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飛行機、水族館、巨大スパ!いろんな職場の大掃除から見えた仕事への想い

飛行機、水族館、巨大スパ!いろんな職場の大掃除から見えた仕事への想い

12月といえば年に一度の「大掃除」シーズン。自宅だけでなく職場の大掃除を行う人もいるでしょう。今回は、「ANAの飛行機」「新江ノ島水族館」「Spa LaQua(スパ ラクーア)」で行われる定期的な大掃除について、現場の皆さんにお話を伺いました。3施設とも数か月スパンで行う特別な掃除によって、いつでも快適な空間を作り上げています。各職場のプロフェッショナルたちの掃除に対する姿勢は、家庭にも応用することができそうです(この記事は各施設にオンライン取材を行った2021年10月時点の内容をもとに作成しています)。

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年に一度の大掃除シーズン到来…!

こんにちは!Lidea編集部です。

あっという間にやって来た12月。一年の集大成ともいうべき大掃除に頭を抱えていますか?それとも、すがすがしい気持ちで新年を迎えるため、やる気満々に掃除グッズを引っ張り出しましたか?

「一年の汚れはその年のうちに」とよく耳にしますが、いざ大掃除を行うとなると、なかなかモチベーションが上がらない…という人もいるでしょう。

そこで、今回は「全日本空輸(以下、ANA)」「新江ノ島水族館」「Spa LaQua(スパ ラクーア)」といった多くの人が集まる人気施設の大掃除についてお話を伺いました。施設の現場を熟知したプロフェッショナルならではの技術、そして掃除にかける思いを知れば、大掃除のやる気が湧いてくるかも…!?

全日本空輸「安全で楽しい飛行のため、美しい機体に仕上げる」

まず、お話を伺ったのは約250機もの飛行機を所有するANA。日本の空港の清潔さは世界トップクラスといわれていますが、今回Lidea編集部が注目したのは、飛行機のボディ(以下、機体)です。空を飛び回る大きな乗り物は、どうやって掃除しているのでしょうか?

というわけで、ANAの川田さんにいろいろ聞いてみましょう!

羽田空港グランドサービス株式会社 グランドハンドリング部 機体サービス課所属 川田豪さん

川田 豪(かわた ごう)
羽田空港グランドサービス株式会社 グランドハンドリング部 機体サービス課所属。機体水洗に携わって18年。現在は、機体洗浄のスケジュール管理などを行う。
羽田空港サービスグループ:https://hanedaas.co.jp/

機体のチェック機能も兼ねた手洗い洗浄

――今日はよろしくお願いします!さっそくですが、そもそも飛行機って掃除する必要性はあるんですか?

はい、もちろんです。飛行機も車と同じで、洗車しないとどんどん汚れが付着していくんですよ。私たちとしては、お客さまにキレイで快適な飛行機に乗っていただきたい。そこには機内だけではなくて、機体を見た時に「かっこいい」「この飛行機に乗れるんだ」という、美観から得られる感動も一緒にお届けしたいという思いもあります。

川田豪さん

――素敵ですね。飛行機に付着する汚れって、どんな汚れですか?

主に大気中の汚れですね。PM2.5(微小粒子状物質)だったり、黄砂だったり。あとは、離発着の際に付く泥汚れ、車輪など可動部から排出される油汚れなどもあります。飛行中に汚れが風に流されるからなのか、汚れは後部に付着している場合が多いですね。

川田豪さん
機体の汚れや異変などを目視でチェックする様子(写真提供:ANA)

掃除を行う前に、機体の汚れや異変などを目視でチェックする(写真提供:ANA)

――なるほど。そういう汚れが飛行機に付くと、飛行や滑走に影響を及ぼすんですか?

飛行機は飛行前に厳密な整備がなされるので、汚れ自体が飛行や滑走に直接的な影響を与えることは考えにくいですが、汚れのないキレイな機体で飛行することで、飛行に適した流線形を保て空気抵抗も軽減できるので燃費の向上に繋がるんですよ。それに機体を掃除することは、万が一の不具合にも気付けるというチェック機能も果たしています。なにせ、すべて手洗いなもので。

川田豪さん

――えっ!? 機体の掃除って手作業なんですか???

ええ。以前ANAでは機械化を試みたこともあるのですが、仕上がりの美しさや、使う水の量などを鑑みると、人の手による掃除が一番という考えに行きつきました。それに人の手と目を使ってしっかりと掃除すると細部までチェックできるので、機体の不備や違和感にも気付ける。そういった面からもANAは、機械化が進む今でも手洗いを採用しているんです。

川田豪さん

家庭とは逆!?機体の洗浄は「下から上」が基本

――手洗いとは驚きですが、実際の機体洗浄方法が知りたいです!

機体洗浄は2通りあって、拭き取り作業の「ナンバー1クリーニング」と、機体を丸洗いする「ナンバー2クリーニング」という作業があります。ナンバー1は50日に1回、ナンバー2は100日に1回というサイクルで機体洗浄を行います。

川田豪さん
ANAの機体洗浄の頻度

ANAの機体洗浄の頻度

私たちが1日に洗う機体は多い時で3機。23時以降の夜間にスタートし、朝までに1チーム13名前後で掃除を完了しなければいけないので、時間のかかる丸洗い洗浄のナンバー2が3機連続となると時間的にも厳しい。ナンバー1は駐機スポット、ナンバー2は洗機スポットと、それぞれ洗浄場所も違うので、ナンバー1の洗浄を行っている間にナンバー2の機体を入れ替えます。そういった作業を鑑みて、ナンバー2、ナンバー1、ナンバー2といった順番で機体の洗浄を行うことが多いですね。

川田豪さん

――ナンバー1とナンバー2、それぞれどんな洗浄をしているんですか?

ナンバー1は主に機体の下半分の部分洗浄なのですが、モップで薬剤を機体に塗布し、ブラシで擦って汚れを落としていき、濡れ拭きと乾拭きをして完了です。一方のナンバー2は、パットというアルミ製の伸縮する棒を使って、車の洗浄と同じように水をかけて丸洗い。泥汚れに効く洗剤、油汚れに強い洗剤、即効性のある洗剤、汚れの性質によって3つの洗剤を使い分けています。この洗剤を機体の下部から上部の順に塗って洗っていきます。

川田豪さん
機体洗浄に実際に使っている道具(写真提供:ANA)

こちらが実際に使っている道具(写真提供:ANA)

――家庭では「上から下」に掃除をするのが基本とされていますが、飛行機はその反対なんですね。なぜですか?

機体の上部から洗剤を塗布していくと、液だれの跡が残ってしまうんです。一見、効率的ではないように思えますが、液だれ跡を防ぐために下から上へ機体を磨き上げていきます。最後の乾拭きまで気が抜けません。

川田豪さん

――効率よりも美しさを大切にしているというのは、さすがプロフェッショナルですね。素人目で見ると、丸洗いをするナンバー2の方が大変そうに思えますが、実際はどうなのでしょうか?

時間がかかるのはナンバー2なのですが、体力的にはナンバー1の方がキツいです。というのも、ナンバー2の道具のメインとなるのがアルミ製のパット。4mの長さにまで伸びますが、軽いので使い慣れれば自由自在に操れます。一方でナンバー1はモップやブラシがメイン道具となるので、頭上にある機体を洗う際、腕を上げなければならず筋力的にも厳しい。私も入社したての頃は、まだ道具やからだの使い方のコツを掴めていなかったので、眠れないくらい腕がパンパンになったことがあります(笑)。

川田豪さん
モップやブラシで機体を拭く様子(写真提供:ANA)

ナンバー1作業中の様子。白い機体についた黒い汚れがハッキリ見える(写真提供:ANA)

――うわぁ大変…。道具が届かない機体の上部の掃除はどうしているんですか?

高所作業車に乗って作業します。最大で25〜30mの高さで作業するので、安全帯と呼ばれる転落防止ベルトをつけて掃除しているんですよ。

川田豪さん
高所作業車に乗って機体を洗浄する様子(写真提供:ANA)

ナンバー2作業中の様子。左上に見えるのが高所作業車に乗るメンバー(写真提供:ANA)

――まさに命懸けの仕事ですね。機体洗浄で最も気を付けている点は?

飛行機は精密機器の集合体。私たちが洗浄する機体の外側にも、静電気を逃がすためのディスチャージャーや、アンテナなど繊細な部品が搭載されているので、道具をぶつけないよう細心の注意を払っています。

川田豪さん
静電気を逃がすためのディスチャージャー付近をブラシで洗浄する様子(写真提供:ANA)

ブラシの左側に3本飛び出して見えるのが、静電気を逃がすためのディスチャージャー(写真提供:ANA)

どんな日も、丁寧な作業を繰り返すことが快適な飛行に繋がる

――18年という長い期間、このお仕事に情熱を傾けていらっしゃると思いますが、思い出深い出来事はありますか?

う〜ん、それがパッと思いつかないんです。羽田の場合は掃除場所が野外なので、相当な悪天候ではない限り、雨の日も風の日も機体洗浄を行ってきました。ナンバー2の作業はびしょ濡れになることも多いし、夜間の作業なので体力もそれなりに消耗しますが、毎日、安全・丁寧に作業を繰り返しているので、これといった大きなエピソードがないのかもしれません。

川田豪さん
機体洗浄のチームメンバーでミーティングをする様子(写真提供:ANA)

13名のチームワークも大切になる(写真提供:ANA)

――記憶に残るような出来事がないのは、日々鍛錬を重ね安定したプロフェッショナルだからこそ、という感じがしますね。川田さんがやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?

私は元々、空港の雰囲気が大好きでこの仕事に就きました。だから、自分たちが掃除した美しい飛行機がターミナルに並んでいる様子を見ると、とてもうれしくなるんですよね。目立つ職業ではないですが、誰かにも美しい飛行機を見てワクワする感動を届けられているのであれば、とても誇らしいです。9000日以上の無事故記録を更新しているので、これからも仲間と一緒に頑張りたいですし、お客さまにはぜひ、隅々までご覧いただき飛行機の美しさを楽しんでいただけたらと思います。

川田豪さん

新江ノ島水族館「きれいな水槽でクラゲもお客さまも幸せに」

次にお話を伺ったのは、神奈川県藤沢市にある「新江ノ島水族館」。相模湾と太平洋、そこに暮らす生物をテーマとした同館は、「驚きと感動」「癒し」を感じる展示やショーを展開しています。

水族館の掃除といえば、酸素ボンベを背負った飼育員さんが水に潜る姿を想像する人が多いかもしれません。しかし、ここ新江ノ島水族館のクラゲエリアでは、数か月に一度、水槽内のすべての水を抜いて行う「落水掃除」を行っているそう。新江ノ島水族館のクラゲ担当・山本岳さんに詳しく聞いてみました。

新江ノ島水族館 クラゲ担当 山本岳さん

山本 岳(やまもと がく)
神奈川県藤沢市の日本大学生物資源科学部でクラゲの研究を行った後、地元・愛知県の水族館に就職。様々なクラゲが生息する相模湾が忘れられず、2018年に新江ノ島水族館に転職する。展示飼育部に所属し、クラゲ担当として、クラゲの飼育と採集を行っている。
新江ノ島水族館:https://www.enosui.com/

不思議で面白いクラゲの暮らしを守るために

――今日はよろしくお願いします!掃除の話の前にお聞きしたいのですが、山本さんのクラゲ愛が止まらないと伺っておりまして。クラゲのどんなところがお好きなんですか?

大きなクラゲがお好きな方が多いのですが、僕が好きなのはエダクラゲ、コツブクラゲといった1〜3mmの小さいクラゲ。こんなに小さいからだでどうやって生活しているんだろう?っていう、不思議めいた部分がとても魅力的でして…。あと、クラゲは飼育が難しい生物なんですが、特にカブトクラゲ、ツノクラゲはからだがやわらかくて傷つきやすい。そういう繊細な一面も、たまらなく好きですね。

山本岳さん

――クラゲが好きでたまらないのがよくわかりました!山本さんにとって、新江ノ島水族館でのお仕事は天職ですね。

そうですね。たまに大水槽の魚のショーにも出演しますが、主な担当はクラゲの飼育や展示です。江の島にクラゲを採集しに行ったり、展示しているクラゲたちに小さいエビや牡蠣のミンチ、アサリといったエサをあげたりと、毎日楽しくお仕事していますよ。

山本岳さん

――素敵ですね。ここからは館内に展示している水槽についてお伺いします!毎日行っている掃除ってあるんですか?

現在、クラゲエリアには大小合わせて50個以上の水槽を設置・展示しています。大きい水槽には水をキレイにする循環装置があるんですが、循環装置をつけない小さい水槽は毎日水を変えています。特にライトがついている水槽は苔の成長スピードが早いので、それを掃除で取り除いてあげないといけないんです。

山本岳さん
新江ノ島水族館のクラゲエリアで2番目に大きい水槽

同館で2番目の大きさのクラゲ水槽のサイズは横幅約4m20cm、高さ約3m40cm

――なるほど。クラゲの水槽にはどんな汚れが付着するんですか?

主な汚れは、水槽のガラス面に付いた苔やイソギンチャク、そしてクラゲのポリプなどです。クラゲがこれらに触れてしまうと、ダメージとなってからだがボロボロになってしまうこともあるんですよ。

山本岳さん
クラゲの水槽にポリプが付着している様子

クラゲは受精卵から「プラヌラ」と呼ばれる幼生になると、岩や貝殻などに付着。「ポリプ」と呼ばれる、イソギンチャクのような形に姿を変え、成長する

――毎日掃除していても、汚れは付くものなんですか?

新江ノ島水族館では相模湾から引いた海水を濾過して水槽に入れているのですが、どうしてもミクロ単位の生物が浸入してしまうんです。単純に水槽内に生き物が増えると汚れが増えるので、毎日掃除をしていても汚れは付いてしまうんですよね。また、きちんと掃除しないと、クラゲに与えたエサが、侵入した他の生物に食べられてしまって汚れの元になるばかりか、クラゲ自体にエサが回らないといった弊害まで起こるんですよ。

山本岳さん

――水槽の掃除って大切なんですね。

はい。クラゲたち生物が過ごしやすい環境づくりというのもありますが、お客さまにクラゲの細部まで見ていただきたいという思いもあります。やっぱりクラゲって不思議で面白い。観察するだけでも楽しい生物なので、それをちゃんと届けられるよう、水槽を美しくキープすることも大切な仕事だと思っています。

山本岳さん

繊細なクラゲの扱いは要注意!落水掃除はハードル高め?

――毎日の水槽掃除のほか、落水掃除をされているそうですね。どのくらいの頻度で行われているんですか?

小さな水槽は毎日掃除できるのですが、大きな水槽に関しては1〜1か月半ごとに、水槽の水をすべて抜いて行う「落水掃除」を閉館後に行っています。その手順は、水槽からクラゲを取り出す→水槽内の水を抜く→水槽内に入ってスポンジなどで汚れを落とす→水槽内に水を張るといった流れで3〜4時間かけて行います。多くの場合、クラゲを水槽内に戻すのは、翌朝になります。

山本岳さん

――まず水槽からクラゲを取り出すんですね。

網やザルを使ってクラゲをバケツに入れて移動させるんですが、この作業が一番難関かもしれません。クラゲは繊細な生き物。だから丁寧に扱わないと、傷ついてしまうんです。同じ水温の水槽を用意しておいて、すぐにそちらに運びます。ミズクラゲ70匹の場合、このバケツの移動作業を15回ほど繰り返し行います。

山本岳さん
クラゲの水槽を真上から見た様子。幅は45cmほど。

特別にバックヤードにお邪魔して水槽を上から見せてもらいました。大きく見える水槽も、実は幅は45cmほどしかありません!

ザルに柄をとりつけた道具でクラゲをすくう様子

クラゲをすくう様子。館内から見ると、こんな感じ

――めちゃくちゃ大変な作業ですね。その後、水槽内の水を抜いてから、実際に水槽に入って掃除されると。

はい。水は約10トン入っているのですが、水槽下にあるバルブを開栓したり、サイフォンの原理でホースを使ったりして、30分ほどかけて水を抜いていきます。その後、ようやく僕たち職員1〜2名が水槽内に入って、スポンジやプラスチック板でイソギンチャクやポリプといった汚れを手作業で擦って落としていきます。

山本岳さん
スポンジやプラスチック板など実際に水槽掃除に使っている道具

こちらが実際に水槽掃除に使っている道具

――スポンジで擦ったり、プラスチック板で汚れを落とすのは家庭の掃除と一緒ですね。洗剤は使うんですか?

この水槽の掃除で使うのは、エタノールのみです。クラゲは水質が変わると生きていけないデリケートな生き物なので洗剤は使いません。通常魚の水槽なら、ボンベを背負った人が水槽内に入って掃除できるんですが、先ほどお話ししたようにクラゲは極めて繊細な生物。人がぶつかるとからだが傷ついてしまうし、ボンベから放出される気泡がクラゲの傘に入り込むと、貫通して穴が開いてしまうんです。

山本岳さん
スポンジで水槽のガラスを擦っている

ひたすら擦る!!!!

仕上げの流し作業中

仕上げの流し作業中

――そんなに繊細とは驚きです…!掃除したら水槽に水を張りますが、すぐにクラゲを戻さないのはなぜですか?

水温がいきなり変わるとクラゲに与えるダメージが大きいので、夜のうちにクラゲに適した水温に調整します。機械で水温を調整するのですが、水量が多いので時間がかかるんです。ミズクラゲの場合は、夏は水温を下げ、冬は逆に温めて水温を調整していきます。あ、もちろん、クラゲを戻す時は、ちゃんと数を数えてから戻していますよ。大切に育てたクラゲなので。

山本岳さん

気持ち良さそうに水中を漂うクラゲを見ると幸せ

――こうした大掛かりな掃除を1〜1か月半サイクルで行うのは大変だと思いますが、山本さんがやりがいを感じるのはどんな時ですか?

やっぱり、キレイになった水槽でクラゲが泳いでいるのを見るとうれしい気持ちになりますね。実際にクラゲも喜んでいますし(笑)。

山本岳さん
大きなミズクラゲ

大きなミズクラゲ。体長は約30〜40cmほどにもなるそう

――クラゲの気持ちまでわかるんですね(笑)。

ええ。クラゲ大好きなので、わかりますよ!

山本岳さん

――流石のクラゲ愛ですね。それでは最後に、新江ノ島水族館に訪れる方に何か伝えたいことがあればお願いします!

来館者の方に生物を観察していただくため、水族館としてキレイな水と水槽をキープするのは当然のことだと思いますが、日々の掃除や落水掃除を職員が行っていることをちょっとでも思い出していただけたらうれしいですね。

山本岳さん

※取材は2021年10月に行いました

Spa LaQua「極上の癒し空間は、定期的な掃除があってこそ」

最後に、お話を伺ったのは東京都文京区の人気温浴施設「Spa LaQua(スパ ラクーア)」。自家源泉を使った温泉やサウナ、低温サウナのほか、エステ&リラクゼーション、レストラン&カフェまで揃った温浴施設です。日常の掃除に加えて、約半年に一度行う掃除があると教えてくれたのは、株式会社東京ドームファシリティーズ クリーン事業部の宮脇喬慶さん。温浴施設ならではの掃除について詳しく聞いてみました。

株式会社東京ドームファシリティーズ クリーン事業部 宮脇喬慶さん

宮脇 喬慶(みやわき たかのり)
株式会社東京ドームファシリティーズ クリーン事業部にて、「Spa LaQua」のスパエリアやショップ&レストランエリアなどの清掃管理業務を担当する。
Spa LaQua:https://www.laqua.jp/spa/

衛生管理のため、コロナ禍前から消毒作業を徹底

――普段、Spa LaQuaではどんな掃除をされているんでしょうか?

私たちが毎日行っているのは、水を強く噴射する高圧洗浄機での浴槽の掃除です。それから、サウナ室や水回りのカランブースも手作業で毎日清掃しています。通常、11:00~翌9:00までの営業時間なので、営業開始前の2時間で掃除を完了させなければならないんですよ。浴槽のお湯は毎日抜いて掃除しているので、お湯抜きとお湯張りの時間を除くと、浴槽掃除に使える時間は1時間ほどですね。

宮脇喬慶さん

――えっ、そんなに短時間なんですか!

はい。男性用女性用ともに10名前後のチームでスパエリアを掃除していますが、限られた時間だからこそ緊張感を持ってスピーディーに掃除できています。オープン間際はかなり必死ですけどね(笑)。

宮脇喬慶さん

――スパエリア以外の掃除も担当されているんですか?

更衣室やトイレの掃除、リラックスラウンジの掃除機を使ったバキューム清掃、お客さまが通る動線部分なども同時に掃除していますよ。

宮脇喬慶さん
高圧洗浄機を使って露天風呂を掃除中(写真提供:Spa LaQua)

高圧洗浄機を使って露天風呂を掃除中(写真提供:Spa LaQua)

――なるほど。そもそも毎日掃除していても、汚れってつくものなんですか?

そうですね。人のからだから出る汚れだったり、シャンプーやボディソープなどの蓄積汚れだったり。それに伴うぬめりなども発生するので、毎日掃除が必要なんです。とくにカランブースは、水中のカルシウムやマグネシウムが付着するスケール汚れが目立ちやすい箇所。だから酸性とアルカリ性の洗剤を1日ごとに使い分けて、汚れを付着・蓄積しにくい状態を作るようにしています。一方で週に1回行う掃除もあるんですよ。

宮脇喬慶さん

――どんな掃除ですか?

ブラシやたわしを使っての手作業による浴槽清掃です。

宮脇喬慶さん

――手作業でやられているんですね。どんな手順なんですか?

浴槽内のお湯を抜いたら、まずはお湯と浴槽壁の境目に蓄積してくる温泉の成分を狙って洗剤でこすり洗い。続いて、専用の中性洗剤を塗布してブラシを使って浴槽全体を洗浄します。その後、浴槽内を塩素消毒しています。

宮脇喬慶さん
高圧洗浄機など実際に使っている道具(写真提供:Spa LaQua)

こちらが実際に使っている道具(写真提供:Spa LaQua)

――浴槽全体を一気に洗うのではなく、まずは汚れやすい箇所を狙って掃除するんですね。そうした日々の掃除の中で特に大切にされていることはありますか?

温浴施設に繁殖しやすいとされるレジオネラ属菌を防ぐことですね。レジオネラ属菌はぬめり汚れの中で繁殖しやすいので、Spa LaQuaでは清掃と消毒を徹底しています。

宮脇喬慶さん

定期的な掃除は、美観をより保つため

――Spa LaQuaでは定期的に行われる特別な掃除があるそうで。日頃から掃除やメンテナンスに力を入れているのに、定期的に落とす他の汚れがあるんですか?

浴槽内の床や壁に、赤さびや黒ずみといった温泉の成分による特有の汚れ“アク”が蓄積されてしまうんです。茶褐色の汚れなので美観も損なわれてしまうため、こうしたアクはクエン酸成分がメインの専用洗剤を使って、ブラシでこすって汚れを落としていきます。

宮脇喬慶さん

――こうやって比べるとよくわかりますね!アクを落とすことで、温泉自体の色合いも楽しめそう。

そうなんです。アクを取ってより浴槽をキレイにすることで、温泉のお湯の色合いや美しさを楽しめます。来てくださるお客さまには、からだはもちろん、目からも癒されていただきたいですね。

宮脇さん

――ほかに定期的に掃除されている箇所はありますか?

細菌やカビの繁殖を防ぐため、シャワーヘッドを分解してブラシでこすり洗いしていますね。お客さまからは見えない場所ですが、快適な空間にするため、できることはなんでもやっていこうと考えています。

宮脇さん

――極上の癒し空間を演出するために、お客さんの目に触れないような細部まで磨き上げるんですね。

はい。そういう意味ではカランブースの掃除も同様で、研磨剤不使用の洗剤でひたすら手で磨き上げていきます。研磨剤入りの洗剤を使えば楽ですが、カランブース自体が傷ついて美観を損ねてしまう場合も。だから私たちは、お客さまの目が届かないような、露天風呂の岩もサウナの床下も定期的に掃除しているんです。

宮脇さん
左:カランを手作業で掃除している様子(写真提供:Spa LaQua)

「衛生」も「美観」も大切にした掃除を徹底している(写真提供:Spa LaQua)

お客さんの笑顔を思えば、つらい作業もなんのその

――掃除によって心地いい空間を作り上げていくなかで、宮脇さんがやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?

営業中に館内を巡回することがあるんですが、「ここの施設、とてもキレイだね!」という声が聞こえてくると、とてつもなくうれしくなりますね。ダイレクトにお客さまからリアクションをいただけるのは、やりがいに繋がります。

宮脇さん

――これまでの掃除のなかで、印象的な出来事などがあれば教えてください。

毎年のこととなりますが、梅雨の時期から夏にかけての清掃が大変です。湿度と気温が高いため、この時期に浴室内で服を着て限られた時間の中でからだを動かすのは体力的にシビアで、作業後はスタッフみんなでクタクタになります。

宮脇さん

――まさにプロ根性ですね。最後にSpa LaQuaを利用される方にメッセージをお願いします。

私たちは黒子的存在ですが、皆さんの笑顔のためにこれからも美しい癒しの空間を保っていきたいと思います。Spa LaQuaに訪れる皆さんには、癒しとくつろぎを感じていただき、思いっきりリラックスしていただきたいですね。

宮脇さん

中掃除をお家でも実践してみよう!

大掃除というと年に1回を想像しがちですが、どのプロフェッショナルたちも大掃除まではいかない、名付けるならば“中掃除”を大切にしていることがわかりました。

3施設の中掃除に共通するのは、誰かの快適や笑顔を思って掃除を行っているということ。掃除はただ汚れを落とすだけでなく、その先の気持ちよさに繋がっていることを再認識すると、今年の大掃除のやる気も出てきたかも!

一緒に暮らす家族のためでも、自分自身のためでもいい。今年の大掃除を頑張ったら、ぜひ来年からは家庭でも定期的な中掃除を心がけてみませんか。

撮影:栃久保誠(新江ノ島水族館のみ)
編集:ノオト

・当記事に掲載の情報は、取材対象者の見解で、全てがライオン株式会社の見解を示すものではありません。

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