエンス室長の黒川博史が「未来の家事」について想像します。
“未来”を想像するスペシャリストの発想術
「家事って大変…」。これは現代に暮らす人の共通の悩みではないでしょうか?たとえばお洗濯。洗濯機はあれど服によっては手洗いする場合も多く、まだまだ手作業も多いもの。とはいえ、家電のない時代は、お洗濯はすべて手洗いで、家事は今よりももっと大変な存在でした。
現代では技術の進化によって、家事の負担は当時と比べて大きく減っています。そう考えると、100年後、1000年後の未来はもっと家事がラクになっているのでは…?
Lidea編集部は、人々の生活をよりよくする製品のアイデアを研究・検証するライオンデータサイエンス室・黒川博史とともに、未来の家事がどう進化していくのか、考えてみることに。
黒川 博史(くろかわ ひろし)
ライオン株式会社 研究開発本部 戦略統括部 データサイエンス室長。2007年入社。基幹技術である油脂の基礎研究から一転、2017年よりデジタル・イノベーション・プロジェクトへ参画、イノベーションラボを経て、2019年より現職。AI(人工知能)を中心としたデジタル技術の社内推進者。
更に、未来の家事について一緒に考えてくれる人をお招きしました!
SF考証作家の高島雄哉さんです。
高島 雄哉(たかしま ゆうや)
2014年、『ランドスケープと夏の定理』で第5回創元SF短編賞を受賞。同年、『わたしを数える』で第1回星新一賞入選。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』や『ゼーガペイン ADP』といった人気作品にSF考証作家として関わっている。
SF考証作家とは、まだ見ぬ未来を想像しながら、その作品の時代背景や設定を検証するお仕事のこと。未来のことを想像するスペシャリストともいえるでしょう。
まずは高島さんに、SF考証作家ならではの未来の発想法をうかがいました。
黒川「そもそもSF考証のお仕事って、どんなものなんですか?」
高島「アニメなどのSF作品で未来の最新技術や世の中がどうなっているかを検証したり、アイデアを出したりするのが主な仕事です。たとえば『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』だと、宇宙空間にスペースコロニー(宇宙空間に作られた居住空間)が並んでいますが、『実際にコロニーをこんなに並べても大丈夫か?』ということを検証したりもします」
黒川「へえ!」
高島「作品に紙幣が登場した際に、『この時代なら、既に電子化されている可能性も高いのでは?』と考えることもあります。今ある技術をもとに、物語の時代ではどうなっている可能性が高いのかを検証していくと考えるとわかりやすいかもしれません」
黒川「実は今の仕事において、未来を描いた様々なSF作品に触れることで、これからの暮らしや家事に役立つアイデアを考えていくためのヒントをもらっている部分があるんですよ」
高島「私は逆に、企業が開発されている製品も参考にさせてもらいながら、現実と作品スタッフの方々のやりたいことを繋げていくことも多いです。というのも、たとえSF作品だとしても、あまりに現実離れしてしまうと、作品を楽しんでもらえないこともあるんです。ですから、ディテールをしっかりと詰めることを大切にしています」
地球には住んでいない?|まずは未来の暮らしを考える
未来の家事はどう変わるのか?それは、ライフスタイルの変化、人間の求めるものや価値観の変化によって、家事のスタイルも変わるといえるのではないでしょうか。
そこでまずは、私たちの暮らし方がどう変化するのか、高島さんと考えてみることにしました。
仮説①地球には住んでいない可能性大
高島「遠い未来のことを考えてみると、そもそも地球には住んでいない可能性がありますよね(笑)。ただ、生活に関するものは今と似た要素を持っている可能性もあると思います」
黒川「地球に住んでない…!?技術の進歩はすごいスピードですね」
高島「実際、今から約20年後の未来でも、映画『マトリックス』のような世界が実現する可能性があるといわれています。みんながカプセルに入って、VRをつかって好きな世界を作っていくような世の中ですね。ただ、もちろん現在の生活の基盤が作られたのは遥か昔のこと。そこからの蓄積が今に繋がっている部分があるので、技術的に自由な生活空間を作ることが可能でも、果たして『その生活を選ぶのか』ということは考えなければいけないと思います」
黒川「技術だけを見ていても、未来を予測することは難しい、と」
仮説②VRで好きな場所を作り、好きなことができる
高島「とはいえ、私たちに代わって AIを搭載したロボットが働いてくれるため、仕事をする必要がなくなっていくというのも、我々が生きているうちに起こるかもしれないことです。他には、VRなどを使って、家にいながらにして、様々なことが体験できるような生活になっている可能性もあります」
黒川「でも、逆に言えば、山を登ったり、海に行ったりするようなことが、ますます特別なレジャーのひとつになるかもしれない、ということですよね」
高島「はい。大切なのは、『それぞれが好きなものを選べる』ことだと思います。イベントやライブにしても、会場に行きたい方は会場に行って、それが難しい方、面倒だと感じる方はVRで体験するなど、好きな方法を選べるのが理想的ですから。VRだけでなく、現実の世界も引き続き発展するはずなので、両方の進化によって生活が変わっていくと思います」
AI執事にエンタメ家事|未来の家事の姿を想像する
どこにいても、好きなことを自由にできる未来がきたら…?VRの発達によって家で過ごす時間も長くなるのかもしれません。そんな未来の暮らしが実現したら、家事はどんなことが求められるようになるのでしょうか?
仮説③「家事の時間短縮」は永遠のトレンド
高島「家事の中には遥か先の未来でも欠かせないものがありますよね」
黒川「家事は人が生活していくうえで必要な毎日のメンテナンスといえます。どんなに技術が発展しても、人は日々栄養を取らなければならないし、髪や体も洗わなくてはいけない。その行動を起こすときにさまざまな家事が発生するわけですが、どれだけ家事が進化しても、生きていく上での行動は減らないからメンテナンスも減らない。つまり、どんなにはるか未来になっても、『家事の時間短縮』はずっと求められるのではないかと思います」
高島「確かに、そうですね」
黒川「今でいうと、スタートアップ企業の方が作っているもので、真空状態を利用して15分で仕上がる乾燥機があるのですが、こうした技術が発達すれば、『前日に着たお気に入りの服を今日も着る』ことが気軽にできるかもしれません」
仮説④「AI執事」が全ての家事をこなす
高島「ライフスタイルでもお話した VR技術に関することですと、家事の面ではそれを通して自分の理想の家や台所を作れるようになって、好きにカスタマイズするようなことができるかもしれません。VRなら空間を無限に使うことができるので、今の家ではスペース的に難しいことができる可能性があります」
黒川「家の中を家庭用ドローンが飛んで、食材を自動で調理してくれれば、別のことをしながら料理を進めたり、家事ができたりするかもしれないですね」
高島「また、家では一人ひとりにAI執事がいて、日々のことを代わりにやってくれることも考えられますよね。時代が進めば、すべての家事を代わりにやってくれるロボットも誕生するかもしれない。すると、その時間を他に充てられますから、これも『好きなことをして、お気に入りの環境で生活する』ことに繋がりますね」
仮説⑤新しい家事の誕生&エンタメ化
黒川「服は使い捨てのスーツを着て、それを自分の好きな見た目にカスタマイズできるようになるとか。もっと極端な話をすると、何かを装着して自分の手足を変えられる時代だってくるかもしれません。そうすると、AI執事の調節をしたり、自分の足を調節したり…。そういったことが『家事』と呼ばれる時代もくるんじゃないでしょうか」
高島「あとは、VRメガネや、それに代わる機器は必ず誕生するでしょう。重複になりますが、これからAIやVRの技術を使って生きていくことになると、好きなことがより実現可能になるからこそ、そのときに、自分は何をして生きていくのか?を考えることも大切だと感じます」
黒川「好きなことが現実に、という点では、既に介護の分野などで活用が研究されはじめていますが、VRやヘッドホンなどを使って、食べものの見た目や食感を、別の好きなものと錯覚させるような技術の研究が進んでいるんです。そう考えると、栄養バランスの取れた形で、毎日好きなものを食べられる時代も来そうですね。家事もエンターテインメントのような、より楽しいものになるのかもしれません」
未来になってもきっと変わらないこと
めんどくさいと思いがちな家事がエンタメ化し、更には現代にはない、新しい家事が誕生するかもしれない…家事は、目まぐるしい進化を遂げる可能性を秘めているのですね!
ここまで、未来の“変化”について花を咲かせた高島さんと黒川。最後に、「未来の生活でも変わらないこと」について、ふたりに聞いてみました。
黒川「朝起きて顔を洗って、身支度をすると気分がいいことのように、私たちの生活には、今から1000年前(日本では平安時代)と比べても変わっていないことがたくさんあります。たとえば、子育て。子育てはただ条件を満たせばいいわけではなく、愛情を注ぐことが大切です。人の暮らしにはそういった場面がたくさんありますので、そこは決して変わらないと思っています」
高島「それに、『今の生活をより豊かにしたい』という発想も、はるか昔に人々が考えていたことと変わっていないと思うんですよ。ですから、人が『今の環境をよりよくしたい』と考え続けることも、ずっと変わらないのではないでしょうか。実はSF作家/SF考証作家の仕事は、作品を通してそのヒントになるようなものを提供することでもあるんです」
黒川「ああ、なるほど。私たちも、変わらないことは何かをずっと考えながら、時代の変化にあわせて、みなさんの役に立つものを考えたいと思っているんです。毎回多くの方に喜んでいただけるものができるわけはなく、ときには狙いが外れることもありますが…。その繰り返しの中で、人々の暮らしに役立つものを提供していけたら嬉しく思っています」
過去に多くの人々の手によって「よりよい暮らし」が生まれてきたように、「未来の生活をよいものにしたい」と考える人々の気持ちも、ずっと変わらないのでしょう。
毎日を大切に過ごしていくことが、未来の暮らしを作ることに繋がるのかもしれませんね!
この記事を書いた人
杉山仁
神戸出身、フリーランスのライター/編集者。世の中をちょっと便利にするテクノロジーやアイディアに惹かれます。
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