苦手な味を克服するために「味覚」の謎を調査したら、夫との絆が深まった
みなさんは、苦手な「味」はありますか?苦手な食べ物や飲み物を、大人になってから克服するのは、なかなか難しいもの...。そこで、日本酒が苦手なライターのかしみんが、九州大学で味覚の研究をする都甲潔先生に、苦手な味を克服する方法について聞きました。その結果、夫婦の絆が深まることに...?
こんにちは。ビールを飲みながら失礼します、ライターのかしみんです。
結婚4年目、お互いにフリーランスの私たち夫婦は、ミニバンで年中旅行をしながら旅先で仕事をしています。夫が運転してくれるので、私はいつも助手席で応援する係です(夫よ、いつもありがとう……!)。
さて。旅の醍醐味といえば、その土地ならではの料理やお酒ですよね。私たちは、食べることが大好きなのんべえ夫婦なので、旅先では地元の居酒屋に立ち寄るのがお決まり。郷土料理とともにお酒をたしなむのは、たまらないひとときです。
ただ、ひとつ問題がありまして。私はお酒が好きなのですが、日本酒だけがどうしても苦手なんです。おいしそうに地酒を飲む夫を見ていると、「一緒に日本酒を楽しめたらなあ」と思います。夫と同じものを飲んでおいしさを共有できたら、もっと楽しい時間を過ごせるはずなのでは…!
日本酒を克服するため、味覚に詳しい先生に話を聞いてみました
私はなぜ日本酒が苦手なんだろう?ビールも焼酎もワインも好きなのに。そもそも、味の好き嫌いは、どうして生まれるの…?
夫とさらに楽しい時間を共有するためには、まず味覚についてしっかり理解しなければいけない気がしてきました。味の感じ方や、人それぞれの味覚の違いが分かれば、私の日本酒に対する苦手意識も解決できるのではないだろうか、と。
こうして味覚についていろいろな疑問が浮かんだ私は、「味覚」の研究をしている九州大学 五感応用デバイス研究開発センターの都甲潔先生に詳しい話を聞くことにしました。
都甲 潔(とこう きよし)
1997年九州大学大学院システム情報科学研究院教授着任。その後は一貫して同研究院に在籍し、2013年味覚・嗅覚センサ研究開発センター長に。現在は特任教授。味覚を数値で表すことができる味覚センサーを世界で初めて開発し、2006年度文部科学大臣表彰・科学技術賞、2013年春の紫綬褒章など数多く受賞している。『味覚を科学する』(角川選書)、『プリンに醤油でウニになる』(ソフトバンククリエイティブ)など20冊以上の著書のほか『世界一受けたい授業』(日本テレビ系列)などメディア出演も多い。
なぜ人によって好き嫌いは違うの?味覚の感じ方とは?
よろしくお願いします!今日は、嫌いな食べもの(飲みもの)を好きになりたくて、先生に相談しにきました。
はい、こんにちは!よろしくお願いしますね。
まずは、味覚の基本からお話ししましょうか。味覚には、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の五味があります。人間はこの5つの味を、舌(味蕾/みらい)で受け取っていますが、味覚の好き嫌いは、すでに舌の時点で先天的に決まっています。
えっ、そうなんですか?
人間は、甘味・塩味・うま味は「好きな味」。酸味・苦味は「嫌いな味」に感じるようにできています。舌が「好き」と感じる味を受け取れば、脳が快感状態となり「おいしい」と感じる。一方で、舌が「苦手」と感じる味を受け取れば、脳にストレスがかかり「おいしくない」と感じるわけです。
ええ~そうなんですか!
人間が甘味・塩味・うま味を好むのは、エネルギー源やミネラル、タンパク質といった生きていくために必要な栄養素のシグナルだから。塩味は海産物の味を
強める効果もありますよね。酸味・苦味を嫌うのは、毒物や腐ったものといった危険を知らせるシグナルだからですよ。
味覚の好き嫌いは、舌の感じ方で決まる…ということは、生まれたときからある程度、食べ物や飲みものの好き嫌いが決まっているんですか?でも私は、酸っぱいものも苦いものも平気なのですが…。
それがね、おいしい・まずいと感じるのは、舌だけで決まるわけではないんです。おいしさは、舌の感じ方に加えて、後天的な理由で変わります。
後天的…?
今までの経験など、複雑な要素が絡み合って総合的な味を感じているんです。
これまでの経験が味の感じ方を左右するわかりやすい例としては、「ビール」。ビールは苦いけれど、「お酒はビールばかり飲む」という人もたくさんいる。それは、これまでビールを飲んできた空間が、楽しいものだったから。好きな人と一緒に飲んだり、仲間とワイワイ盛り上がったりして、ビールに関する良い思い出がたくさんあるんです。
確かに、昔はビールが苦くて飲めませんでしたが、いつのまにか好きになってました。
昔苦手だったものが克服できるのは、苦手なものに対していい思い出をもつことで、恐怖心がなくなったためです。
逆に、特定の食べものに関して嫌な思い出があれば、なかなか好きにはなれません。大人になっても嫌いな食べものが克服できない場合は、過去のトラウマが影響しているかもしれませんね。
日本酒が苦手なワケは「ニオイ」だった…?
私、お酒は好きなんですが、日本酒だけはどうしても苦手で…克服したいと思っているんです。でも、日本酒に関しての嫌な思い出もないし、どうして苦手なんでしょう?
そうねえ。人間は本来、本能的に甘いものが好物だから、日本酒は甘いのが多いし、好きになってもいいはずだけど。もしかしたら、ニオイが原因かもしれません。
ニオイ、ですか?
そう。周りの専門家も言っていましたが、吟醸香や醸造用アルコールのニオイが苦手で、日本酒を好きになれない場合もあります。
あー、言われてみれば、日本酒特有のアルコールの香りに「ウッ」と来るかもしれないです…。
味覚と五感は、密接に関係しています。例えば、目の前にりんごがあったとき、まずは目で見て「熟していておいしそう」と判断する。次に、鼻に近づけてニオイをかぎ「甘くて良い香りだ」と判断する。次に、歯でりんごを噛んで「サクッとしていて新鮮だ」と音と食感で判断する。そして最後に、舌で味わうんです。
ニオイをはじめとした五感も、味を決める要素だ、と。
先ほど、情報や経験は味を決める要素だと言いましたが、視覚・嗅覚・聴覚・触覚も同じ。舌だけではなくこれらを総集して、人間は脳内で「味」と認識しています。
なるほど…。甘味や塩味といった「味覚」は舌で感じるけれど、私たちがおいしいと感じる「味」は、五感や過去の経験などたくさんの情報で感じるものなんですね!味の世界は奥が深い…。
ニオイに関しては、とある実験があります。被験者が鼻をつまみながら、オレンジジュースとりんごジュースを順番に飲みました。すると、驚くことに「オレンジジュースとりんごジュース、どちらも味が変わらない」と言ったんです。
嗅覚が働かなかったことによって、味の変化を感じられなかった。つまり、ニオイは味を判断する重要な要素だったんです。ね、興味深いでしょ?
そんなことってあるのか…!確かに、鼻が詰まっていると味を感じづらいし、ニオイで味を判断している部分もあるんですね。
ズバリ!私は日本酒を克服できますか?
なぜ日本酒を苦手だと感じるのかわかって、すっきりしました!
好みは人によって違うし、無理に日本酒を好きになろうとしなくて大丈夫だと思いますよ。日本酒以外のお酒が飲めるなら、そっちを楽しんではどうですか?
実は、私が日本酒を好きになりたい理由のひとつが、夫なんですよね。夫が日本酒大好きなので、楽しく一緒に飲めたらなと…。
あら、そうですか。それはすばらしいことです。絶対に克服できないわけではないので、いくつか方法はあります。例えば、料理の隠し味として日本酒を使い、だんだんと味に慣れるとか。あとは、料理と相性の良い日本酒を選ぶのもよいですね。チンジャオロースなどのこってりした料理にはキレがあって軽快な日本酒を、カツオのタタキなどのさっぱりした料理にはキレがあってコクがある日本酒を合わせるのがおすすめです。
料理との組み合わせですか!ぜひ試してみたいです。
いろいろと方法はありますが、結局のところ、好きな人と食べて飲むのがいちばんです。どんなに高級な食材を使った料理も、楽しくない空間で食べると、おいしく感じられません。でも、好きな人と食べる料理なら、いつもよりもおいしく感じられる。
これまでの経験が味に左右するから、ですか?
それもありますが、好きな人と一緒にいることで、脳内に快感物質が出て、おいしい料理を食べたときの快感と合わさって、相乗効果が期待できるからです。だから、パートナーとニコニコしながら日本酒を飲むのが、苦手を克服するための近道です。
夫婦で日本酒を囲んで楽しい時間を過ごせば、良い思い出として記憶に残り、日本酒のことが好きになっていく、というわけですね!
その通り!夫婦仲が良ければ、きっとどんな苦手な味でも克服できますよ。日本酒を何種類か飲み比べてみて、論評大会をするのも良いと思います。日本酒の世界は奥深いですから「これは甘くてすっきりしている」「これは深みがある」と感想を言い合って、ぜひ盛り上がってみてください。
論評大会、おもしろそうです!
あとは「甘くておいしいね」と口に出すことによって、「日本酒=甘くておいしい」と情報が脳にインプットされて、不思議と本当においしく感じることもあるかと思います。私の妻ものんべえで、よく一緒に酒蔵に行っています。妻と飲んでいると楽しい気分になってきて、いつもよりもお酒がおいしく感じるんですよ。
先生も実体験されているんですね! 夫婦愛が感じられるすてきなエピソード……。
妻は、「味覚を研究する」という私の人生に、少なからず影響を与えてくれています。私は小学生の頃からにんじんが嫌いで、さらに給食で無理やり食べさせられていた思い出から、大人になっても苦手意識をもっていました。
でも、ある日、妻が私の健康のために、にんじんをすりおろして入れたハンバーグを作ってくれたんです。まったくにんじんに気づかなかったし、むしろおいしいと感じた。この経験があったことで、「味の不思議を解明したい」と少なからず思うようになったんです。
奥様がいたからこそ、今の先生がいるんですね…!
冗談めかしでいっていますが、半分本当みたいなところですね(笑)。
食事は人と人をつないでくれる場所なので、好きな人とコミュニケーションを楽しむべきだと思うんです。誰かと一緒に食事をする「共食」は、人間の特権ですから。だからかしみんさんも、ぜひご主人と楽しいコミュニケーションを意識しながら、日本酒を召し上がってみてください。楽しい思い出を積み重ねていけば、きっと日本酒をおいしく感じるようになると思いますよ。
早速、食事の場でのコミュニケーションを意識してみようと思います!先生、本日はありがとうございました!
先生のアドバイスを参考に、日本酒にチャレンジ!
先生に味覚の話を聞いてみて、夫と一緒にいたら、なんだか日本酒を克服できそうな気がしてきました…!
というわけで、近いうちに旅先のホテルに滞在する予定があったので、実践してみることに。
私「日本酒飲めるかな〜。なんだかドキドキしてきた」
夫「きっと大丈夫!その日本酒は甘くてすっきりしているから、飲みやすいよ」
私「!! ちょっとニオイが強いけど、いつもよりおいしく感じるかも」
夫「でしょでしょ! こっちににごり酒もあるから、飲んでみてよ!」
夫からの「甘くてすっきり」という情報をもとに、ゆっくりと味わってみると、意外とおいしいことが判明。今まではニオイが先に来て「ウッ」となり、日本酒に対して「おいしくない」と先入観があったのかもしれません。
完全に克服したわけではありませんが、こんな時間を定期的に過ごせたら、日本酒の深みにハマっていける予感がしました…!
そして何より、好きな人と一緒においしいものを共有できるのが、こんなに幸せなんて。心なしか、食卓にいつもよりも笑顔が多かった気がします。先生の言う通り、食事は大切なコミュニケーションの場なのだと実感しました。
楽しかったから、次の旅先でも日本酒にチャレンジしてみよう。今日は、ほろ酔い気分で眠りにつくとします。
・当記事に掲載の情報は、執筆者の個人的見解で、ライオン株式会社の見解を示すものではありません。
この記事を書いた人
かしみん
1994年生まれ。フリーのライター・編集者。お酒をたしなむ時間と眠りにつく瞬間がだいすきです。人生のBGMはサザンオールスターズ。とろけるチーズは飲みものだと思って生きています。
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下記のコメントを削除します。
よろしいですか?
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