めんどくさい食器洗いが超楽しくなる?「スペアキャパシティ」と「ながら家事」の関係とは
毎日の家事のなかでも、特にめんどくさく感じてしまうのが食器洗い。だけど、この食器洗いも楽しいことと同時にしながらの作業(ながら家事)にしてしまえば、人間の「スペアキャパシティ(心的予備能力)」が発揮され、食器洗いの精神的な負荷が感じられなくなるのだとか。この「スペアキャパシティ」の考え方について、青山学院大学理工学部電気電子工学科教授の野澤先生に話を聞いてきました。
食器洗いがめんどくさすぎる
こんにちは、ライターのちみをと申します。趣味は料理ですが、食器洗いが本当に嫌いです。
生来の後回し癖が悪いのはよーくわかっているのですが、シンクに1枚2枚と洗っていないお皿がたまってくると輪をかけて食器洗いが億劫になっていき、気がつけばこのありさま。
思い切って食洗機も導入してみましたが、対応していない食器がある、鍋のような大物が入らない、などの事由により「食器洗いからの完全なる開放」までには至っておらず。「いっそ、紙皿と割り箸で暮らそうか…」と悩んだほどです。
何がそんなに嫌かって…
こびりつき汚れが手ごわい
最悪、少し浸け置きしておかないと汚れが落ちない…さっさと片づけたいのに…。
水はねが嫌な感じ
シンクにはねては水垢に……、服にはねては嫌な気分に……、床にはねてはスリッパがベタベタに……。洗い物していて別の箇所が汚れるなんて納得いかない。
食器が乾かない
乾くのを待つまでが本当に嫌。さっさと終わらしてスッキリしたい、かといってふきんで拭いても跡が残ったり…というか、ふきんも洗濯しないといけないし、食器を乾かすスペースもけっこう必要だし、もうああああ…。
と、枚挙に暇がありません。
でも、食器洗いからは、逃げられないんです。
そう、食器洗いからは逃げられない。いつか、誰かがやらねば。目を背けていても始まらない。
「だったらもう、好きになるしかないじゃん…?」
そこで浮かび上がったのが “ながら洗い” というワード。「こんなに嫌な食器洗いでも、別の作業をしながらやることで、有意義な時間に変換できるかも…もしかすると…」
例えばジョギングしているとき、妙に頭が回って良い着想が得られたり、さらにあれこれ考えながら走っているうちに気がついたら結構な距離を走破していたり、といった経験はありませんか?同じように「ながら洗い」にも似たような効用があり、食器洗いをしながら同時に何かをすることで、むしろ有意義な時間にすることができるのでは?と思ったのです。
というわけで、上記仮説のもと「食器洗い meets 何か」をいくつか試みることで「ながら洗い」の可能性を探り、最終的に「食器洗いを愛せる男」になってやろう、と思う次第です。
「ながら洗い」は本当に有意義な時間を過ごせるのか?
大前提として、食器洗い中は両手が塞がっています。しかし、“足、口、耳、目、脳”は未使用。この空きリソースを有効利用して相乗効果を狙う検証をしようではないか、という趣旨です。
それではやっていくぞー。
①食器洗い+原稿作成
まずは空いている“口と脳”を使ってみます。
家族とおしゃべりなどしながら家事をされる方はけっこういらっしゃるでしょうが、せっかくならお仕事にも活かしたい。私はライターですので、食器洗いをしながら文章を書けるなら、こんな素敵なことはありません。幸い「音声入力」という便利テクノロジーもあることですし、さっそくマイiPadでやってみましょう。
微妙にダメ。
思うとおりに入力できず、ちょっとイライラします。食器洗いの音でバシャバシャうるさいのも誤入力の原因になってそうです。あと“ながら”でよどみなく喋るのがけっこう大変。「話し言葉」ではなく「書き言葉」で発声しなければならないのも難易度高し。
このクオリティなら普通にタイピングしたほうがよさそうですし、食器洗いも別に楽しくなりませんでした。
実用性:★☆☆☆☆
ストレス軽減効果:★☆☆☆☆
相乗効果:★☆☆☆☆
総評:仕事は仕事でちゃんとやりましょう
ただの横着。失敗です。
②食器洗い+筋トレ
近ごろとんと運動不足。加齢とともに増えゆく体重、落ちゆく筋肉、なんとかせねば。というわけで、お次は「ながら筋トレ」にチャレンジ。
今回の筋トレメニューに選んだのは「空気椅子」でした。
うおおおおキッツイですなこれ…。運動不足おじさんにコレはちょっとキツい。なにより空気椅子が辛すぎて明らかに洗い物効率がガクンと落ちます。私程度のショボい筋力では踵上げくらいの負荷のゆるいメニューが良かったかもしれません。
実用性:★★☆☆☆
ストレス軽減効果:★★☆☆☆
相乗効果:★☆☆☆☆
総評:別々でやりましょう
③食器洗い+料理
食器洗いと料理。この一見相反する行為が成立するのでしょうか?
うどんを踏んでました。コシが命。踏みまくってこそ美味しいうどんになります。
たしかに上手く空きリソース(足)が有効活用できましたが、思いのほかうどんに意識が取られて洗い作業の手が止まってしまう…。
また、うどん粉を練ったり生地を寝かせたりと下ごしらえが必要なため、食器洗いとうどん踏みのタイミングを慎重に合わせる必要があり、実用性は微妙でした。
実用性:★☆☆☆☆
ストレス軽減効果:★★☆☆☆
相乗効果:★☆☆☆☆
総評:毎日ご飯がうどんってのも、ちょっと
④食器洗い+脳トレ
今度は“脳”にフォーカス。皿を洗いながら脳もドンドン使い老化に抗っていくスタイル、脳トレ大事。というわけで暗算を出題してもらいました。
「えーと、えーっと…ろ、639かな…?」
いやはや、これくらいは解けますとも。
「えー、えーと、…な、、744??」
繰り上がりがあると途端にフリーズします。
「はぁ?」わかるかっ!
食器を洗っているという意識が多少小さくなりましたが、問題が難しいと手も頭もフリーズしますね。もちろん、食器洗いもあまり進まず。もっと簡単な問題のほうがいいのでしょうか…。
実用性:★★☆☆☆
ストレス軽減効果:★★☆☆☆
相乗効果:★☆☆☆☆
総評:複数桁の掛け算は難しい
なかなか良い結果が得られず…難しいですね…。
⑤食器洗い+お勉強
マイiPad再び。今度は動画を流しているんですが、ただ漫然とYouTubeを眺めているだけではありません。「英語のシャドーイング(※)」をしているのです。(※シャドーイング:英語を聞きながらそれを真似して発音する練習方法)
私はほとんど英語を話せませんが、これから令和型グローバル人材として世界のビジネスシーンに適応し、イケてる外資系とかに拾ってもらうためには、英語スキルは必須要件です。しかし、「学習時間をどう捻出したらよいのか?」という問題がつきまといます。が、それならばもう、「ながら」が有効に違いありません。
ふむ、これは悪くないですね。YouTubeを聴いてマネするだけ。テンポよくウキウキでやれます。発音を聞いていればいいので、実際は画面を見なくてもOKなのです。
食器洗いの手も止まらないどころかサクサクっと完了。あと作業中はシャドーイングに意識が向いていて、楽しくあっという間に洗い終わった気がします。吹替無しの映画でやっても良いかもしれませんし、英語以外の学習コンテンツもいろいろあるでしょうから活用幅は広そうです。
実用性:★★★★★
ストレス軽減効果:★★★★★
相乗効果:★★★★★
総評:私の英語力の上達度合いはconfidentialで
ながらYouTube学習、オススメですね。
とはいえ、正解が知りたい
というわけで、極めて主観的にはどれが良い悪いという感想はあるものの、やはりちゃんとしたエビデンスなり科学的知見を裏付けてご紹介したいご時世ですな…。うーん、何かないだろうか…。
と、あれこれ調べているとこんな情報があるではないですか。
資料によると…。
“青山学院大学 理工学部 電気電子工学科 野澤昭雄教授の研究室では、食器洗いをしながら暗算(精神的負荷を与える)をするという実験を行いました。その結果、並行タスク(暗算)による行動・生理・心理状態の変化は特に確認されませんでした。”
“一般的にスポーツを行っている時などにも発揮される心的予備能力(スペア・キャパシティ)が、食器洗いにおいても同様に表れたのではないか”
ス、スペアキャパシティ??
図を見る限り、2つの作業を同時にこなすことでそれぞれの精神的負荷がいい感じに調整されてしまう…といった現象のよう(たぶん)。しかし、そんな都合の良い現象、本当にあるのでしょうか?
気になったら確かめないわけにはいきません。さっそく、この青山学院大学の野澤昭雄教授のもとへお邪魔し、スペアキャパシティの真相と、私が試した方法の答え合わせをしてもらいましょう!
さっそく専門家に教わってきた
というわけでやってきてしまいました、青山学院大学理工学部のある相模原キャンパス。
こちらにいらっしゃる野澤教授を訪ねます。
野澤 昭雄(のざわ あきお)
青山学院大学 理工学部 電気電子工学科教授。生体計測、生体情報工学、感性工学に関する研究に従事。
それでは、さっそく教授にお話を伺います。
教授、よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
そもそも「スペアキャパシティ」って、なんですの?
そもそもなのですが、この「スペアキャパシティ」って、いったいどういった考え方なのでしょうか?
もともとスポーツ科学の領域で研究されていた概念なのですが、 スポーツに限らず、何らかの技能の学習過程において、不慣れな動作を練習している時には「認知リソース」というものを多く使っていると考えられます。
認知リソースですか。ふむ。(←わかってない)
例えば、不慣れなフォームや動作の練習をするときは意識的に,あれこれ考えながら体を動かしていると思います。ここで使われているのが「認知リソース」です。ですが、練習を積んでそのフォームや動作に習熟してくると、特に考えたりしなくても自然に動けるようになってきますよね。
ん、ふむ、はい。(←いまいちわかってない)
そのくらいの習熟度になると「認知リソース」を使わなくても運動できるようになり、つまり「無意識」に動けるような状態となるので、「認知リソース」に余裕が生まれます。この余裕が「スペアキャパシティ」です。
ふむ。(←よくわかってない)
(わかってるのかな…)そして、こういった「認知リソース」をほぼ使わない作業であれば、同時に暗算などの作業をしても負担感が増さず、パフォーマンスも落ちないといった研究結果があり、このような状態では「スペアキャパシティが発揮されている」と考えられます。
ほー。ふむふむ。(←まだよくわかってない)
(わかってないなこれ)なので、食器洗いのような手慣れた作業というのは「ながら家事」に向いていると考えられますね。
なるほど、食器洗いは「ながら家事」に向いているんですね。(←オウム返し)
(大丈夫かいな……)
では、私の「ながら洗い」は、どうだったのでしょうか?
では、今回試してきました5つの「ながら洗い」ですが、教授から見てご評価はいかがでしょうか??
一つずついきましょうか。
①食器洗い+原稿作成
これはもう、ダメでしょうね。
バッサリですね。
原稿の入力が上手くいかず、もどかしいというイライラが食器洗い自体の印象にも影響してしまうと思います。
たしかに…イライラしてましたね…。
もっと、自分が楽しく感じることをやったほうがいいですよ。
②食器洗い+筋トレ
これは、認知リソースやスペアキャパシティと全然関係ないですよね。
はい、確かにただの筋トレですからね…。
筋トレは精神的負担ではなく肉体的な負担ですよね、
運動にはなるんじゃないですか?まあ、やればよいと思います。
(あれ……少しあきれられている……?)
③食器洗い+うどん踏み
またくだらなくて申し訳ないのですが……。
普段からうどんを踏んでるわけではないですよね?これは恐らく慣れていない作業でしょうから、認知リソースをフルに使っていたのではないでしょうか?
思いのほか、うどん踏みの作業に集中していました。
そうするとうどん踏みのほうが「主課題」になってしまっているので、もはやこれは「ながら作業」ではなくなっています。
美味しいうどんを作りたい、という気持ちが強すぎたのですかね……。
別でやった方が良さそうですね(笑)。
④食器洗い+脳トレ
暗算は「ながら家事」にはいいんですよね?でも、今ひとつ効果を感じられなかったんですよね。
これは問題が難し過ぎましたね。うどん踏みと同様に、計算問題を解くことが「主課題」になってしまっているのでダメです。
うう……。
またこのように「やらされている感」が強い作業は負荷が大きいですね。もっと自分の意のままにできる、楽しいことのほうがいいですよ。
たしかに「食器洗いが好きになる」という目的だったはずなのに、そもそも「ながら」でやっている作業が楽しくないと、全体的に楽しくない印象になってしまい、本末が転倒している実感があります。では最後、これはどうでしょう?
⑤食器洗い+英会話
これは、楽しかった印象があるんですよね?
エンジョイできた気がします。そのおかげか、食器洗いも手早く終わりましたね。
良いですね!
え、本当ですか?
自分の意のままに負荷無くできる作業で、かつ印象としてもご本人が「楽しかった」という点がとても重要ですね。
たしかに英会話の勉強自体は楽しくて好きですね。
その「楽しかった」という印象が、食器洗い自体の印象にも大きく影響したのだと考えられます。
おー!ではギリギリ、この「ながら洗い」は正解ですか?
誰しもが英会話をエンジョイできるとは限りませんが…まあ、ギリギリ正解ですかね。
やった!ありがとうございます!
教授オススメの“ながら家事”は「考えごと」「音楽鑑賞」「ご家族との会話」
ちなみに、教授のオススメ「ながら洗い」はなんでしょうか?
なにかしらの「考えごと」「音楽鑑賞」または「ご家族との会話」ですね。
よく「音楽を聞きながらノリノリで家事をするのは楽しい」という人の話は良く聞きますね。あとお子さんに学校であったことを聞いたり、夫婦の会話の時間になっていたりとかもお皿洗い時に良く聞くシチュエーションですね。
基本的にご本人が楽しく、負担感も少なくないと食器洗いも楽しくなりません。「好きなことと組み合わせる」のがとても重要です。なので、お子様やご家族と楽しくコミュニケーションをされるのは、食器洗いそのものも楽しくさせる、とても有意義な組み合わせだと思います。
なるほど!教授、お忙しいところありがとうございました!
教授オススメの「ながら家事」でお皿洗いを試してみた
以上、教授にお話を伺ってまいりましたが、これらを踏まえてもう一つ、試してみたいなと思ったことがありまして。
「食器洗い+家族と電話」を試してみた
私は東京、弟は北海道の実家。距離的に遠いということもあり実家にはなかなか帰れないし、男兄弟なので会話というのもあまり多くありません。
せっかくなのでこういう思い立ったタイミングでちょっと連絡を取ってみました。
「おっすおっす、久しぶり」
「再来月の法事の件だけどさ、そうそう、前の日から実家帰るから」
「カニ食べたいんだよね、うん。用意しといてくれる?」
「そういえば、おれ最近さぁ…」
・
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そんな他愛もない会話をしているうちにシンクはキレイになっておりました。
なんだかとても清々しい。お皿もスッキリ、気分もスッキリです。なんだか、不覚にも少しイイ話風なシメになってしましたが。
食器洗いをどう楽しくするか?その現時点の最適解は「自分にとって、負担が無いと感じる楽しいことを同時にする」というシンプルなものでした。
全国の洗い物ニガテな皆さん、洗い物の時間を有意義にするためには…
- ・考えごとをしながらお皿洗い
- ・音楽鑑賞しながらお皿洗い
- ・ご家族とコミュニケーションしながらお皿洗い
- ・そして英会話の練習も?
こちら、是非ともお試しあれです。
ちなみに、食器を洗いながら踏んだうどんは、筆者が美味しくいただきました。
・当記事に掲載の情報は、全てがライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
ちみを
1980年生。ライター。銀河で一番美味しく飯を喰らい酒を呑む才能を持ち、食と何かを無理やり結合させることを得意とする食コンテンツサプライヤー。昼はしめやかにリーマンを営む。好きな言葉は「牛飲馬食」。好きな女優は「80年代のかたせ梨乃」。
X(旧Twitter):@chimiwo
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下記のコメントを削除します。
よろしいですか?
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