「獅子印ライオン歯磨」の想いを次世代に!デザイナーの卵たちとこれからのハミガキを考えてみた
明治時代に登場し、オリジナリティあふれるパッケージデザインと啓発啓蒙活動で「歯みがき」という行為の習慣化の一翼を担った「獅子印ライオン歯磨」。そのパッケージデザインや商品に込められた想いなどをふまえて、"くらしの豊かさ"を高めてくれるようなハミガキを、東京デザイン専門学校の学生たちに考えていただくことに。未来のデザイナーの卵たちが考えてくれた作品は、どれも「こんなハミガキがあったら楽しそう!」と思えるアイデアばかりでした!
「歯みがき」という習慣がまだまだ浸透していなかった時代に登場した「獅子印ライオン歯磨」。商品の質にこだわるだけでなく、独自のパッケージデザインや啓発活動などを取り入れることよって「歯みがき」の習慣化に大きく貢献し、人々の健康をサポートしてきました。そんな「獅子印ライオン歯磨」をお手本に、これからのくらしを豊かにするハミガキを改めて考えてみたい…!そこで、Lidea編集部は、まず「獅子印ライオン歯磨」の歴史を振り返るところからスタートすることに。
歯みがきの習慣化につながった「獅子印ライオン歯磨」はこうして生まれた。
今ではみんな当然のように行っている「歯みがき」ですが、かつて日本でもまだ歯みがきが一般的ではない時代がありました。大人も子どもも虫歯があり、健康が損なわれていたのです。
そんな時に登場したのが、「獅子印ライオン歯磨」。明治29年(1896年)、文明開化によって日本にも西洋文明が広まり、生活者の価値観や生活意識が大きな変化を遂げていた時代でした。
人気商品となるだけでなく「歯みがき」の習慣化を促した「獅子印ライオン歯磨」。当時どのようなこだわりのもとデザインされ、世に知られるようになっていったのか…。歴史を知ることで、今にもつながる気づきを得られたら!そこで、社史資料室の伊野波美恵子さんと、パッケージデザイン室の松田徳巳さんに、詳しいお話を聞いてみました。
「獅子印ライオン歯磨」のパッケージでまず目がいくのが、中央に書かれたライオンのイラスト。そこには、さっそく驚きの事実が…。
伊野波「獅子印ライオン歯磨」が発売されたのは1896年なのですが、日本の動物園に初めてライオンが来たのは、その6年後の1902年。1886年にサーカス団がライオンを初めて連れてきたという記録はありますが、まだライオンがどんな動物なのか一般的には知られていない時代にモチーフとして採用されているんです。だからか、ライオンの表情がちょっとリアルと違っているのが興味深いですよね(笑)」
たしかによくよく見ると人間味を感じる不思議な表情!パッケージのイラストのライオンの力強い存在感と強靭そうな歯は、たくさんの人の目を引いたことでしょう。
松田「このパッケージがたくさんの人の手に取ってもらえた理由としては、ライオンという珍しい動物をモチーフにしているほかに、西洋の流行りのデザインを取り入れているのもあると思います」
伊野波「初代・小林富次郎が創業した頃は、海外からの輸入品とともに西洋様式のデザインを目にすることが多くなった時代です」
松田「当時、西洋ではアール・ヌーヴォーなどの美術運動が盛んでした。その影響を強く受けて、アール・ヌーヴォーの特徴的なスタイルである有機的な曲線を描く植物モチーフが取り入れられているんです。あと初期のデザインは、日本の製品なのに日本語がいっさい書かれていないんですよね」
伊野波「西洋の文化の影響を大きく受けた時代で、英語だけのパッケージは高級化粧品のようでかっこいいと思ってもらえたのかもしれません」
ライオンと植物モチーフと英語…そして色数も少ないシンプルなデザインですが、それが逆に洗練された印象につながり、人気商品となった可能性があるんですね。このデザインに加え、歯をみがいて口の中を衛生的に保つことの重要性についての講演会を実施するといった啓発活動によって、歯みがきの習慣化につながっていったのです。
くらしが豊かになるハミガキってどんなもの?オリエンを実施!
こうしてかつての人々の生活に健康と豊かさを広めていった「獅子印ライオン歯磨」。デザインのこだわりや想いを、現代の解釈でハミガキに落とし込んでみたら、また新しい発見があるかも…!ということで、専門学校でデザインを勉強中の学生のみなさんに考えていただくことに!
そこでやってきたのは、東京・原宿にある東京デザイン専門学校。生徒のみなさんに「獅子印ライオン歯磨」のこだわりを現代に置き換え、これからのハミガキを考えていただくべく、オリエンテーションを実施しました。
「獅子印ライオン歯磨」が生まれた当時の時代背景やデザインのこだわりに加え、その根底には今にも引き継がれる「豊かなくらしに貢献したい」という想いがあったことをLidea編集部からご紹介。
それを踏まえ、当たり前のように歯みがきを行うようになった現代において、「歯みがきを通して暮らしが豊かになるには、どんなデザインのハミガキがあると良いか?」をテーマに作品を考えていただきます。
オリエン終了後、参加してくれる学生のみなさんから、説明を受けての率直な感想や意気込みを聞いたところ…
「生活の中で身近に触れているデザインがどんな風に考えられているのかとか、歴史について知れて楽しかった!」
「『この人がパッケージをデザインすると絶対に売れる』と言われているような人がいるように、やっぱり最初は中身を知るよりもデザインで手に取っちゃうのかなと。パッケージデザインって改めて大事だなと再認識しました」
と「獅子印ライオン歯磨」のデザインについて興味を深めてくれた方がたくさん!そのほかにも、
「歯の矯正をやっているので歯の健康にも興味があり、いい機会だったのでやってみたいと思いました!」
「まだ1年生で、企業の方と関わって何かを作るのは初めてなので楽しみです!」
という素敵な意気込みも。
熱心な学生たちの姿に、どんなアイデアが飛び出してくるのか期待が膨らみます…!
学生プレゼン!若きデザイナーの卵たちが考える、「豊かなくらしを叶えるハミガキ」
オリエンテーションから約1カ月後。学生たちによるプレゼン大会を開催しました!今回参加してくださった12名・10チームの中でも、今一般的に使われているチューブ型ハミガキの域を超え、「こんなハミガキがあったら楽しそう!」と思わせてくれた作品を2つご紹介します。
■クリエイティブアート科 野本有紗さんの作品
クリエイティブアート科の野本有紗さんが考えてくれたのは、ハミガキに好きなフレーバーをプラスできるというアイデア。
「忙しい朝、歯みがきをする間だけでも、より充実した時間になったらいいなと思いました。毎日、何の味にしようかな?って考えるのって楽しいはず。獅子印ライオン歯磨は色味をおさえて新しさを表現したということだったので、私も美容液のようなボトルとスポイトのデザインで新しさを表現してみました。店頭に並んだ際に人の目を引くと思います」と、野本さん。
■クリエイティブアート科 鶴田翔子さんの作品
次は、同じくクリエイティブアート科の鶴田翔子さんの作品。鶴田さんが提案するのはまるでキャンディーやグミを彷彿とさせるようなハミガキで、口に含むとキューブのコーティングが溶けてジェル状のハミガキが出てくるというもの。
「私が好きな“透明”をテーマに、ちゃんと効果がありつつ、使うのが楽しいハミガキを考えました。2粒ほど口に入れてもらうと、ジェル状のハミガキが広がって歯に染み渡るので、それで歯をみがきます。私は甘いものを食べると歯にしみる感じがして、それが虫歯になりそうでいやだなと思っていたんです。なので逆にハミガキがこのように歯や歯茎に染み渡ったらいいなと思い、このデザインにしてみました」
悩みに悩み、2作品ご紹介しましたが、他のみなさんのアイデアも気づきがたくさん!
作品を見てみると、ハミガキの使いやすさを見直すことで新しい歯みがき体験を提供したいという機能性を重視したアイデアと、使う人に楽しい気持ちになってほしいという想いが起点になっているマインド重視のアイデアの、大きく2つに分けられました。
機能性重視アイデアでは、「毎回一定量が出る」、「詰め替えができる」といった、「そういう風に使えたらいいかも!」と思えるようなポイントがたくさん出てきました。
一方で、マインド重視アイデアでは、「気分が上がって楽しくなるように」「がんばっている人を応援する」といったメッセージが詰め込まれていました。
ピュアで自由な発想で、歯みがきの時間がより豊かになるようなアイデアイメージを表現してくださいました。
歯みがきが「やること」から「楽しいこと」に
「獅子印ライオン歯磨」の誕生から現代においては、主に口内衛生が保たれ、健康であることがくらしの豊さにつながっていましたが、学生のみなさんに「豊かなくらしとは?」というところから掘り下げてハミガキアイデアを考えていただいたことで、歯みがきが“日々やるべきこと”から、“楽しくなること”“心地よいこと”と、よりポジティブな行動や習慣になる可能性があることに気づかされました。
学生のアイデアを見たパッケージデザイン室の松田さんも、
「学生のみなさんがそれぞれの視点で“豊かなくらし”がどのようなものなのか深堀りされていて非常に興味深いですね。ハミガキがチューブに入っているものという固定概念をリデザインしようとする姿勢が新鮮でした。特にキューブ型(グミ型)ハミガキのアイデアは、剤型そのものをデザインし、歯みがき行為をライフスタイルへ変容させようとしていて興味深かったです。ほかのアイデアも歯みがきという行為をとらえ直そうという気概があり、若者の柔軟性を感じました」
と、若者ならではの歯みがきの再解釈に驚いたよう。
「獅子印ライオン歯磨」と学生たちのデザインアウトプットはまったく違いますが、それぞれの時代における“くらしの豊かさ”が反映されたもの。未来のデザイナーの卵たちのアイデアを通し、これからの歯みがきを考えていく上での気づきを得ることができました!
東京デザイン専門学校のみなさん、ありがとうございました!
この記事を書いた人
常松亜子
編集ライター兼翻訳者。小学生時代に神奈川県藤沢市から米・ロサンゼルスに引っ越し、シンガポールを経由して、東京に落ち着いて早十余年。フリーランスで雑誌やWEBメディアを中心に活動中。音楽フェスに合わせて、どこかしらの土地へと旅行に出かけるのが毎年の楽しみ。
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