僧侶・松本紹圭さんに聞く|心が整う「ちょうど良い」朝掃除
人に相談するまでもないけれど、誰もが抱えている小さなモヤモヤ。そんなちょっとした悩みは「朝の掃除」でスッキリしてみてはいかがでしょうか。今回は、ライター鬼頭佳代が、光明寺僧侶・松本紹圭さんに小さな悩みを聞いてもらい、松本さんが提唱する「心を整える朝掃除」を実践。気持ち良く1日をスタートするキーワードは"ちょうど良い"でした。
はじめまして。ライターの鬼頭佳代です。日々、仕事も趣味も楽しんでいるつもりですが、小さな悩みごとは尽きません。自分の中ではモヤモヤしていても、「他人から見たら、大した悩みじゃないだろうなぁ」と思うと、友人や同僚には相談できず…。
何か手軽にモヤモヤを取り除くことは出来ないかな…。そんな時に手にとったのが、『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』。でも、掃除で心が整うって一体どういうことだろう?その真意を教えてもらうため、著者である光明寺(こうみょうじ)の僧侶・松本紹圭さんを訪ねました。
松本 紹圭(まつもと しょうけい)
1979年北海道生まれ。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。若手住職にお寺経営を伝える「未来の住職塾」を運営。著書に『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』『こころを磨くSOJIの習慣』(ともにディスカヴァー21社)など。
都会の真ん中にある光明寺を訪ねました
境内に足を踏み入れると、周囲がオフィス街であることを忘れてしまうほど緑豊かで静かな空間が広がっています。
ちょっぴり緊張している私をやさしく出迎えてくれたのが、松本紹圭さんです。
「こちらにどうぞ!」と案内していただいたのは、階段を上がった2階。
ここは境内にある、「神谷町オープンテラス」。お参り時の休憩スペースや、平日は近隣のオフィスで働く人たちの憩いの場として活用されているそう。誰でもふらっと立ち寄ることができ、この日ものんびりくつろぐ方がいらっしゃいました。
松本さんに悩みを聞いてもらいました
鬼頭「仕事のミスや他人の言動などで悩んでいた時に、松本さんの『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』を読んだんです。掃除で心が整うのなら、小さなモヤモヤも少しはスッキリするのかな、と」
松本「ありがとうございます。ちなみに、普段どんなことで悩んでしまうんですか?掃除の話の前に、よかったら聞かせてください」
鬼頭「え。悩みを相談してもいいんでしょうか」
松本「はい、どうぞ。もしかしたらお役に立てるかもしれません」
鬼頭「そうですね…。最近は、仕事とプライベートの『オン』『オフ』をうまく切り替えられないのが悩みです。家でも仕事のメールを見てしまうクセが抜けなくて」
松本「切り替えって難しいですよね。ご法事がいつ入るか分からないので、お坊さんもこの日はお休みと決めることはなかなかできません」
鬼頭「なるほど、そうなんですね」
松本「でも、自分をゆっくり休める時間は必要です。私の場合、その時間を作るために『自分の意志』をあまり信じないようにしているんです(笑)」
鬼頭「どういうことですか?」
松本「たとえば、『今日は集中する』と決めても、なかなかできない日もありますよね。それほど、意志って当てにならないもの。だったら、意志を強く持つより集中を邪魔するものをなくす環境を整えるのが大事なんです」
鬼頭「やる気を頼りにするのではなく、デスク周りを整える…とか?」
松本「そうです。環境づくりは、続けると『習慣』になります。仏教の基本的な教えに、3つの学びを意味する『三学(さんがく)』という言葉があります」
鬼頭「三学?」
松本「1つ目は『戒(かい)』。戒律、つまり生活を整え良い習慣を身につけること。2つ目は『定(じょう)』。これは集中力、こころを制御して平静を保つこと。最近では、マインドフルネスともいいます。3つ目は、『戒』と『定』により、世界や自分の正しい見方である『慧(え)』が生まれるという考え方です」
松本「たとえば、週末だけ座禅をしても平日に今まで通りに生活をしていたら、なかなか日々の暮らしは良くならない。だから、少しずつ毎日続けて習慣にするのが大事です」
鬼頭「うーん、でもそれが難しくて…」
松本「人間は習慣の生き物です。電車のきっぷを買うのも、最初は難しかったはず。でも、今では無意識にできますよね。鬼頭さんの悩みでいうと、オンオフの切り替えを習慣にできないのにも何か環境に原因があるはず。自分の状況を一歩引いて見るのが第一歩です」
鬼頭「言われてみれば、そもそも寝る直前までスマホを使っているのが良くないのかも」
松本「そうそう。無意識にやっているリラックスできない原因を見つけたら、それを取り除く習慣にできないか、考えてみましょう」
鬼頭「なるほど。23時を過ぎたらスマホの電源を切るだけでも、オンオフの切り替えをしやすい環境づくりになるかもしれません」
結果が見える掃除には“セラピー効果”がある
「悩みは環境を整えることによって改善に近づく」というヒントを聞き、心がすとんと落ち着きました。これは、松本さんが提唱する朝の掃除が1日を良くするという考えにも通ずるものがありそう…。
鬼頭「松本さんは毎朝の掃除が環境、さらに心を整えるきっかけになるとお考えですよね。それはどうしてですか?」
松本「掃除にはセラピーのような効果があると思っています。たとえば、一生懸命やったのにうまく作業が進まない日とか、組織のなかで自分の仕事にどういう意味があるのか分からなくなる日ってありませんか?」
鬼頭「あります…」
松本「現代は、手触りのある結果が感じにくい。でも、掃除したらその場所は必ず少しきれいになります。だから結果が得られセラピーの効果につながる。キャッチボールみたいに『やっていること自体』を楽しめる行為で、初心者も上級者もないから気後れする必要がなく、ちょうど良いのです」
鬼頭「ちょうど良い?」
松本「そうです。仏教には『中道(ちゅうどう)』という考え方があります。お釈迦様は苦行(ハードな修業)で身体を痛めつけていたけれど、最終的には菩提樹の下で心を落ち着けて瞑想をし、悟りを開いた。つまり極端ではなく、中道、ちょうど良いところが大事だと。
ちょうど良さって分かりそうで分からないですよね。それに、自分以外の人も環境も変化する中でならなおのこと。だから、常に中道を歩み続けるのは意外に難しいし、終わりがありません」
鬼頭「掃除は、そのちょうど良さにつながるんですね」
松本「そうなんです。よかったら今から一緒に掃除してみませんか?」
掃除は“いい加減”でも大丈夫
あちこちに散らばる葉は石畳に引っかかったり、掃除をし終わったところもよく見ると残っていたり。夢中になっていると、あっという間に15分が経っていました。
鬼頭「落ち葉って、なかなか取り切れないですね」
松本「掃いている間にも葉は落ちてきますからね。だから、気合いを入れすぎず、まあまあいい加減にやる。ちょっとでもキレイになったらそれでよし!とするんです。掃除は完璧主義に見えて、実は反対なんですよ」
鬼頭「そうなんですか?」
松本「完璧にキレイにできなくてもいいし、掃除すらできない日があってもいい。うまくいかなかったことに必要以上にがっかりしすぎると、立ち止まってしまう。だから、できなくても、『こんな日もあるかな』と受け入れて、次の日にまたやってみる。これもまた中道に通じます。とにかく大事なのは続けることです」
鬼頭「でも、朝は忙しくて時間が作れるかちょっと不安です…」
松本「短い時間でもいいですよ。ただ、もし掃除以前に慌ただしいならば、早く寝て30分早く起きる。まずは、掃除をしやすい環境を作ることです。それが習慣になれば、できない時も理由や原因に気づけるようになります」
鬼頭「できることから、やってみようと思います。今日はありがとうございました」
ちょっとした朝習慣が、気持ちの良い時間を作るきっかけに
取材後、まずは毎朝ほんの数分だけですが、シンクと床の簡単な掃除を始めました。すると、気持ちがスッキリして、朝から心にゆとりが生まれるように。気負わずにやっているせいか、三日坊主にならずになんとか続いています。
オンオフの切り替えも同じ。スマホの電源を切ってしまうのはまだちょっとハードルが高いけれど、夜は照明の灯りを落とすようにしました。自分なりにリラックスモードに気持ちを切り替えるスイッチを見つけられたかもしれません。
それぞれは小さな習慣ですが、少しずつ環境を整えることが、日々を心地良く過ごすきっかけになるのを実感。どちらも、無理なくちょうど良く、続けていきたいと思います。
編集:ノオト
撮影:小野奈那子
当記事に掲載の情報は、執筆者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
鬼頭佳代
1991年生まれ。有限会社ノオト所属の編集者・ライター。五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」管理人もしています。レトロ喫茶と宝塚歌劇が好き。休日は劇場と喫茶店を行ったり来たり。最近は早起きを頑張っています。
X(旧Twitter):https://twitter.com/Kayo_Kitoh
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